2 ヨメヲモライナサイ
ヨメヲモライナサイ。
何の魔法だろう。
属性すら見当がつかない。
「師匠、すみません。ヨメヲモライナサイとは何ですか?」
「そのまんまの意味だよ」
「それがわからないのです」
「お前ももう十七だろう」
「はい」
「奥さんを貰いなさい」
「オクサンて何ですか?」
「奥さんは奥さんだよ。妻、伴侶、家内、配偶者、連れ合い、細君、女房、かみさん」
「結婚しろってことですか?」
「そうだよ。何でこんなに時間がかかるの。お嫁さんに他に意味ないだろーが」
「すみません。自分と結婚が結びつかなかったもので」
「まあ意味は分かるな?」
「わかりますけど、わかりません。何故俺が結婚しなければならないのですか?」
「才能があるからだ」
「魔法使いの才能は遺伝しないと師匠がおっしゃられたじゃないですか」
「それはそうだ。魔法使いの才能は必ずしも遺伝しない。一代限りで終わった家は五万とある」
「じゃあしなくて良いのでは?」
「お前は結婚を何だと思っとるんだ。子孫を残すためだけに結婚するんじゃないぞ、人間は」
「そうですか」
「そうだよ。この人とずっと一緒にいたいなぁと、一緒に暮らせたらいいなぁって、最初はそうなんだよ」
「最初は?」
「まあ、時の経過ともに、嫌、まあ、それはいいな。兎に角結婚してくれ。俺のために」
「師匠のためにですか?」
「ああ、そうだよ。お前は俺の一番の愛弟子だろう?」
「そう言っていただけて光栄です。師匠が望むなら何とか結婚してみせます」
「それは頼もしい。そしてここからが本番だ。結婚するだけじゃだめなんだぞ。愛さないと」
「それはどうしてですか?」
「愛のない結婚生活に意味はないからだよ」
「難しいです。愛と言われましても、俺は愛と言われるものがわかりません」
「カノン、それは教えられてわかるものじゃないんだよ」
「じゃあ無理です」
「簡単に諦めんなよ。死にかけの師匠の願いを叶えてやりたいんだろ?」
「はい」
どうしても死にかけているようには見えないけど、師匠が俺にして欲しいというなら何だってしたい。
期待に応えたい。
師匠は俺に全てを与えてくれた人だから、少しでも恩を返したい。
でもやっぱり死にかけてるようには見えない。
山盛りのドーナツはいつの間にか空っぽだし。
奥さん呼んでもうないのか聞いてるし。
「カノン、それでだな」