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主人公降格!? ~協力者のはずの幼馴染に主役の座を奪われました~  作者: 金谷羽菜
第7章

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第1話 結太、龍生にやんわりと追及される

 結太をからかうだけからかい、(しゃべ)るだけ喋ると、(すみれ)は満足したように、『じゃあ、また明日来るわねー』と言って帰って行った。


「もう少し待っていてくだされば、安田も戻って来ます。お家までお送りしますよ」


 との龍生の申し出は、丁重(ていちょう)に断られた。寄りたいところがあるのだそうだ。


 病室に残った龍生と結太(東雲には席を外してもらった)は、事故後、初めて二人きりになった。


「昨夜、夕食時におまえと会ってから、まだ一日も経っていないんだな。なんだか、すごく久し振りに、顔を合わせた気がする。――今朝も会いはしたが、おまえは怪我で混乱していたしな。俺がいたことすら、わかっていなかったんじゃないか?」


 龍生が訊ねると、結太はしみじみした顔でうなずく。


「うん。そー言やー、そーだったなー。痛くて痛くて、誰が何言ってたかとか、よく覚えてねーし。……ほんっと、マジでいろいろあり過ぎて、昨夜のことすら忘れちまいそーだぜ」


 龍生は『忘れちまいそー』という言葉にピクリと反応し、


「……そうか。では、忘れないうちに教えてもらわないとな」


 意味ありげな笑みを浮かべた後、一変して真顔になり、じっと結太を見据(みす)えた。

 結太はきょとんとしてから、小首をかしげる。


「――へ? 『教えてもらわないと』……って、何を?」

「保科さんに、歯形を付けられたんだろう?」


 言葉尻(ことばじり)(かぶ)せるように、龍生から質問が飛んで来た。

 結太は、『なっ、何だよいきなりっ!?』と上擦(うわず)った声を上げると、うろたえたように視線をさまよわせる。


「いきなりではないだろう。ずっとそのことで、菫さんにからかわれていたじゃないか」


 龍生が言い返すと、結太は『そっ……そりゃ、そーだけど……』とモゴモゴ言い、つむじが見えるほどに深くうつむいた。


 顔を赤らめた後、表情を隠すような行動を取る――ということは、やはり、事実なのだろう。

 結太の性格ならば、違う場合は違うと、ハッキリ否定しているはずだ。


 ……まあ、歯形を付けられたのが昨夜なのだとしたら、相手は咲耶以外、考えられないのだが。


「保科さんは、何故そんなことを? 知り合って間もない男に、ふざけてそういうことをするような人には、とても思えないが」

「……ど、どーしてって言われても……」


 どう答えたらいいものかと、結太は頭を悩ませた。


 正直に、『保科さんが寝惚(ねぼ)けて付けたんだよ。夢の中で、オレは、豚の丸焼きだったらしーぞ』と、言ったとする。


 そうすると今度は、『寝惚けて首元を噛まれるくらい、近くで寝ていたのか?』などという質問を、される可能性があるのではないか?


 ……だとしたら、どう返せばいい?

 これも正直に、


『昨夜は、長い間雨に打たれて、オレ、低体温症ってものになっちまったらしくてさ。死にかけたんだよ。そしたら保科さんが、濡れた服脱がせて、新聞紙巻いたり、ポリ袋(かぶ)せたりして、どうにかしてあっためようって、頑張ってくれてさ。そのお陰で、死なずに済んだんだ。……けど、今度は保科さんが寒いっつって、オレの隣に(もぐ)り込んで来てさ。仕方ないからそのまま寝てたら、向こうがオレに、〝抱き枕〟代わりになれって言って、抱きついて来たんだ』


 などと、話せと言うのか?



(……いやっ、そりゃダメだろ! 付き合ってるわけでもねー男と女が、体密着させて眠った結果、寝惚けた女に食べ物だと思い込まれて、首元に噛み付かれました、なんて……。いくら、お互いに恋愛感情なんざ一切ねーっつっても、怪しまれるに決まってる!……それに、このことが伊吹さんに知られちまったら……もう、誤解解いて告白するどころの話じゃー、なくなっちまうんじゃねーのか?……ダメだッ!! ダメだダメだッ!! こればっかりは、龍生にも話せねーッ!!)



 その結論に達すると、結太は今後一切、このことについて、(しら)を切りとおすと決めた。


「どーしてって言われてもなー。実はオレも、よくわかんねーんだよなー。歯形のことも、母さんに言われて初めて知ったってくらいでさー。理由知ってるのっつったら、歯形付けた本人くれーなんじゃねーの?」


 目をそらし、結太はやたらと早口になりながら、嘘の証言をしてみせた。


 この程度の嘘、龍生には簡単に見抜かれてしまう気はしたが……。

 〝自分からは、絶対に真実は話さない〟という意思表示として受け取り、諦めてくれないだろうか。


 結太がだんまりを決め込むとなると、この問題は、咲耶に丸投げすることになってしまうが……この際、仕方あるまい。


 元はと言えば、咲耶が寝惚けたせいで、発生した問題なのだ。彼女自身に責任を取ってもわなければ、事件(?)は収束しないだろう。


 ……とは言え、彼女が眠っていた間に起こったことなのだから、本人にも、説明のしようがないと思うが。


「……へえ。おまえが知らないうちに、歯形は付けられたと言うんだな?」

「あ、あぁ……。そーだ」


 龍生は腕を組み、じいっと結太を見つめているようだった。


 結太はうつむいたままなので、龍生の表情まではわからなかったが、結太自身に後ろめたさがあるせいか、何となく、責められているような気がした。


「……わかった。知らないと言うのなら、これ以上訊ねても意味がないな。次に会った時、保科さんに訊いてみよう」

「そっ、そーだな、うんっ! それがいーんじゃねーかっ?」


 意外にも、あっさりと引いてくれた。

 ホッとしたためか、結太はまた、早口になっていた。


 龍生は小首をかしげ、


「では、結太。最後にひとつだけ、頼みがあるんだが」


 普段、結太にはほとんど向けることのない、〝王子様スマイル〟を浮かべて訊ねる。


 気が(ゆる)んでいた結太は、気楽に、『ああ、いーぜ。何だ、頼みって?』と、微笑み返していた。


「歯形を見せてくれ」

「あー、歯形な。わかっ――……たああッ!?」



 ……危ない。


 うっかり承諾(しょうだく)してしまうところだった。



「な――っ、なななっ、なっ、何言ってんだ!? んなもん見てどーすんだよッ!?」

「べつに、どうもしないさ。ただ『見せてくれ』と言っているだけだ。簡単なことだろう?」

「かっ、簡単じゃねーよッ!!……ちょ――っ! おいっ? 何ジリジリ近付いて来てんだよっ?……おいっ! こっち来んじゃねーって!」


 龍生は結太の後方に回り込むと、Tシャツの襟元(えりもと)を掴んだ。

 結太は、とっさに両手を首に持って行き、素早く襟元を掴み返すと、思いきり前方に引っ張る。

 龍生も負けじと引っ張るが、結太がキツく引っ張ってガードしているため、なかなか首の下の方が見えて来ない。


「何故抵抗する? 首元を見せるくらい、どうってことないだろう? 男同士なんだ。恥ずかしがる必要もない」

「――って、そーゆー問題でもねーだろッ!? 嫌なもんは嫌なんだッ!!」


 お互いがTシャツを引っ張り合い、ほとんど、力比べのようになってしまっている。

 結太は必死に(あらが)うが、両脚を釣られている状態での勝負は、やはり無理があった。


「――(いて)ッ!! イテテテテテ…ッ!!」


 脚の痛みに耐え切れず、結太の手がTシャツから離れた瞬間、龍生は一気に、肩が全て(あら)わになるくらいまで、Tシャツを引き下げた。


「……これが〝歯形〟か」


 確かに、クッキリと歯形が残っている。

 ここまでハッキリと痕が残っているとなると、相当強く噛まれたのだろう。……よく血が出なかったものだ。


「左側の、やや後方の首元付近。……何故、こんなところに噛み付いたのか……」


 龍生がつぶやいた、その時だった。

 戸をノックする音がした後、看護師の女性が入って来て、


「楠木さーん。包帯を替えるお時間で――」


 そこで言葉を切り、固まってしまった。

 龍生は、どうしたのだろうとその看護師を見返したが、自分が今何をしている状況かを思い出し、


「……あ」


 と言ったまま、やはり固まったのだった。

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