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 9.力に目覚めた日 その9



「さあ、どんどんギアを上げていくよ!」


 七草が楽しげに言い放つ。薙ぎ払いや打ち下ろしなど、何度か棒を受け止めることや回避することに成功したものの、流石に力尽きた勇馬は、最後に首元へ寸止めをくらい、その場に膝をついた。


「やっぱり才能があるねー!」


 七草が満足そうに声を弾ませる。勇馬自身も、自分がここまで動けたことに驚いていた。


「さて、一回休憩にするか」


 瀬尾先生がどこから取り出したのか缶ジュースを投げてよこしてくれたので、ありがたく受け取った。


________________________________________



 呪力とは、この世界のすべてのものや現象に関係する根源的なエネルギー。それを身体にまとわせることは、単なる強化にとどまらず、身体の本質を向上させ、根源とのつながりを深める行為でもある。


「つまり、五感はもちろん、耐久力や耐熱性、第六感的な予知能力など人体に秘められたあらゆる能力が向上するということだよ」


 缶ジュースを飲みながら瀬尾先生の講義を聞いている勇馬に八神がさらりと解説を挟む。


 勇馬がまだ完全に理解しきれていない様子を見て、瀬尾先生が雑にまとめた。


「要はだ、視力や聴力なんかも鋭くなるし、未来をほんの少し先読みできる力も手に入るってことだ。それが実感できると面白いぞ」


 八神が少し得意げに続ける。


「ちなみに、呪力を感じる力は第七感、異界とつながる能力は第八感と呼ばれることもあるんだとか。まあ、少しマニアックな話だけどね」


 七草がみんなの空き缶を回収したところで、八神の説明を瀬尾先生が軽く手を振って遮った。


「まあ、説明はこの辺にして、体験してみるのが一番だ。八神、例のやつ、頼むぞ。」


 八神は頷くと、腰から銀色のオートマチック拳銃を取り出した。銃身が通常より長く、古めかしい装飾が施されており、ただの銃ではないことが一目で分かる。


 勇馬が少し警戒しつつ八神を見つめると、八神は無表情のまま銃口を勇馬に向けた。数秒間、何も起こらなかったが、突然背筋に鋭い冷気のようなものが走った。


「おっと、避けたね。」


 八神が軽く微笑む。


「今のは、僕が呪力を発動して攻撃の意志を示した瞬間に、君が直感的に察知した証拠。それが第六感だよ」


「え、じゃあ本当に撃たれたらどうなるんですか?」


「その剣を使えば弾を弾くこともできるよ。ただ、弾けるかどうかは技量次第だけどね」



 八神が淡々と説明した後、素早く後退し、10メートルほど距離を取った。


「よし、始めるぞ!」


 瀬尾先生の合図で、八神が引き金を引く。バシュッという火薬のものとは少し異なる音とともに、銃口から放たれた弾丸が一筋の閃光のように走る。


 勇馬は反射的に体をひねり、次の瞬間、背後の壁に弾丸がぶつかる鈍い音が響いた。


「避けたね。初めてにしては上出来だ。」


 八神が満足そうに頷きながら、さらに数発発射する。勇馬は何度か回避しつつ、ついに剣で弾を弾くことに成功した。


「すごいじゃん!」


 横からみていた七草が目を輝かせて声を上げる。


「第六感や耐久力の向上もあって、呪術使いには銃なんかむしろ防ぎやすい部類に入るんだよ」


 八神が感心したように説明を続けるが、勇馬は剣を見つめながら静かに息を整え、心の中で驚きと興奮が交錯していた。


(本当に……俺でもこんな力が使えるんだ……)


 自分の中で何かが変わっていくのを感じていた。


 訓練がひと段落すると、瀬尾先生が次の予定を伝えた。


「初日の成果としては上々だな。この調子であと2、3日は基礎訓練を続ける。その後、攻撃技術の呪力活用を学んで土曜日には初の模擬戦闘訓練に入るぞ」


「了解です!」


 勇馬は力強く返事をした。


 瀬尾先生は満足そうに頷くと、「じゃあ、片付けは任せた」とだけ言い残し、部屋を後にした。


 勇馬はふと、部屋のあちこちに刻まれたヒビや、めり込んだ弾痕に目を向け、思わず声を漏らす。


「これ、大丈夫なのか?こんなにボロボロで……」


 八神が微笑しながら答えた。


 「大丈夫、大丈夫。この訓練室は錬金術で作られた特殊な流体金属でコーティングされているん。」


 そう言って八神が床に手をついた瞬間、床が波打つように歪み、数秒後には部屋全体が元通りの白いタイル状に戻っていた。


「呪力を流せば元の状態に戻る。形状記憶合金の進化版みたいなものさ。」


「すごい…!」


 勇馬は驚きながらも、この環境がどれだけ特別なものかを改めて実感していた。


「よし、教室に戻ろう!」


 七草が明るく声をかけ、全員が教室へと戻っていった。


 その後、ホームルームを終え、生徒たちは解散となった。


 訓練で得た興奮が冷めやらぬ中、勇馬は自分の新しい日常が本格的に始まったことを改めて実感していた。



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