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44.それぞれの願いの果てに その1


 沈む勇馬の心とは裏腹に、雲一つない青空の朝だった。

 昨夜の鷹野先輩の裏切りが夢だったと思いたい、そんな弱さにからわれてしまいそうになりながら、いつも通りの登校の準備を始める。

  熱いシャワーを浴び、弁当を食べ終え、白い制服に袖を通す。


(鷹野先輩のためにも、止めなきゃいけない。その為に力を尽くそう)

 決心を終えた勇馬は、寮の自室を後にするのだった。


 朝の教室にいつも通りの明るさはなく、緊張が空気を支配し、沈黙に包まれていた。


 その沈黙を破るかごとくガラッと扉を開けて瀬尾先生が教室に入ってくる。

 普段通り九條先輩の号令を終えると朝のホームルームが始まる。


「昨日はゆっくり休めたか?色々と思うこともあるだろう。ただ今日やるべきことは一つだ。俺たち退魔班の仲間である鷹野を止めてあげよう。それが全てだ。何か質問はあるか?」


 そう話す瀬尾先生の表情はいつも通りだった。

 全員の頷いてくる様子を見渡し、満足そうな笑顔を浮かべた瀬尾先生が丁寧に言葉を繋げる。

 

「全員いい表情だ。そんなお前らのことを俺は誇りに思うぞ。それでは解散だ」


 少しだけ丁寧な、しかし普段通りのホームルームを終え勇馬たちは授業へ向かうのであった。


 午前中の授業を終え、いつも通り勇馬たち4人は学食に集まる。


 席につき、勇馬がいつも通りカレーを食べ始めると八神が優しい笑顔で話しかけてくる。


「君たちの吹っ切れた表情を見て安心したよ。特についこの前まで呪術とは無関係で生きてきた天之のことは心配していたんだ」

「ありがとう八神。迷ってるのは俺だけじゃないってわかったんだ」


 そんな勇馬を元気づけるかのように七草も話しかけてくる。


「それは人として正しいことだよ天之。私だって割り切れてるわけじゃないもん。ただ、あの鷹野先輩はとても苦しそうにも見えちゃったからさ……」

「私だって決して割り切れてるわけじゃないんですよ。ただ、闇に落ちてしまった鷹野先輩を救うことができない以上、止めてあげるのが優しさだと思って戦うんです」


 そのように話す幸奈の表情は泣き笑いにも見えた。


「君たちみたいに、優しい仲間たちを持つことができてうれしいよ。でも幸奈は九條だから、もっと割り切ってるのかと思ってた」

「そんなわけないじゃないですか。誰が鷹野先輩を殺したいとでも? いや……でも、きっと兄さんなら役目としてもっと割り切って任務をこなすんでしょうね……」


 そう言って幸奈は落ち込んだ様子を見せる。

 

「ああ!八神がまた幸奈ちゃんのことをいじめてる。だめじゃん!かわいそうじゃん!」


 そう七草が八神に指をつきつけて怒ったことに八神が慌てた様子で返す。


「すまない、言葉が足りなかった。九條なのに、そういう優しさをちゃんと持ててる幸奈が人として素晴らしいって褒めたかっただけなんだ」

「いいですよ。八神先輩がそういう遠慮がないのは分かってることですから。でも、そういう八神先輩は随分と割り切れているんですね?」


 そういう幸奈の指摘に今度は八神の表情が一瞬曇り、困ったような笑顔で言葉を続ける。


「僕は……イギリスで魔人と戦ったことがあるからね。きっと特別なことって思えなくなっちゃってるんだ。だから闇に落ちた鷹野先輩とちゃんと向き合う君たちのことを本当に素敵だなって思う」


 勇馬には、その八神の言葉が自分を責めているようにも聞こえるのであった。


(そう、迷っているのは俺だけじゃない。だから俺は俺にできることをしよう)


 勇馬は窓から差し込む柔らかな光をぼんやりと眺めながら、カレーを食べる手を止めることなくそう決心した。


昼休みを終え、教室で瀬尾先生からの説明が始まる。


「今日の訓練も、多目的訓練室を準備してあるから、九條主導で調整と作戦会議に使え。俺が白鬼と戦わねばならん以上、鷹野を止めるのはお前たちだ。今日の夜に向けて悔いの無いよう過ごすように。以上だ」


 それぞれコンディションを整える為の軽いトレーニングをこなしたあと、九條先輩を中心に全員が集まって作戦会議を行う。


「鷹野先輩との戦闘は昨日と同じ連携でいく。俺が鷹野先輩と正面から向かい合い、隙を見つけて天之が防御を破壊し、そこに八神が攻撃を行う。幸奈は追撃を行え。東雲と七草は判断を任せるが、援護と回復を主に行い、攻撃は無理しなくていい。何か質問はあるか?」


真剣な表情で話す九條先輩に、八神が質問を行う。


「もし戦闘中にイレギュラーが、例えば呪悪が襲い掛かってきた場合はどうしますか?」

「その時の状況を見て判断して指示をだすが、基本的には天之と八神でイレギュラー対応を行え。強化されているとはいえ、昨日の半魔人の状態であれば、俺は一対一で戦闘になっても早々負けることはないだろう」


「また、幸奈は呪力をできるだけ鷹野先輩の動きを止めるために使え。そして相手の呪力が増してきたら、七草と連携して防御を固めることを優先しろ。東雲は呪札で妨害しながら、必要に応じて援護や回復に回り全体の調整を頼む。おそらく持久戦になる可能性が高い」


その後も、イレギュラーの対応や呪術の使用方針など細かいことを確認しつつ作戦会議が進んだ。


「……では作戦会議は以上だ。鷹野先輩にこれ以上罪を重ねさせない為にも全員無事に生きて帰るぞ!」


 その答えに全員が各々の口調で賛同の言葉を述べると会議は終了となった。


 長い戦いの幕開けとなる一日の午前の出来事だった。


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