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17.新たな日常 その2


 ケセラは有名なカラオケ店だが、学生にとっては高めな値段設定ということもあり、勇馬が使用するのは初めてだった。


 東雲先輩が予約してくれた部屋は、広く明るい色を基調としたパーティールームで、自然とテンションも上がりそうな雰囲気だった。


 部屋に入ると、みんなが思い思いの席に座っていく。勇馬は遠慮して端の方に行こうとしたが、「主役が真ん中にいなくてどうする」と九條先輩に引きずられ、ど真ん中の席に座らされてしまった。


「飲み物、順番に聞いていきますよ」


 決めることが好きな性格なのか、八神がすぐにみんなのドリンク注文を確認し始める。

 次々に「メロンソーダ!」「ウーロン茶お願いします!」と声が上がり、勇馬は遅れんばかりに「コーラで!」と頼んだ。


 驚くことに八神はメモも取らず、全員の注文を正確に覚え、そのまま電話でオーダーを済ませていた。

(やっぱり八神って、頭の回転が速いんだな……)

 と妙に納得しながら見つめる勇馬だった。


 雑談しながら待っていると、注文した飲み物と一緒に軽食が運ばれてきた。

 全員に飲み物が行き渡ったところで、九條先輩がマイクを手に取り、簡単な前口上を始めた。


「今日は勇馬の歓迎会だ。みんな、改めて盛り上げていこう!」


 そう言ってマイクを勇馬に手渡す。

 突然マイクを握らされて戸惑う勇馬だったが、勇気を振り絞り、少しずつ言葉を紡ぎ始めた。


「ちょっと前までは、こんな風に仲間と一緒に過ごすなんて思ってもみませんでした。みんなに助けてくれてありがとう。ここで過ごした一週間は最高だ!」


 最初は緊張していたものの、話しているうちに自然と感情がこもっていった。


「最高の仲間と最高の日々に——乾杯!!」


 九條先輩の音頭に合わせて、全員がグラスを掲げた。


「「「乾杯!!」」」


 グラスが触れ合う音が響き、勇馬にとっては今までで一番心地よい音のように感じられた。


「やっぱりカラオケに来たからには、最初は歌だよな! 誰から行く?」


 九條先輩の声に、勢いよく手を挙げたのは七草だった。


「はーい! では不肖ながら、この七草茜が一番手、いきまーす!」


 七草が選んだのは流行中の女性歌手の人気ソングだった。


「はい、みんなで盛り上げましょう」


 曲が始まるやいなや、いつの間にか持参していたのか、東雲先輩がマラカスやタンバリンを配り始める。


「天之くんもどうぞ」


 手渡されたタンバリンを握りしめ、勇馬もリズムに合わせて鳴らす。

 七草の歌声は、明るく弾むようなアレンジで、聴いているだけで自然と気分が上がった。


 一人が歌い出すと、次々にメンバーが曲を入れ始める。


 九條先輩は、さも当然と言わんばかりに演歌を熱唱した。淡い青の和服と渋い演歌の相性は抜群で、堂々とした歌いっぷりに見とれてしまうほどだった。


 八神は、「日本といったらこれだろ?」と言わんばかりに、懐かしのアニメソングを披露。

 その歌が主題歌のアニメこそ見たことはないものの、曲は聞いたことがあるものばかりで、サビの部分では合唱が起こった。


 流行の曲を次々に入れて盛り上げ続けるのは七草。


 そして、少し恥ずかしそうにしながらも九條妹がアイドルソングを歌う番になる。

 緊張しているのか、最初は控えめな声だったが、途中から笑顔になって楽しそうに歌っていた。


 そんな中、最後まで曲を入れずに控えていたのが東雲先輩だった。


 勇馬は気を利かせて声をかけた。


「せっかくですし、東雲先輩もいかがですか?」


「わ、私はあまり歌は得意じゃないから……」


 申し訳なさそうに微笑みながら遠慮した東雲先輩だったが、その様子を見かねたのか九條先輩が口を挟む。


「大丈夫だ東雲。周囲に民間人はいない。俺が許す」


「……わかりました」


 そう言って、東雲先輩は流行のバラード曲を選曲した。


 九條先輩の不穏なワードが聞こえたような気もしたが、透き通るような美しい歌声に、勇馬は思わず息を呑んだ。


(あれ? 普通に上手いじゃないか……)


 だが、次第に異変を感じる。


 音が重なるように歪み始め、耳鳴りのような違和感が広がる。


(……何だこれ?)


 視界が揺らぎ始め、周囲が薄青く揺らめいている。

 全員が淡く呪力をまとっているように見えた。


 そのまま意識が途切れ、気が付くと勇馬は横になっていた。


「お、やっと気が付いたか」


 九條先輩が飲み物を差し出してくれる。


「さっきの現象……何ですか? 東雲先輩の歌のせいですか?」


「正解だ。東雲は、戦闘にも使えるほどの呪歌の使い手でな。ただ、そのせいで意識してなくても集中して歌ってると呪力が漏れ出すことがあるんだよ」


「なんで教えてくれなかったんですか?」


「だって、ちゃんと聴いてくれる方やつがいないと東雲がかわいそうだろ? 悪気はないさ」


「……なるほど」


 勇馬が苦笑していると、九條先輩が手を叩いて仕切り直す。


「さて、勇馬も復活したことだ、ここからは反省会を始めよう!」


 机や椅子を移動させ、反省会を行う準備が完了した。


 楽しい日曜日は、まだまだ続くのだった。





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