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聖女とシェリス

「お祖父様ばかり、兄さんと話しててズルい。僕だって、兄さんとお話したいのに」


 どうやら弟は会話の中に入れないということが気に入らないよう。いや。正確には俺がフリックを無視して、おじいちゃんとお話しているからだった。

 

 弟は涙目になりながら、口を尖らせている。


「……はあー。わかったよ。構ってやるから。な?」


「……っ! うん!」


 一気に明るい表情になったフリックを見て、かわいいやつだなと思ってしまった。



 一通りフリックを構いたてた後、テーブルを囲んで聖女についての話を再開させた。


「あの連中が、俺のこの髪……銀髪と、赤い目を見て【聖女】って言ったことは覚えているよ」


 俺とフレンを捕まえた男たちは、聖女という存在に執着していたように思える。そこで俺はハッとした。


 ここは小説の世界であるということ。俺が現実世界で読んでいた小説の中に、聖女という存在があったこと。

 今思えば、今まで俺が辿っていたのは、その聖女がこなすイベントだったはずだ。

 船での幽霊騒動も、本来なら聖女が体験するイベントだった気がする。あの黒い虫事件はわからないけれど、王都での誘拐事件だって聖女が主役だった。

 何よりもフリックは、その聖女の恋人候補だったんだよな。フレンやその兄、ルドガーさんもそうだったんじゃないかな? 

 それが今や、フリックは俺という双子の兄だけ見ている。


 そもそもな話、俺という双子の兄自体、あの小説の中には存在してはいなかった。


 これらを踏まえて総計すると、間違いなく俺が物語を変えてしまっている。そのことに気づくと、全身から冷や汗が出てきてしまった。


「に、兄さん!? 大丈夫!?」


 心配そうに顔をのぞきこむ弟に、俺は無理やり作った笑顔を見せる。


「だ、大丈夫だよ」


 目の前に座る大人二人に視線をやった。


「おじいちゃん、それから父さん。あいつらの言葉を借りるなら、俺が、その聖女ってことになるよね?」

 

「うむ。そうなるな。あの連中が言っていた特徴、銀髪と赤い瞳。これらは伝承にもある、国が創られた頃に一度だけ召喚された聖女の外見と一致する」


 【フェルナンド王国】を創った初代女王は、国を守るために聖女を異界より呼びよせる。

 そのときの文献(ぶんけん)によれば、聖女はたくさんの魔法道具を開発したと記されていた。けれどそれらがどんな品物で、効力を持つのか。何一つわかっていない。

 そして聖女は一度きり呼ばれただけで、以降は姿すら見せていないとされていた。


「調べたところによると、初代以降、聖女召喚の儀式を行った記憶すらない。ただ、そうなるとじゃ! なぜ、あの連中は今になって聖女を探し始めたのか。そこが、どうにも()に落ちんでのぉー」


 筋肉質な腕を組み、思いっきり鼻息をたてる。


「まあその辺は、こちらで調べるとしてじゃ……シェリス、お前が聖女の資格を持つのは間違いないじゃろうな」

 

「うーん。おじいちゃんたちの言いたいことはわかるんだけど……でも、どうしてそれが俺なの? というか、どうやって分かったの?」


 一番の疑問をぶつけてみた。聖女という存在の資料がほとんど残されていない以上、俺がその存在であるという確証がほしい。

 おじいちゃんと父さんが、どうして俺に当たりをつけたのか。それが知りたかった。


 すると父さんは立ち上がり、俺の方までやってくる。ソファーに座る俺の横で膝を曲げ、頼りないほどに眉をよせていた。そして俺を優しく抱きしめる。


「シェリス、お前を巻きこんでしまってすまない。大切な息子を、大人の争いに巻きこむ私たちを許してくれ!」


 父さんの声、そして体は震えていた。

 俺を安全な場所に置いておきたい。危険とは無縁の、平和な暮らしをさせてやりたかった。父さんはそう、泣き崩れていく。

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