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スケッチ、私は。

マンションの自宅。私は風呂上がりのラフな格好でベッドの上に。片手にはガラケーが。ガラケーにしたのは母親の影響と現代嫌いな私のバグったこだわりだ。シングルマザーの母に金銭的負担をかけたくない、ということが半分。あとは数多の人の感情が吐露されるスマートフォンは想像しただけでも気分が酔ってしまうから。


風鈴の音が二回鳴る。唯子からのメールだ。内容は彼の事。珍しく絵文字が少なかった。代わりにやや長文だ。うつ伏せの姿勢になり一読する。


大川進はみんなの期待に応えてあげようとする陽気な学級委員長、みたいな印象だったと。実際そうだったと。それは父も母も二人とも教員として有名校で教鞭を執っていること。それが少なからず、いや、かなり影響していて、本人も親の見えない期待に応えるべく、教職一本道を迷うことなく進むのだと。


しかし彼は高校一年生の梅雨の頃、しばらく学校に来なかった。唯子は詳しくは知らないけれど、噂では成績が親の期待に沿えず心が病んだというのが一時期広まったらしい。


私は浅い呼吸をする。そういった噂話に全く関心無く、知らなかった自分にやや自己嫌悪。初めて会ったあの日、彼は優しく眩しかった。空き教室で作業を始める自分達を手伝ってくれた。机を動かしたり、唯子の作品のテーマ決めに気さくに相談に乗ってくれた。その日、私は胸にたまる熱量を上手く言葉に出来ずほとんど無言で、教室の見える風景をスケッチしていた。彼が窓際にいたその風景を。


「お、清水さんに望月さん。よっす! 場所取りしといたよーってね」


放課後、その空き教室には彼がいた。窓の縁に座り、今日も小説を読んでいた。

その姿は私の言葉では形容出来なかった。言葉にしようとしてもノイズが入る。今ある感情とずれを感じてしまう。だから私は文字化け少女。ずれているんだ。想いと心と表し方が。私は黙々とこの教室の、彼のいる窓辺が見える風景をスケッチしていく。


「うーん。どうしようかな……」


「あれ? 清水さんテーマ教室動物園にするんでしょ?」


「うん、でね、シロクマは描きたいんだけど、あとペンギンも……でもそれだと……」


「教室水族館だね」


「そうなの心美ちゃん。それでもいいんだけど、ホワイトタイガーとカピバラも外せないし……」


そのこだわりは何なんだ唯子ちゃん、あれかな単に好きなもふもふアニマル描きたいのかな?


「ならさ、結局動物なんだしアニマルクラスルームとか私だけの動物園とかって題名にすればしっくりくるんじゃね?」


軽く自然に発せられるその声のトーン、風の魔法を使うような指の仕草。質問者が欲しい答えをアシストする。私には大川進が人間には見えなかった。いい意味でって、言おうにも角が立つけど。


「ねえ心美ちゃん。心美ちゃんは結局どんな……」


隣で描いていた唯子が自分の作業の傍ら覗き込んできた。進はまた窓辺に腰かけ小説を読んでいる。私から見える窓辺の構図と、スケッチに下書きされた教室の風景。違うのは、そこに大川進が居るか居ないか。彼がいる窓辺だけ下書きが進んでいない。


何かを感じ取った唯子。それを察知した私。ほわぁ〜と口元がにやけている唯子はおそらく乙女モード真っ只中だ。好きな乙女漫画を語る時と一緒だ。ぎぎぎぎと私は無骨な笑顔と視線で黙らせる。だが唯子は分かって頷くが、その表情は少女漫画に没頭中の乙女だ。今日のメールは長そうだ。



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