いちゃコラからの……
フリックとのわだかまりを解消した俺たちは執務室のソファーに座りながら、のんびりと過ごしていた。
「ほら、兄さん、このチョコチップクッキー凄く美味しいよ」
「本当か? じゃあ……ほら、あーんしろ」
「えっ!?」
仲直りの印に、あーんをしてやろうと思うんだ。だってフリックは、よくこれをやってほしいって言ってたからね。
それなのに何だよ、その反応は。
俺は不貞腐れるように、頬をぷうーと膨らませた。
「うっ! そ、そういう顔はズルいよ、兄さん」
たじろぎながらも、弟は自分の髪の毛を耳にかける。そしてゆっくりとチョコチップクッキーに顔を近づけ、少しだけど食べてくれた。
ただ、その姿は、あまりにも大人の色気があって……俺の心臓は一気に跳ねてしまう。ぼっと、全身が熱くなっていった。
「うん。兄さんさんがくれたクッキーは、さらに美味しいね。って、兄さん、どうしたの?」
「ふえっ!? な、何でもねぇーよ!」
慌てふためく俺を心配してか、フリックの顔がすごく近づいている。それはもう、口づけができてしまいそうなほどだ。
俺は両目をギュッと瞑り、汗だくになった手を強く握る。
と、そのとき、コンコンと壁をたたく音が耳に入ってきた。
「あー……入ってもいいか?」
「……っ!?」
ドキドキが治まらない俺の意識は、突然かけられた声のせいで現実へと戻った。聞き覚えのある声の方へと視線を向ければ、そこには父さんとおじいちゃんが立っている。
二人は気まづそうに苦笑いをしていた。
「に、にゃあー!?」
俺は毛を逆立てながら、窓際にある机の下へと潜る。そこで体育座りし、恥ずかしさでいっぱいになった。
二人とフリックが「大丈夫だから、出ておいで」と、机の下を覗きこんでくる。
嘘だ。全然、大丈夫なんかじゃない。皆に慰められれば慰められるほど、俺のプライドは崩れていった。
それでも三人が必死に俺を構うものだから、仕方なく出る。
「すまないシェリス、パハが悪かったから、機嫌を直してくれないかい!?」
父さんは整った眉を、少しだけ情けなく曲げた。おじいちゃんも同じく、何度も謝ってくる。
「べ、別に、そこまで怒ってないし。そんなに謝らなくてもいいって言うか……ま、まあ、ちょっとフリックを甘やかしてたかも? とは、思ったけどさ」
髪を指に巻きつけながら、口を尖らせた。チラッとフリックを見れば、弟は肩をすくませている。俺は微笑して、軽めの咳払いをした。
そして父さんとおじいちゃんへと向き直る。
「もう、いいよ。俺の勘違いだったんだし。それよりも二人とも、どこに行っていたの?」
大人たちは一度部屋を出ていった。そして戻ってきたときに彼らは、手に箱のようなものを持っている。
俺とフリックは顔を見合せ、それは何かと質問した。
すると父さんは仕事道具でごちゃごちゃになっている机の上を、さっと片づける。箱を置いて、椅子に座った。
「お義父さんの言葉を信じていないわけじゃないんだ。ただ、本当にドラゴンというのならば、これに反応するはずだと思ってな」
パカッと、箱の蓋を開ける。中には丸い物体が入っていた。