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極めしブラコン(後半、弟視点)

 魔霊(まれい)の件があった日の昼間、俺たちは再び執務室の扉を開ける。一日にこう何度も執務室に行くのはあれだけど、弟が父さんに話があるらしかった。

 一人で行けよと言ってみたものの、捨てられた犬みたいな顔をするものだから、ついていくしかなくなった。


 そんなこんなで中に入る。

 中には机仕事をしている父さんと、執事服姿の老人がいた。老人の方は領主つきの執事で、父さんの補佐もやっている。

 二人は突然現れた俺たちに驚きながらも、ソファーへと案内してくれた。

 ソファーへと腰かければ、テーブルの上に暖かい紅茶が置かれる。薄い赤色の紅茶は湯気がたっていて、薔薇の香りがとても心地よかった。セットとしてリュミレール領の名産品、マンゴーを使ったクッキーをくれる。

 

「──それで? 何の用があって来たんだ?」


 一時間もしない内にまた執務室に顔を出した俺たちに、父さんは疑問符を浮かべていた。そして視線はなぜか、俺に向けられている。

 いや。俺も意味がわからん。ここに連れてきた弟に聞いてくれ。内心でそう愚痴(ぐち)りながら、出された紅茶を飲んだ。


「あ、この紅茶、結構美味しい」


「そうかな? 僕はやっぱり、砂糖が必要だと思うけどね」


 隣に座る弟を見れば、彼はドバドバと固形の砂糖を入れていく。しかも一個や二個じゃない。もう、胃もたれしそうなほどに入れていった。

 俺はそれを見て、うぷっと吐きそうになってしまう。それは父さんつきの執事も同じなようで「胃もたれが……」と、青い顔をしながら口を押さえていた。

 うん。同感だ。わかるよ、その気持ち。でも弟はそれを平気で飲むんだ。何せフリックは、折り紙つきの甘党だからな。


「……父上、お願いがあります」


「ん? 何だ、(あらた)まって……」


 紅茶を飲み干したフリックは立ち上がり、父さんの前まで歩いた。作業机の前で立ちどまり、姿勢を正す。胸の前で右腕を横にし、少し開いていた足を閉じた。


「兄さんを、僕が(ひき)いる小隊に参加させてもらいたいんです」

 

「……何!?」


 父さんの筆を握る手がとまる。顔を上げてフリックを見て、今度は俺に視線を送ってきた。

 

 何となく、そんな話じゃないかなとは予想していた。初めて聞く話じゃない。昨日、聞いたからな。だけどそれを今話すなんてのは初耳だった。

 共犯でないことを伝えるために、俺は首を左右にふる。


「…………シェリスは、同意していないようだが?」


 父さんの言葉に同意するように、俺はコクコクと頷いた。

 そもそも、本人の許可も得ずに、何をやっているんだこの弟は。騎士団の一員でない俺は一般人だ。その一般人を、騎士団の仕事に連れて行こうなどというのは……さすがにおかしいと思うぞ?

 その非常識な考えを打ち破るためにも、頼むよ父さん。父さんからの反対だけが頼りなんだ。


「はあー。理由は何だ?」


 あれ? 理由聞いちゃう? そこでダメって言えばいいだけなのに、なんで聞いちゃうのさ。


 父さんは半ば、あきれているようだった。


「……父上も知っての通り騎士団は、前衛(ぜんえい)職の集まりです。魔法職は一人もいません」


「そう、だな。知っての通り、魔法は詠唱に時間がかかる。その間に、敵に攻撃されてしまっては終わりだからな」


「ええ。ですが、だからこそ、魔法が使える兄さんの力が必要なんです。兄さんの魔力は強大です。魔法発動までの時間もかなり早い。普通の魔術師と比べても、比較(ひかく)にすらならないほどに」


 二人の視線が俺へと向けられる。そしてすぐに、二人は互いに視線を戻した。ただ、何だろう。視線の間に火花のようなものが見える。

 うん。気のせいだろう。


「今回の任務は、突然変異した海の魔物退治。突然変異ともなれば、普通に武器が通じない可能性があります。さらには海という、足場の確保が難しい場所となれば、魔法の方が有利なはず。だからこそ! 今回の任務には、兄さんが必要不可欠なんです!」


「……む? た、確かに?」


 フリックの熱弁に、父さんは何か納得し始めているようだ。

 ちょっとちょっと父さん。実の息子に丸めこまれないで。


「そういうことですので、兄さんも同伴させますから!」


 父さんの机をバンッとたたく。


 父さんは少しだけ考えて、よしっと顔を上げた。そしてあろうことか俺を見て、にっと笑う。

 やめて。俺、騎士団の人たちと一緒に仕事したくない。汗臭いとかそういうの以前に、あいつらは暑苦しい。もっと言えば脳筋集団なんだ。


 俺は必死に目を(うる)ませ、拒否してと視線で(うった)えてみる。


「あい、わかった。いいだろう。騎士団への助っ人として同伴を許そう。何よりも、出不精(でぶしょう)なシェリスを外に連れ出す、いい機会だ」


 許しちゃったよー! この人、俺の意見なんか、はなから聞くつもりないじゃん。

 弟からの過度な期待にプレッシャーを感じる。半面、頼られてかつ、フリックと一緒にいれる。そう思うだけで、心の中で喜んでしまう自分がいた。



 そんなこんなで本人の意見なんかなかったかのように、俺はフリックに同行することになった。


 † † † †


 兄さんとわかれた僕は廊下を後にする。階段の一歩手前で立ち止まり、周囲に人がいないことを確認した。

 そして壁の一ヶ所をグッと押す。すると壁はゆっくりと横へと開いた。

 そこから現れたのは地下へと続く階段だ。灯りを(ともな)いながら、ゆっくりと降りていく。


 コツコツと。足音だけが無駄に(ひび)いていた。


「ふふ。今日の兄さんのメイド姿、すごくかわいかったな」


 小さな体にフイットするメイド服は、兄さんのために作られたもののように思える。

 あの、細くて今にも折れそうな首や腰。僕だけを見つめる大きな瞳も、かわいらしい声も。何もかもが、僕だけに(そそ)がれればいい。

 だけど兄さんは皆のものだ。兄さん自身が、誰か一人に縛られることをよしとはしない。猫みたいに自由に生きる。それが、僕の大好きな兄さんだ。


 そんなことを考えていると、行き止まりに直面する。そこには扉もなく、本当に行き止まりになっていた。

 だけど僕は知っている。この先には隠し部屋があるということを。


「…………」


 廊下のときのように、壁を強く押した。瞬間、今度は壁が上へと開いていく。

 僕は何の躊躇(ためら)いもなく、中へと入っていった。


「……ああ、兄さん」


 中には、たくさんの兄さんグッズがある。

 壁には布で作った兄さんのポスターが。ベッドの上には枕と布団、そのどちらにも兄さんの顔がプリントされている。万年筆などの筆記用具にも、兄さんの喜怒哀楽を表した顔が貼ってあった。

 他にも使わなくなった、たくさんの日常品使もある。ここにある物はすべて、兄さん関連のものだ。

 僕はそれらを眺めながら、壁にある布ポスターに自分の頬をつける。


「本当に、きれいだ。日に日にきれいになっていくよね。そうそう。兄さんじゃなくて、僕に縁談が来たときは、はしゃいでしまったよ」


 兄さんが僕の前からいなくなることはもちろん、他の誰かのものになってしまう。それが、すごく嫌なんだ。

 だから父上には感謝しているんだ。兄さんではなく、僕に縁談を持ちかけたことを。もしもあそこで兄さんに縁談がきていたら、僕は理性を失っていただろう。

 狂ったように父上を批難(ひなん)し、最悪、刃を向けていたかもしれなかった。兄さんを独り占めしたくて、どこかに閉じこめてしまうかもしれない。

 

「だって、僕と兄さんは……」


 兄さんのかわいい姿を思い浮かべながら、枕を抱きしめた。


転生する前(・・・・・)から、結ばれる運命にあったんだから──」

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