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ドラゴンと人間

 テントの隙間からのぞく光が目に映り、俺はモソモソと起き上がった。眠い目を擦りながら、簡易ベッドの上で大きく背伸びする。

 いつの間にか、仔猫のレイと赤ちゃんドラゴンのタマも姿を見せながら寝ていた。簡易ベッドの上で大の字になって寝ている二匹は、とってもかわいい。

 レイたちの身体を撫で、ふふっと微笑んだ。


「おはよう。レイ、タマ」


 依然として、父さんとフリックの二人とはぐれたままだった。それでもこの子たちがいてくれるおかげで、精神的にも落ち着けるんだろう。

 かわいい友だちを起こさないように、そっとベッドから離れた。そしてテントの布を上げ、フランネージュとドラゴンの結末を確認しに行く。



 テントから少し離れた場所には、惨劇(さんげき)のような光景が広がっていた。とは言っても誰かが亡くなったとか、そんな残酷な感じじゃない。

 雪が削られ、地面には穴が空いていた。しかも一ヵ所や二ヶ所じゃない。ボコボコとした穴は無数にある。

 そしてフランネージュと一緒に来ていたであろう兵士たちが、その穴を埋めていた。

 ここをこんな状態にしてしまった元凶、フランネージュとドラゴン。彼らはどこにいるのだろうか? 兵士たちに尋ねれば、野営地の裏手を指差された。


「……ああ、うん」


 裏手の山からは何度も爆発音が(とど)いている。大きすぎる音なのに、雪崩(なだれ)が起きないことが不思議なぐらいだ。

 俺は仕方なく、裏手にある山へと向かう。

 

 □ □ □ ■ ■ ■


 歩いて数分のところにある山の入り口近く、ドラゴンの尻尾らしきものが出ていた。フリフリと左右に揺られた尻尾は、つついても反応が薄い。それどころかドラゴンから『ぐおー』という、豪快なイビキが聞こえてきた。


「寝てるんかい」


 たくさんある木々に隠れるように、ドラゴンの身体は倒れている。そしてその腕には銀髪の女性、フランネージュがいた。どうやら彼女はドラゴンの腕の中で眠っているらしく、気持ち良さそうな寝息をたてている。


「いや。何で、仲良くなっているの?」


 いがみ合ってはいなかった。それでも敵同士であることには変わりないはずだ。それなのに何で、こんなにも仲良く眠っているんだろうか?

 前日にあった緊張感はどこ行った。そう、問い質したくなるような空気が、ここにはある。

 俺は頭を抱えながら盛大なため息をついた。ぐーすかと、寝ている一人と一匹に近づき、フランネージュの肩を揺する。


「……ん?」


 ふっと、彼女が目を覚ました。大きなアクビをし、鎧を装着したまま立ち上がる。鎧や肌に傷がついているけれど、それを気にすることなく端麗な顔に笑顔を浮かべた。

 そして迎えに来た俺の肩に手を置く。未だにぐーすかと寝ているドラゴンを直視し、肩をすくませた。


「シェリス君、危ないからテントの中にいるといい」


 美しく(きら)めいている銀髪を(なび)かせながら、俺に苦笑(にがわら)いを向ける。


 だけど俺は首を左右にふって、フランネージュとともにドラゴンの顔をのぞきこんだ。その場にちょこんと座って、そーと手を伸ばす。

 鼻ちょうちんを出しているドラゴンの顔に、思いっきり水魔法をぶっかけてやった。


『わぷっ!? な、何だ!? て、敵襲か!?』


 巨大としか言いようがない身体を起こし、慌てた様子で周囲をキョロキョロとする。瞬間、俺が魔法を放ったことがバレたらしく、睨んできた。しかも涙目で。

 

『寝こみ襲うとか、人としての心ないんかい!?』


「だってお馬鹿っぽかったし」


『お馬鹿!? 酷い!』


 意外とノリがいいらしく、俺の軽口にもしっかりと反応する。子供のように地団駄を踏み、わんわんと鳴いた。忙しなく変わる感情が、あまりにもドラゴンという神秘的な存在とはかけ離れているような……


「情けないな、こいつ」


『この子、かわいいのに中身、毒まみれじゃん!』


 何でか知らないけれど、ドラゴンはフランネージュの後ろに隠れるように逃げた。



 情けない。実に、情けない。本当にこんなのがドラゴンだって言うのだろうか。これは問い質す必要があるかもな。

 フランネージュと顔を見合せ、頷き合う。そしてドラゴンへの質問を始めた。


「なあ、教えてくれないか? お前たちは、いったいどこから来たんだ?」


『んー? そんなの、しれたことよ』


 犬猫のように足で顎をガシガシ掻く。そして空を指差した。


『我は、あの地……神が住まいしフォトグラスから来たのだよ──』

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