真面目な話は続かない
【聖女の遺品】というのがある。
それはこの国、フェルナンド王国を作った初代女王が使用していた魔法道具だ。その道具たちすべてが不思議な力を持っている。けれど、どんな時に使うのか。どんな能力があるのか。誰も知らなかった。
ただわかるのは聖者の遺品は、普通の魔道具ではないこと。聖女の資格、ひいては、聖女の力を持つ者しか扱うことができなかった。
「王都での、シェリスとフレン殿下誘拐事件。あれがなければワシらは皆、その真実に、たどり着くことはできなかったじゃろうな」
おじいちゃんの嗄れた声の中に疲れがあるように思える。
後で肩でも揉んであげようかな? そんなことを考えていると、おじいちゃんと目が合った。おじいちゃんはにっこりと微笑み、俺たちにクッキーを差し出す。
俺とフリックはチョコチップクッキーを食べながら、大人たちの会話をじっくり聞いた。
「今さっきも言ったとおり、切っ掛けは、あの誘拐事件じゃ。あやつらの正体は未だに不明じゃが、シェリスを聖女の代わりにしようとしていたこと。あれが、すべてを教えてくれたんじゃよ」
「……?」
ごめん、おじいちゃん。さすがに、わからないよ。弟も同意見のようで、肩をすくませていた。
そんな俺たちを見て、おじいちゃんは豪快に大笑いする。そして体を前に出し、卵の殻を軽くつついた。俺の膝の上でお腹を出して寝ている赤ちゃんドラゴンを注視する。
「詳しくは、じっくりと調べてみる必要があるんじゃろうが……シェリスや。どこから知りたいんじゃ?」
「え? 全部」
きっぱりと答えてやった。だって、本当に何も知らないからね。一から教えてほしいと思ったんだ。
ぶうぶうと文句垂れながら、おじいちゃんと父さんを睨む。
「あー……まあ、そうじゃろうな?」
「当たり前でしょ!?」
毛を逆立て、頬をぷくぅーと膨らませた。隣に座るフリックが俺の頬をつついては、膨らみを楽しんでいるよう。
今だけは弟の好きにさせておき、意識をおじいちゃんたちに向けた。
「……では、教えよう。聖女の資格を持つ者は、限られておる」
「資格? 試験とかするの?」
おじいちゃんは一瞬だけ目を丸くする。そして今までで一番大きな声で爆笑した。
すると父さんがおじいちゃんに「お義父さん、シェリスに嫌われますよ?」と、何か情けないフォローを入れている。かと思えば俺へと向き直り、軽い咳払いをした。
「おっと。すまん、すまん! 話を戻すか……ワシの言っている資格とは、試験などではない。目に見えて、はっきりとわかるもの。それは、瞳と髪の色じゃ」
俺に視線を放つ。
俺はきょとんとしながら、こてんっと小首を傾げた。すると、三方位から「んんっ! かわいい!」という、納得のいかない声があがる。
フリックは鼻血を流し、おじいちゃんと父さんはテーブルをたたいて震えていた。
「もう! そんなことより、早く説明してよ!」
彼らの残念な思考に慣れた俺は、軽く軌道修正を行う。そのときフリックが、俺の体をギュッと抱きしめてきた。
「ちょっ……フリック!?」
離せよ。そう訴え続けても、弟の鍛え上げられた肉体には勝てっこなくて……ぎゅうーと、抱きしめが強くなっていく。
「離せーー!」
俺の声も虚しく、弟にされるがままとなっていった。