文字化け少女と何者少年
夕暮れ。空き教室。私は絵筆を水に浸す。
「できた」
私はとにかく窓辺に腰掛ける翼の生えた少年だけ完成させた。そこに今の私の思いを込めて。
「見てもいいのかな」
「うん、みて、ほしい」
私の心臓の鼓動が早まる、高まる、止まらない。顔から全身に伝わるように熱を帯びる。進は読んでいた本を片手に、私の背後に。私は席をずらし、絵を見てもらう。そこには。
「翼、いいね」
彼の背中には竜の翼のように力強く、どこまでも己の意志で羽ばたいていけそうな、そしてその翼の鱗は、七色を超えるほどの多彩な彩りで煌めいていた。
「これならどこに進んで行こうが、どんな未来が待っていようが、くじけないな」
マンションの自室。いつも通りのベッドの上。仰向けになりながらガラケーを見つめている。
メールが久方ぶりにたくさん来た。といっても唯子からだけど。荒ぶる乙女パワーが止まらないみたいだ。とりあえず、風邪早く治してねと。
いつもと違うのは、一件だけ。大川進から。その内容はこうだった。
ありがとう。ひとつはそれだけ。追伸、今読んでる小説さ、主人公がヒロインと出会って、広い世界へ冒険するっていうファンタジーなんだ。俺に見えたその世界、直接伝えたいから、また。
その最後には一文字だけ文字化けが。私は一言込めて、返信する。
続き、聴かせてね。じゃ、おやすみ。
私は部屋の電気を消す。繋がる人が一人増えたガラケーを置き、眠りにつく。でも鼓動はまだ元気に弾む。それが心地よい。彼も今こんな気持ちだったら嬉しいな。そうだ、あの絵のタイトル。どうしよ。彼は私にとって何者にでもなれそうな、自由の翼を、言葉の魔法を持っていた。それに対して私は何だろ。結局言葉で伝えるのは難しい。そうだな……。微睡む意識の中で私はタイトルを思い浮かべる。
文字化け少女と何者少年。
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