ドラゴン登場
ハウスでの一件以来、リュミレール家は騒がしくなっていた。やれ、息子を孕ませたやつを探せだの、相手は誰だのと、あり得ないことばかりが飛び交っている。
その元凶とも言えるのが、俺の腕の中で眠っている不思議な生き物だ。ただこの生き物、俺の記憶が正しければ【ドラゴン】という種族だった気がする。
そのことを皆に伝えようと、執務室へと向かった。
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「ど、らごん? ……まさか、あのドラゴンだと!? そう、言いたいのですか!?」
意気揚々とふんぞり返りながら扉を開けてみれば、 父さんが机をバンとたたいて叫んでいた。
相手はおじいちゃんで、机の前で腕を組んで頷いている。
「うむ。間違いない。ワシの記憶が正しければ、あの卵から生まれたのは、ドラゴンに相違ない」
慌てふためく父さんに対して、おじいちゃんはかなり落ち着いていた。
父さんは口をポカンと開ける。かと思えば、険しい顔で自身の頭をくしゃくしゃした。
二人は俺が部屋に入ってきたことも気づいていないようで、あーでもないこうでもないと口論を続けていた。
そして俺はと言うと、二人に声をかけることなく、部屋の中央にあるソファに座る。向かい側には弟のフリックがいた。だけど俺が隣に座らないことを不思議に思っているようで、小首をかしげていた。手でソファーをポンポンと軽くたたき、こっちにおいでと誘っている。
俺は首を振って遠慮した。だって、フリックと顔を合わせるのも辛いのに。隣に座るなんてできるわけがない。俺のことが嫌いなくせに、興味なんてなくなったくせに、ああやって何事もなかったかのように接してくるんだ。
ちょっとだけ腹が立つな。
同時に悔しさと、兄離れした弟を許すことができなくなっていた。そんな自分に苛立ち、貧乏揺すりをしてしまう。
「ちょっ……兄さん、どうしたのさ!?」
「え? あ、えっと……」
落ち着いてよと諭されてしまった。
俺は深呼吸をし、未だに口論を続けている父さんたちを直視する。
何か知らない間に二人は取っ組み合いを始めていて、筋肉と汗がぶつかっていた。暑苦しい。実に、暑苦しい。
「もう! 二人とも、いい加減にしなさい。話が進まないよ!?」
腰を上げて、二人の間に割って入った。
彼らは、バツが悪いと言わんばかりの表情になる。そして俺へと向き直り、わしゃわしゃと髪を弄ってきた。
「うわっ!」
「ふっ。すまないなシェリス、そうだね。確かにお前の言うとおりだ。お義父さん、今はあの卵について話し合いましょう」
おじいちゃんと父さんはニヒルに微笑する。そして父さんはフリックの隣へ。おじいちゃんは俺の隣へと座った。
そして俺たちは早速、あの卵……ドラゴンについて話をする。
「──まずは、あの卵。どう見てもあれは、普通の卵ではなかった。ワシらは、そこから疑問を持つべきじゃったと思う」
おじいちゃんの言うとおりだ。真っ黒という時点で、普通ではないということはわかりきっていたことだろう。だけどあの卵には前例がなく、突然変異の何かとしか思われていなかった。
まあ前例がないとなると、考察も何もあったものじゃないけどさ。
「そうですね。ただ……お義父さん、あれは本当に、ドラゴンなんでしょうか?」
「む? どういう意味か?」
父さんは何か引っかかっているよう。ソファーに深く座り、卵の殻をテーブルの上に置いた。