12.力に目覚めた日 その12
七草と勇馬が鷹野先輩と戦っている頃――八神大地は九條幸奈の素早い短刀の連撃を、冷静に銃のフレームで捌き続けていた。
短刀の刃が鋭く光を反射し、何度も大地の顔のすぐそばをかすめる。
しかし、大地は焦ることなく、小さいバックステップを刻みながら完璧に防御し続けていた。
地形の影響で一瞬、幸奈の動きが鈍った。その隙を逃さず、大地は銃を素早く構え、連射した。
銃声が響き渡り呪力を込めた銃弾が的確に幸奈へと迫る。
「くっ……!」
幸奈は目を見開き、バックステップで距離を取りつつ銃弾を弾いた。悔しそうに唇を噛みしめ、短刀を握る手がわずかに震えている。
「なんで当たらないのよ……!」
その呟きを聞き逃さずに大地は淡々と答えた。
「前にも言ったけど、幸奈の攻撃が単調だからだよ。動きが読みやすいんだ」
大地の余裕ある解説に、幸奈の顔が怒りで染まる。
「説教するなぁ!」
その叫びと共に、彼女のセミロングの髪が逆立つように揺れ、周囲に蒼白い雷光が走り始めた。
ビリビリと空気が震え、幸奈の周りに呪力が溢れ出す。
雷光は次第に激しさを増し、ついに爆発的な閃光とともに解き放たれた。
「ペンタセキュア」
左手を掲げて大地は冷静にそう呟くと、前方に五角形の蒼白い半透明の呪力障壁が瞬時に出現した。
「くッ……!」
幸奈の雷撃が障壁にぶつかり、辺りの床が焦げ付き、煙が立ち込める。しかし、大地自身にはまったくダメージがない。
「威力は確かに凄いけど、予備動作が多いよ。もっと工夫しないと、知識がある相手には通じない」
落ち着いた口調で助言を続ける大地に、幸奈の表情は怒りで歪んでいく。
「だから! 私に説教するなぁっ!!!」
激高した幸奈が蒼白い雷をまとうと、一瞬で間合いを詰めて短刀を振りかぶり飛びかかる。
文庫本サイズに収縮させた五角形の防御障壁を掌に展開させながら、雷光のように鋭い幸奈の短刀の連撃を器用に受け流していく。
弾けるような音と雷鳴が激しく響き渡る。
しかし、二十秒も立つ頃には幸奈の呼吸が乱れ始めた。全力で放った連撃の消耗が見え始める。
「はぁっ……はぁっ……!」
消耗した為か、やや大ぶりの甘い斬撃を幸奈が放つ。
その刹那、大地の目が鋭く光る。
「待ってたよ、その隙を」
幸奈の短刀の軌道を見極め、今度は銃のフレームで刃を大きく弾き飛ばした。
「しまっ……!」
焦る幸奈の声を遮るように、五角形の障壁が展開されたままの左手を幸奈に向け大地が冷静に呟く。
「シュート」
瞬間、掌に展開されている五角形の呪力障壁が勢いよく射出され、幸奈の胸元を襲い。彼女は衝撃で後方に吹き飛ばされた。
「きゃっ……!」
しかし、流石といったところか短刀を弾かれていても幸奈は完全には体勢を崩さなかったようで、左腕で咄嗟に攻撃を受け止めていた。
そのため、地面を大きく滑りながらもなんとか体勢を立て直した。ガードしたためかダメージもあまりなく、まだその戦意は衰えていない。
「まだよ……! 私はまだ……!」
と悔しさを隠さずに幸奈が叫ぶ。
だが、次の瞬間背後から声がかかる。
「これでチェックメイトだ」
冷静な声と共に、幸奈の後頭部にひんやりとした銃口が突きつけられていた。
大地はいつの間にか、幸奈の後ろに出現させた五角形の呪力障壁を活用して瞬間的に幸奈の背後を取っていたのだ。
「攻撃したくない。降参するんだ」
その言葉に、幸奈は唇を噛みしめ悔しそうに顔を歪める。その目元にはうっすらと涙が浮うかんでいた。そして、短刀をポトリと床に落とし、両手をゆっくりと上げた。
その様子を見て、ひと仕事終わったという風に深呼吸をすると、大地は銃を懐にしまった。
「なんで……私は……」
というつぶやきが下をうつむく幸奈から聞こえてきた。
年相応な表情で涙ぐんで落ち込む後輩に、フォローの声掛けをしようとしたところで大地はこちらに近づく気配に気付く。
ふと横を向くと、その目には最近仲良くなった大切な2人の友人が、元気に駆け寄ってくる姿がうつった。