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11.力に目覚めた日 その11


 鷹野の放った霧が辺り一面に広がり、視界を覆い尽くしていた。淡く薄緑に揺らめくその霧は、ただの目隠しではなく、空間の輪郭すら曖昧にさせるような特殊な呪力を含んでいるようだった。


「気をつけるんだ、この霧……ただの目くらましじゃない!」


 説明する八神の声に勇馬が短剣を構え、慎重に霧の中を見渡していると、徐々に霧が薄れていく。しかし、次の瞬間には鷹野の姿は忽然と消え失せていた。


「……どこに消えた?」


 その不穏な沈黙を破るように、別方向から九條妹の鋭い声が響く。


「あんたくらい……私にだってできるんだから!」


 九條幸奈が短刀を逆手に構え、猛然と八神へ突進してきた。細身の身体から繰り出される素早く的確な連撃。刃の一振り一振りには呪力が込められており、普通の武器では受け止められないほどの威力がある。


「くっ…!」


 八神は冷静にバックステップしつつ、銃のフレームで短刀を辛うじて受け止めていた。しかし、その鋭い連撃の嵐に圧され、防戦一方の状況が続く。


「八神! 助けに行かないと……!」


 勇馬が助けに向かおうとした瞬間、突然銀色のトゲが霧の残滓の中から鋭く飛来した。細く鋭利な針状の物体が、空間を裂くように七草の前へ迫る。


「っ!そういことね……!」


 七草は反射的に棒を振りかざし、迫りくる針を弾き飛ばした。だが、針の数は一つではなく、複数の方向から続けざまに飛んでくる。


「七草! 勇馬! 幸奈は僕が抑えます。二人は鷹野先輩を!」


 八神が短刀の連撃を防ぎながらも、冷静に声を飛ばす。その声に勇馬は反応し、すぐさま七草のもとへ駆け寄った。


「背中を預けろ!」


「あんたこそね!」


 二人は背中合わせに立ち、七草は棒を、勇馬は短剣を構えた。銀色の針が次々と降り注ぐ中、二人は息を合わせて弾き返していく。


「……どう考えても、これは鷹野先輩の攻撃ね」


「けど、どこから……」


ダメージこそ負わないものの銀の針の勢いは衰えず、二人は防御に追われ続けるだけで反撃に転じようがない。


(このままじゃジリ貧だ……どうにかして鷹野先輩の居場所を見つけないと)


その時、勇馬の脳内に不思議な声が響いた。


(天野、私の声聞こえてる?)


(えっ……? 七草!?)


(そう、これが呪力を使った"念話"だよ。呪力を共有している状態でなら、こうやって直接思考を伝えられるんだ)


(すごい……でも、どうすればこの状況を打破できる?)


 七草の声は少し落ち着いた調子で続ける。


(結界を張るよ。ただし、上方向だけ開けておくから、そこから天井を攻撃して鷹野先輩を炙り出すの!)


(了解だ! 俺に任せて!)


 七草は棒を掲げると、力強く呪文を唱え始めた。


「祓い清めたまえ 一式結界――浄界!」


 青白い呪力の光が広がり、周囲の空間を封じ呪力を遮断する結界が展開された。ただし、天井部分だけがぽっかりと開いている。


「今よ、勇馬!」


 勇馬は力強く叫んだ。


「青龍の咆哮!!」


 左手を高く掲げ、全身から呪力を集中させる。そして次の瞬間、手のひらから放たれた青白い衝撃波が天井を直撃した。


 轟音と共に天井が粉々に砕け散り、崩れ落ちる瓦礫が霧を切り裂いた。


「いたぞ!」


 崩落した破片が鷹野の姿を露わにしていた。銀色のマントを纏い、霧と一体化していたが、完全に不可視ではなかったのだ。


「見つけた!」


 七草が即座に棒を呪力で包み込み、全力で駆け出した。


「くっ……見つかったか……!」


 鷹野は霧を操り再び逃げようとするが、その場を逃れる暇すら与えない。七草が力を込めた棒を振り抜く。


「これで終わりっ!」


 鈍い音と共に棒が鷹野の腹部に命中し、彼は吹き飛ばされた。倒れ込んだ鷹野に、勇馬が素早く駆け寄り、短剣の切っ先を喉元に突きつける。


「降参ですか?」


 しかし、鷹野は薄く笑った。


「甘いな……!」


 次の瞬間、鷹野の服の内側から複数の銀の針が一斉に弾け飛んだ。


「しまった!」


 勇馬は反射的に防御の姿勢を取るが、呪力を放った消耗で反応が遅れてしまった。数本が直撃し、鋭い痛みが走った。


 その隙に鷹野は勇馬を蹴り飛ばして体勢を立て直し、逃げようと再び姿勢を低くした。


「逃がすかー!」


 七草は一瞬で青白く強く光る呪力を全身に纏い、棒を強く握り直すと、一気に踏み込んで背後に迫り。


「これで……終わり!!」


 そのままの勢いで横薙ぎにふるわれた七草の棒が、鷹野の側頭部を捉えた。鷹野の体が勢いよく吹き飛び、そのままに壁に衝突して倒れこんだ。


 完全に意識を失った鷹野を見下ろし少し心配しつつも、勇馬は息を整えながら驚いたように呟いた。


「……すごい、本当にダメージが少ない」


 七草がニッと笑い、棒を肩に担ぐ。


「でしょ? 呪力ってすごいのよ」


 二人は軽く微笑み合ったものの、次の瞬間、真剣な表情に戻る。


「次は八神の援護だ!」


「うん、急ごう!」


 そう言って、二人は八神の戦場へと駆け出していった――。



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