世界の秘密
わたあめのようにふわふわとした雲の中を突っ切って、今度は真っ白な山々が連なる場所へと到着した。山の上で翼をはためかせながら、ドラゴンは上空で立ち止まる。
『──我らドラゴンの役目は、人が発展し、力をつける。そして増えることを阻止するために、造られた存在だ』
ドラゴンたちの住む空の彼方に、神と呼ばれし存在がいた。その者は地上の人々の発展を願う反面、増えすぎた悪を減らそうとしているらしい。
彼らドラゴンはその神の使いであり、代弁者でもあった。
『ただ、神は気まぐれでな。我らドラゴンには、自由な心を与えてくれた。人間の味方をしたければ、すればいい。神の側についたままでもよし。その心は自由であり、縛られてはならないのだと』
翼を大きくばたつかせる。そして空…… 今いる上空よりも、ずっと先を指さした。
『我らドラゴンと神が住む地は、フォトグラスと呼ばれている。神がそう名付けたからだ。だが、その地の詳細を話すことは。禁じられている。例え、お前たちの仲間になった我とてな』
顔を背中に向けて、ウィンクする。
俺は逸る気持ちを抑え、ドラゴンにあることを尋ねた。それはずっと気になっていたこと。俺の住んでいる時代ではわからないこと。
深呼吸をして、一語一句違えず伝えた。
「フォトグラスには、どうやって行くんだ?」
緊張する。手に汗が滲み、体が少しだけ震えた。だってそれは、ずっと知りたかったことだから。
わくわくと同時に、期待が俺の胸を圧迫していった。
眼前にいるドラゴンへ目をやれば、太い首を左右に揺らしている。けれど少しして山の上空でとまり、ゆっくりと降りていった。
降りた先は雪山だ。辺り一面、純白で埋め尽くされている。
ドラゴンは俺たちを降ろすと、徐にタマを呼びつけた。
タマは『なあ、に?』と、たどたどしい口調でドラゴンに近づく。
『フォトグラスへ行くためには、ドラゴンの卵の殻が必要となる』
ドラゴンの頭の上で楽しそうに遊ぶタマを見つめながら、彼は白い息を吐いた。かと思えばタマに爪を立て、宙ぶらりんにする。
驚く俺たちをよそに、ドラゴンはガハハと笑った。
『安全せい。こんな子供に、何もせんよ。それよりも……こやつは、産まれたばかりであろう?』
「え? あ、うん」
ぶらぶらと遊ばれているタマを、ドラゴンが背中に乗せる。そしてタマを指差し、がに股でその場に座った。
未だにタマの方はきゃっきゃっと、空気を掴まないまま楽しんでいる。
俺は少しだけハラハラしてしまった。だって、このドラゴンが何をしようとしているのか。それがわからないんだ。
もしもタマに何かしようものなら、容赦なく丸焼き決定だな。
そんな物騒極まりないことを考えていると、ドラゴンが腰を上げた。そして俺とフランネージュに再び背に乗るように促す。
俺たちはまた上空へと飛び立った。
『よーく、聞くがよい。フォトグラスへ向かうには、ドラゴンの卵から作られた服、そして乗り物でなければ無理だ』
「……っ!? な、ぜ!?」
上空に昇るのは楽じゃない。こうやって話を聞くのも、喋ることすら厳しいんだ。
目を開けることはおろか、息を吸うことすら困難。ひゅーひゅーと、喉の奥から痛みを伴っていく。
ふと、ドラゴンは途中でとまった。そして俺たちを見るなり『苦しいであろう?』と、語りかけてくる。
『この気圧の変化、そしてほとんどない空気。これに耐えられるのは、我らドラゴンのみ。だからこそ卵の殻を使って、抵抗を最小限に抑えた物を作る必要があるのだ』
ゆっくりと、俺たちを気づかいながら、ドラゴンは地上へと降下していった。