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14.力に目覚めた日 その14


 数分後、勇馬は必死に防戦を続けていた。


 目の前の九條幸仁の連撃は圧倒的で、短剣を振るいながら何とか防御に徹するものの、一合ごとに手の痺れが増し、体力の摩耗が着実に進んでいるのが分かった。


「どうした天之、そんなものか?」


 九條の声は余裕そのものだった。口元に浮かぶ自信に満ちた笑みが、さらに勇馬の焦りを煽る。


 まず最初に倒されたのは東雲里桜だった。


 すでに消耗しきっていた彼女は九條先輩の圧倒的な速度についていけず、次の呪札を準備する為に距離を取ろうとした瞬間に木刀の一撃を受け、気絶してしまっていた。


 次に七草が倒れた。


 彼女は迫りくる九條先輩から身を守るために結界を展開したにも関わらず、金色に輝いた九條の木刀の一太刀で結界をたたき割られ、返しの一振りを受け気絶してしまった。


「くそっ……!」


 今度は勇馬自身が狙われていた。


 もちろん、八神が拳銃での精密射撃や、五角形の防御魔術を展開して援護してくれている。


 しかし、九條はその全てを避けるか、最低限の動きで防ぎながらも、一切脇目も振らず勇馬への連撃を繰り出している。


「いい線いってるじゃないか」


 木刀で光のような剣閃を繰り出しながらそう話しかけてくる、余裕そうな九條先輩の声が聞こえた。

 一方勇馬はその声に超える余裕もなく、必死に防御を続けていた。


 防戦は長く続かなかった。

 勇馬の体には限界が近づいており、短剣を振るうたびに、手の平の痺れが増し、繰り出される木刀の剣戟の圧力に徐々に押し負けそうになっていく。


(このままじゃ、あと数合でやられる……!)


 そう悟った勇馬は、意を決して最後の賭けに出ることを決意した。


「はぁっ!!」


 全身の呪力を左手に集中し、九條先輩の木刀を短剣で強かに上方向へ弾き返す。

その反動を利用して大きくバックステップで距離を取ると、呪力を振り絞って全身にまとわせ始めた。


 ほとんど体勢を崩さなかった九條先輩は強く蒼白い光を身にまとい始める勇馬の様子を見て、ニヤリと興味がわいたかのように微笑み、声をかける。


「最後の賭けか? 面白い、受けてやる。全力で来い」


 九條先輩は木刀を脇構えの型に取ると、さらに呪力を全身にまとわせ始めた。


 彼の周囲には白金色の光がゆっくりと渦巻き始め、金色に輝く木刀からは光の粒子がこぼれ出ていた、地面が微かに震えている。


 勇馬は呼吸を整え、体の正面で曲げた左手に全呪力を集中させる。体内の呪力が一点に収束していく感覚。だが、それと同時に身体が軋むような痛みを感じる。


 これが自分にとって限界の力だと本能が警告していた。


(これで決める!)


「青龍の咆哮!!」


 叫びと共に、九條先輩へ向けて突き出した勇馬の左手から蒼白く輝く光の奔流が解き放たれた。


 眩い奔流が一直線に九條に向かって放たれる。


 だが、九條先輩もまた同時に力強く声を上げる。


「草薙!!」


 九條先輩の金色の光を帯びた木刀が、空間を切り裂くかのような横薙ぎの一閃からまばゆい金色の剣閃状の呪力波が放たれた。


 二つの光の奔流が空中で激突する。


「っ……!!」


 一瞬の静寂の後、激しい衝撃音とともに輝く光の粒子が爆発的に広がる。


 勇馬の放った蒼白い呪力は、九條の金色の呪力波と一瞬拮抗したかにも見えた。しかし、次第に押し返されていく。


(だめだ……! 負ける!)


 勇馬は歯を食いしばり、全力で踏みとどまろうとする。しかし、限界を迎えた光の奔流の輝きは徐々に薄れ、ついには金色に輝く光が勇馬の呪力を完全に飲み込んだ。


「ぐっ……ああぁっ!!」


 金色の呪力波が勇馬の身体を包み込む。全身が衝撃に晒され、吹き飛ばされる感覚。脳が揺さぶられ、視界が揺らぐ。


 視界が暗転していく中、壁に衝突した勇馬は全身の力が抜け落ち、無意識のまま床へと倒れ込んだ。


「よく頑張ったな、天之。だが……まだまだだ。」


 とおぼろげな視界の中で満足そうに称賛する九條先輩の声が聞こえ、勇馬はそのまま意識が遠のいていくのを感じた。


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