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文字化け少女、出会う

短編小説として応募した過去作です。少年少女の青春物語です。楽しんで頂けたら幸いです。

この世界で私はバグってる。


マンションの自室のベッドの上。仰向けでだらける私の片手にはガラケーが。そう、あの旧型の携帯電話である。


風鈴の音が二回した。片手で開き液晶を見つめる。宛名には私の名前、望月心美(もちづきここみ)が。


差出人は高校に入学して初めてできた唯一の親友、清水唯子(しみずゆいこ)。そこにはいつもの彼女の優しい文面で、美術部の画材の買い出し行こうよと。ただしその文面の途中にはいつもの四角とその内に?マークが。おそらく絵文字があったはずであろう場所に。


あ、文字化けしてる。ま、いつもの事か。


私は使い慣れた肩掛けのショルダーバッグを手にして玄関を出る。


自称私は文字化け少女。世界の普通と少しズレている。



季節は太陽満開な夏も終わり、何かに集中するにはちょうどいい涼しさ。美術部にとってはまさに芸術の秋。


「しばらくは文化祭に向けてこの校舎をモデルに一枚作品を描いてくださいね。校舎さえ写っていれば後は自由に表現してください」


年配の顧問の先生が出す課題に各々のトーンではーいと返答する数名の美術部員達。


「心美ちゃん。どこで描く? というか一緒の場所で描きたいな……あはは」


「うん、そだね。空き教室とかで描こうかな。唯子はどう?」


「うん。そうしよ!」


唯子は慎ましくも安堵し嬉しいという感情が、見たままに表れる。聴いたままに感じ取れる。そこが彼女と一緒にいて心地良い理由だ。


空き教室へ画材を抱いて移る途中すれ違う、少し派手な印象を受ける女子生徒や、洒落た雰囲気を醸し出す男子生徒達の会話から聴こえる声や表情、簡潔に言うと言動にはどうにも反りが合わない。悪意のようなものを感じてしまう。他者と自分を比べ、自分にのみ利があろうとする感じの、無意識。放課後のその時間、皆の片手には当たり前にスマホがある。そしてすぐにそこに自身に過ぎった感情を吐露している。きっとそっちが普通で正常なんだって。私が特異的に感情表現が現代からバグってる。文字化け少女。普通じゃない。感情が乏しいガラクタな価値観。


空き教室の扉を開く。そこには教室の片側に寄せ並べられた使われていない机と椅子。そして窓辺には、一枚だけ開けられた窓。その開かれた四角い枠組みから、健やかに風が漂いカーテンをなびかせていた。


そしてそこに、縁に腰かけ、小説をめくる、一人の少年。


「え、あ……」


「ん? うおっとすまん! 美術部ここ使う?」


その声、表情、仕草、佇まい、真っ直ぐだった。俗世にいながら俗人感が全くしない。感情が真っ直ぐそのまま伝わる。その感情に利己主義を感じさせない。その一瞬のやりとりで、私はこの人を信頼した。憧れと、少しの嫉妬に似た感情かな、なにか形容し難い胸が熱くなる感覚に浸された。そんな初めての感覚が遅れてやってきたのだ。


「あ、大川(おおかわ)くんだ」


「え、知り合い?」


「うん、大川(しん)くん。小中学校一緒だった。同じクラスになった事はあんまりないけど……」


ひょこっと、顔を乗り出し空き教室を一緒に覗く唯子。唯子も警戒感無く声を出していることから、きっと反りが合う。そう確信した。


「お、清水さんか。美術部ここ使うなら場所変えるからさ。俺帰宅部だし、時間潰してただけだから」


そのおどけてやや自嘲気味な振動がする言葉に嘘も裏も無い。ただ、その奥に暗い闇の塊みたいな思いを私は感じてしまった。


「え、そんなそんな! 私は別に気にならないけど……えと」


「私もいいよ。なんか作業の邪魔にならなさそうだし」


ああ、心と言葉がまた文字化けだ。今のは嘘じゃないけど、嫌悪感あるみたいな伝わり方だ。少し自己嫌悪する。


「まじ? ありがと。 ここ好きなんだよね実は。あ、なんか協力することあったら遠慮なく!」


それが大川進との出会いであった。




短編小説の為、数章に区切って投稿します。読み終わり気に入って頂けたら評価やコメント、ブックマーク頂けたら次作への励みになりますm(_ _)m

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