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貴族たち

「新人、なのかな?」


 フリックの縁談をぶち壊す……じゃなくて、破談にしてやろうとかと、メイドたちと作戦をたてた翌日。

 暇潰しに庭を見ていたら、見慣れない馬車がたくさん停まっていた。しかもそれは(とど)まることを知らず、次から次へと増えていく。

 ただ、馬車から降りてくる人たちは皆、中年から年老いた老人ばかりだ。


 え? 何? そんな人たち(やと)うつもりなの? いくら何でも、それは無理があるだろう。雇うならせめて若い男女じゃないと。  

 もう、苦笑(にがわら)いしか出てこなかった。


「はは。兄さん、あれは違うよ。新人じゃなくて、商談の人たちの馬車だよ」


「商談?」


「うん。リュミレール領は国の中でも、魔石(ませき)が豊富な方だからね。地方の人たちはああやって、交渉しに来たりもするんだよ」


「そう言えば、聞いたことあるな。でもさぁー」


「……?」


 階段の上から見る庭に飽きた俺は腕を組む。外を指差し、小首を傾げた。


「商談に参加するやつって、こんなにいるのか?」


「ふふ。これはまだ、(じょ)の口だと思うよ。さっきも言ったけど、リュミレール領は魔石(ませき)豊富(ほうふ)なんだ。それを安値で購入しようとする人たちは、かなり多いからね」


「安値、ねぇ……でも父さんは、適正価格じゃないと交渉に応じないタイプだろ?」


「そうだね。真面目な人だから。曲がったこととか、嫌いって言ってたし」


「……そのわりには、メイドたちの遊びは許してるんだな」


 昨日着ていたメイド服を思い出してゲンナリする。肩を落とし、はあーとため息をついた。

 気を取り直して顔を上げて、弟を直視する。


「……まあ、いいや。そこらへんのことは、父さんに任せて……ん?」


 そのときだった。目の前を、キラキラした何かが横切る。

 これは何だろうか? そっと手を伸ばしてみれば、それは一瞬だけ動きがとまった。何か、意思があるみたいだな。


「兄さん、どうしたの?」


「ん? ああ……えっと……」


 どう、説明するべきか。悩みながら弟と、目の前に広がるキラキラした何かを交互に見返した。


「何か、すっごくキラキラしたものが飛んでるっていうか……」


「ああ。もしかして、魔霊(まれい)じゃないかな? 魔力が高い人にしか見えない、魔石(ませき)から産まれた魔力の塊、みたいなのらしいよ」


「へえ……ふわふわしてるし、丸っこくてかわいいな」


 魔霊(まれい)と呼ばれるそれを両手で包む。するとそれは、手のひらで踊るように回っていた。

 何だか、喜んでるみたいだ。嬉しくなり、そっとポケットの中にしまう。

 直後、ドタバタと、父さんの執務室にいた商人たちが慌てながら部屋の外へと出てきた。


「えっ!? だ、大丈夫ですか!?」


 慌てて駆けよった先は福よかな体型のおじさんだ。頭を抱えながら「もうおしまいだ」と、顔を青ざめて言っている。

 

 俺とフリックは顔を見合せ、眉を(ひそ)めた。


「……いったい、何があったんだろう?」


「わからない。だけど兄さん、あまり関わらない方がいいかもよ。何か、すごく面倒なことになりそうだし」


「だな。父さんの執務室の前、ってのがあれだし。きっと、父さんが何かして……うわっ!」


 今度は執務室の扉が勢いよく開く。そこから現れたのは細身の男性で、貴族のよう。若い執事とメイド数人を連れながら、額に青筋をたてていた。

 その人は俺たちを見るなり、嫌らしく片口を上げる。そしてあろうことか、にやつきながら俺たちへと近づいてきた。


「兄さん、僕の後ろに隠れて」

 

 フリックの声は低く、鋭さがある。

 言葉よりも早く弟は動く。俺を背に隠し、貴族の若者と向き合った。そして背筋をただし、貴族というよりは騎士のように右腕を胸の前で横にする。

 そんな姿を見た俺の胸はざわついた。背中越しに感じる弟の体温が近くて……すごく安心する。


 俺の不思議な気持ちなんて無視するかのように、二人は睨みを利かせていた。


「その身長と出で立ち……そうか。お前が、リュミレールの騎士か」

 

「はい。お初にお目にかかります。僕はフリック・リュミレール。おっしゃるとおり、このリュミレール領の騎士でございます」


「……ふんっ! 若僧(わかぞう)の分際で!」


 フリックを()めているのだろう。嫌味ったらしく、上から目線で言っていた。

 いや。そもそも、この人も充分若いと思うけど……人の振り見て我が振り直せ。とは、よく言ったものだなと、感心してしまった。


「ところで、あなた様は?」


 フリックの方が身長が高いため、若い貴族を見下ろすかたちになっている。

 フリックがそう尋ねれば、若い貴族は一瞬だけたじろいだ。それでもプライドの方が勝っているらしく、ふんっと鼻で笑いながら自身の服の(えり)を直す。


「まさか、私のことを知らないのか? 貴族のくせに。これだから田舎者は」


 ぶつくさと、リュミレールの文句ばかりを吐いていた。やがてれに飽きたようで、フリックを指差す。


「聞いて驚け。私はハーリヤン家の次期当主、オリヴィエ・ハーリヤンだ。いずれ、君の義兄になる男だ。覚えておくがいい!」


「……ハーリヤン家? ……ああ。無理やり縁談話を押しつけてきたという、ハーリヤン様でしたか」


「なっ! む、無理やりだと!? 我が家を侮辱(ぶじょく)するつもりか!? 伯爵(はくしゃく)家でもある我が、ハーリヤン家を……」


「申し訳ありません。僕は、そういうのに興味がなくて」


 フリックの声から、少しだけ苛立ちを感じた。それもそのはずだ。伯爵家とか言って偉そうにしているこの男の前にいるのは、その家よりも遥かに上の地位の嫡男(ちゃくなん)だからね。

 というかこの男は、俺たちが公爵の息子ということを忘れているんだろう。自慢だけに時間を(つい)やし、それ以外は見えていない。そんなふうに思えた。


 ただ、このままこの男と平行線の話をすること自体、時間の無駄だ。そう考えた俺は、フリックの服を軽く引っぱる。


「……相手にするなって? そう、だね。兄さんの言うとおりだね」


 男と対峙するときとは正反対の、優しい声と瞳だ。


 フリックは大きくて無骨な手で、俺の肩を抱く。そして男に軽く会釈をし、横を通りすぎようとした。


「待て!」


 男……オリヴィエと名乗った貴族は、額のあちこちに血管を浮かばせている。俺たちならぬ、フリックの態度が相当気にくわなかったようだ。

 

 逆にフリックは無表情になっている。


「……まだ、何か?」


「妹と婚約するのだろう!? ならば私の……」


「まだ、してませんが?」


「ぐっ! そ、そうだ! ならば、こうしよう!」


 咄嗟(とっさ)の思いつきか。突然、俺を指差してきた。


「わ、私も、リュミレールの姫と婚約しよう。そうすれば我ら兄妹揃って、リュミレールと硬い結びつきを……」


「は?」


 ヒュッと、息苦しさを覚えるような……絶対零度かつ、冷徹(れいてつ)な声が(とどろ)いた。実の兄の俺ですらビクつくほどだ。

 初めてこれを体験するオリヴィエに耐えられるはずもない。小さく悲鳴をあげて、腰を抜かしてしまう。


「どうして、兄さんが、あなたと婚約しなくちゃいけないんです?」


 顔は笑っていた。だけどやっぱり声は低くて、かなりドスの利いた空気に変わっている。


「答えてください。どうして、あたなが、僕の大好きな兄さんと、婚約! なんてことに、なるんです?」


 一言一言、丁寧かつ、ゆっくりと、伝えていった。


「……あ、う……」


 オリヴィエの方は、どうやら限界がきているようだ。ガタガタと震えながら涙目になっている。だけど貴族としてのプライドか。目尻に涙を溜めながら、俺を指差した。


「う、噂の、姫を見て、わ、わかった。と、とても美しくて、(はかな)くて……」

 

 嗚咽(おえつ)混じりに言うオリヴィエの視線は俺へと向けられている。そして俺と目が合った瞬間らなぜか真っ赤になってしまった。


 え? 何で? 今の俺はメイド服を着せられているわけじゃない。普通の服だ。それで何で、そんなに耳の先まで赤くなるんだ?

 疑問だけが生まれた。


 するとフリックが俺の前に立ち、オリヴィエから見えないように背中へと隠してしまう。


「……へえ? 兄さんに()れたんだ?」


 かなり低い声だ。しかも両手に、血管が見えるほどに怒り狂っている。


 さすがに相手が可哀想(かわいそう)になってきた。俺はため息をつき、フリックの服を軽く引っぱる。


「もう、そのへんでやめてやれ」


「そう? 兄さんが、そう言うならやめる」


 (つる)の一声ならぬ兄の一声で、フリックはいつもの優しい笑みに戻った。そして俺の手を引っぱり、オリヴィエを置いて執務室へと入っていった。

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