再会
雪へと足をつけた俺たちは夜営地へと戻って来た。ドラゴンは夜営の範囲外で休み、俺とフランネージュはテントの中へと入る。
「──私は騎士になってからずっと、ここで戦ってきた。ドラゴンたちと、だ」
この場所はドラゴンが住むフォトグラスから、一番近い山だと言う。世界で有数の高い山らしく、つねにドラゴンの脅威に晒されていたとも話してくれた。
けれどその実、ドラゴンが友好的な存在でもあること。そして一筋縄ではいかないということも判明した。
ただ、そのなかで俺は一つだけ疑問が浮かんでいく。俺たちのいた時代では、フォトグラスは身長百八十センチないと行けないという言葉が広まっていた。本当かどうかは定かではない。けれど誰も辿り着いたことがない以上、人はそれを本当だと思いこんでしまうだろう。
残念なことに、俺もそのうちの一人だ。だけどそうなると、どうしてそんな噂が広まったのか……いや。噂かどうかは分からないけれど。何をもって身長百八十センチとするのか。それが謎だった。
そのことをドラゴンに聞いてみたけれど、初耳だと言われてしまう。
「うーん……わからないことだらけだな」
腕を組みながら、膝の上で眠る仔猫と赤ちゃんドラゴンを撫でた。レイのふわふわな毛並みは柔らかく、もふもふしている。タマは鱗が冷たくて、少しばかりツルツルしていた。
そんな両極端な二匹相手に、俺はボスッと顔を埋める。
「シェリス君、明日、王都へ出向いてみないかい?」
仔猫を吸っていると、頭上から声をかけられた。顔を上げればそこにいたのは銀髪の美女、フランネージュである。鎧を脱いだ彼女の姿は勇ましさではなく、美しさを纏っていた。女性らしい胸の膨らみは、あの鎧にどうやって隠していたんだろう?
そんな、どうでもいいことを考えた。俺は顔を上げて、うんっと頷く。
だって今のところ、それしかないから。何もわからない、知らない土地で頼りになるのはフランネージュだけなんだ。
それにもしかしたら王都へ行けば、フリックたちに会えるかもしれない。
淡い期待を胸に俺たちは早速、王都へと出発した──
□ □ □ ■ ■ ■
ドラゴンの背に乗って到着した王都は、かなり大きくてきれいな建物ばかり……ではなかった。それなりに大きい家はある。けれどボロボロで、陰気臭い。それに妙な腐敗臭もした。
人々なんて活気すらなく、今にも餓えてしまいそうなほどに骨と皮ばかり。服はツギハギだらけだ。
これらは、とても王都と呼ぶ場所の光景ではないように思う。間違えて来てしまったのかと、彼女に目配せした。
「……いや。残念ながら、これが王都だよ。ドラゴンの襲撃に合い続けたうえに、貴族たちにお金をむしり取られてしまっていてね」
フランネージュの着る鎧の音だけが響く。彼女は銀髪をポニーテールにし、町中を歩いていった。
途中で物乞いなどに遭遇してしまう。子供や老人だけでなく、若者も、餓えに苦しんでしまっているようだった。
フランネージュは懐からパンなどを取り出して、次々と与えていく。俺は念のため、ローブを頭から被ってやり過ごした。
しばらくすると大きいけれど、これまた寂れた城が見えてくる。何て言うか……城ではなく、ただの古ぼけた豪邸のようだ。
フランネージュは遠慮なくその城へと入っていく。
俺はその後をついていき、とある一室へと案内された。そこは特にこれといった何かがあるわけでもない、普通の部屋のよう。ただ、目に見えるほどに蜘蛛の巣があって、俺の全身は震えてしまう。
「ううー。嫌だなぁ」
虫が好きではない俺にとっては、この場所は地獄そのもの。仔猫と赤ちゃんドラゴンを抱きしめ、椅子の上で体育座りをしながら念仏を唱えた。
フリックがいたら抱きついていたのに……馬鹿やろう。何でこんな肝心なときにいないんだよ!?
暖かくてホッとする笑み。優しくて頼りになるのは腕など。フリックのことを思い出しながら、目尻に涙を溜めてしまった。
そんなとき──
「──シェリス?」
「え?」
聞き覚えのある声に呼ばれ、顔をあげる。するとそこには、はぐれていたはずの父さんの姿があった。