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星、自然、環境

母の桜が咲いた

作者: 池畑瑠七

母の桜が咲いた 

4度目の命日 その日に

昨夏の酷暑に次ぐ酷暑の日々も

長く激しく続いた雨も

厳しい寒さの冬も 雨のない乾ききった日々も

乗り越えてくれた


4年前の春 母の葬儀の日

伯母が手渡してくれた白い袋

そこに包まれていたのは山桜の挿し木だった

少しばかりの葉っぱを付けた細い枝を

袋の口から 遠慮がちに覗かせていた


それは父がかつて自宅で育てていた山桜の分身だった

30年ほども前 父が亡くなった時

葬儀に参列してくれた兄夫婦が

父の故郷の地へと持ち帰り

庭に植え 大切に育ててくれていた

大きく育って毎年 訪れる遅い春を喜び祝うように

満開の花を咲かせ続けてくれてたのだという


その枝を挿し木にして

母の葬儀で持ってきてくれたのだった


30年の時を経て 里帰りとなった桜

有難く持ち帰りベランダに置いて育てていた

翌年の春には 2輪だけ蕾がつき

小さな白い花たちが開いた

それは本当に不思議なことに

母の1年目の命日だった


その後 庭の隅に植え替えて3年がたった

2年目 3年目

年を越す度に厳しさを増す夏の暑さ 長雨

そして極寒の冬も これでもかと訪れる


そんな中で彼は静かに じっと耐え続けていた

夏の強烈な日差しに焼かれて 

小さな葉が枯れ落ちたときもあった

背もちっとも大きくなる様子がないし

もしかしたら

次の春は もう咲かないかもしれないな…

諦めかけていた矢先だった


今はまだ 腰下くらいまでしか樹高はないけれど

低く地を這うように広げた幾本かの枝たちのなかで

一番空に近く伸ばした細い枝 その先に2輪

別の枝に もう1輪

三つの白い花をそっと 咲かせてくれていた


他の細い枝たちには 

爪の先くらいに小さな赤紫の葉っぱたちが

たくさん たくさん

たくさん 芽吹いていた



今年も命日に 母の桜が咲いた

母の桜はしっかりと この大地に根を張り

厳しい日々を耐え 乗り越えてくれていた

父と母の桜になって 傍に居てくれた


「大丈夫」「がんばれよ」

小さな桜が 励ましてくれてるようで

嬉しくて思わず涙した


そういえば墓参り

遠くなってから随分行けてなかったなあ

父と母の墓の上には

雲のように見事な桜が毎年満開になる

あちらはもう盛りを過ぎ

きっと青葉が茂り出している頃だ


父の大好きだった月餅と

母の大好きだった夏ミカン持って


また 会いに行くね









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