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第5話 結太、悪夢にうなされ飛び起きる

 右も左もわからない、真っ暗闇(くらやみ)の中に、結太はいた。


「えっ?……ここどこだ?」


 あまりにも暗くて、自分が立っているのかどうかもわからない。地面を()みしめている感覚すらなかった。


 不安に襲われ、自分の体を抱き締める。

 ……大丈夫だ。温かい。


 顔を上げ、結太はありったけの声を張り上げた。


「龍生、どこだっ!? いるなら返事しろっ!!……龍生っ? 龍生ぉおおおーーーーーーーッ!!」


 ――その時。

 闇を真っ二つに切り裂くように光が走り、待ちわびた声が、周囲に響き渡る。


「うるさいぞ、結太。今大事なところなんだ。邪魔するな」

「――龍生っ!?」


 慌てて辺りを見回すと、いつの間にか背後には、教会のチャペルのようなものがそびえ立っていた。



(教会? 何でいきなりこんなものが……?)



 そこでふと、先ほどの龍生の台詞(せりふ)が、脳内で再生される。


『うるさいぞ、結太。今大事なところなんだ。邪魔するな』



(『大事なところ』?…………って、まさかっ!?)



 結太は慌てて駆け出し、教会のドアを両手で開け放った。


 長いレッドカーペットの先に、タキシード姿の龍生が見えた。

 そしてその横には、ウェディングドレス姿の女性が――。


「龍生っ!!」


 嫌な予感がして、結太が龍生の名を叫ぶ。

 龍生はゆっくりと振り向き、結太と目が合うと、挑発するようにフッと笑った。

 横にいる女性も、ゆっくりと……まるで、スローモーションのように振り向き……。


「――伊吹さんっ!?」


 ウェディングドレス姿の女性は、桃花だった。

 桃花は龍生と腕を組み、幸せそうに微笑んでいる。


「そんな……。嫌だッ!! 伊吹さん――ッ!!」


 片手を伸ばし、二人に駆け寄ろうとするが、近付くどころか、何故か、どんどん遠ざかって行く。


「伊吹さんっ!!――伊吹さんっ、ダメだっ!! 行かないでくれっ!!」


 懸命に走っても、全く二人に追いつけない。

 二人も、走っているわけではないのに、結太との距離は、確実に開いて行く。


「伊吹さんっ!! 伊吹さぁああーーーーーんッ!!」


 ほとんど涙声で、桃花の名を叫び続けていると、二人が遠くで振り返り、再び龍生が、挑発的(ちょうはつてき)な笑みを浮かべた。

 そして桃花と向かい合い、彼女のベールを両手で持ち上げた後、ゆっくりと顔を近づけて……。


「やめろ龍生っ!! 伊吹さんに触るなぁあああーーーーーーーッ!!」




「ダメだ龍生っ!! 龍生ぉおおおおーーーーーーーッ!!」


 結太は夢中で飛び起き、近くにいた人影に抱きついた。

 そのとたん、


「きゃあっ!?」


 耳元で、可愛らしい女性の声が響く。


「えっ!?」


 一瞬にして現実に引き戻された結太は、ギョッとして顔を上げた。

 眼前には、あと数センチで、(たが)いの鼻先が()れる――というところまで、桃花の顔が迫っていた。


「うぇえええッ!?」


 心臓が飛び出そうなほど仰天(ぎょうてん)し、結太は両手を使ってベッドの(はし)まで後ずさりした。

 体温急速上昇、心臓爆発寸前(すんぜん)、脳内沸騰(ふっとう)注意報発令(はつれい)

 結太は身心共に、色々な意味で限界突破(とっぱ)しそうになった。


「な、なっ、ななな何でっ!? 何でここに伊吹さんがッ!?」


 目を白黒させながら、やっとのことでそれだけ伝えると、桃花は顔を真っ赤に染めながら、


「あ……あの、えっと……えっとね、楠木くん、秋月くん()のボディガードさんにね、間違って背負い投げされちゃったの。そしたら楠木くん、気を失っちゃって。それで、あの……怪我とかはしてないみたいだから、とりあえず寝かせとこうってことになったんだけど、秋月くんは用事があるから、代わりに様子を見ておいてほしいって、頼まれたの。……あの、だから……秋月くんじゃなくてごめんなさいっ」


 ぺこりと頭を下げられ、結太は慌てて頭を振った。

 様子を見ていてくれたのが桃花で、叫び出したいほど嬉しい。気を利かせてくれた(たぶん)龍生には、感謝したいくらいだ。


 それなのに、桃花は尚も、申し訳なさそうに(ちぢ)こまり、


「楠木くん、目が覚めた時、秋月くんの名前呼んでたもんね。きっと、秋月くんの夢見てたんでしょう?……夢に見るくらい好きなんだもの。秋月くんに側にいてほしかったよね。なのに、わたしなんかがいて……本当に、ガッカリさせちゃってごめんなさい……」


 目に涙など()め、今にも泣き出してしまいそうだ。

 結太はどうしていいかわからず、混乱し、その場にいない龍生の姿を、キョロキョロと捜してしまった。


 だが、当然いるはずもなく……。

 結太はためらいながら、恐る恐る話し掛けた。


「いや、そんな……。伊吹さんが謝ることないから。龍生なんて、ほらっ、昔っから側にいたしさ。たまには、姿見えないくらいの方が、せいせいするってゆーか――」


 あはははは、と笑ってみせたが、桃花は真剣な顔で結太を見つめ、


「そんな、せいせいするなんて――! 好きな人のこと、どうでもいいみたいに言わないで? わたしに気を遣って、言ってくれてるんだろうけど……。でも、楠木くんがどれだけ秋月くんのこと好きか、わたし、知ってるから。ずっとずっと好きだったこと、知ってるから。だから、わたしの前でだけは、無理しなくても大丈夫だからっ!」

「……え?……えっ?」


 妙に熱のこもった言い方をされ、結太は一瞬戸惑(とまど)ったが、『そうだ、オレ……龍生のこと好きだって、誤解されてるんだった!』ということを思い出す。


 そもそも、今回のWデートだって、誤解を解くために、わざわざ龍生がセッティングしてくれた(と、結太は思っている)のに。

 それを、いくら桃花と二人きりの状態で、舞い上がっていたとは言え、すっかり忘れてしまっていたとは……。


 結太は自分が情けなくなり、大きなため息をついた。


 このままではいけない。

 ここまで誤解されてしまっていては、告白どころの話ではない。


 結太は意を決し、桃花をまっすぐに見据(みす)えた。


「伊吹さん、違うんだ。オレはべつに、龍生のことが好きなわけじゃ――!」


 結太が誤解を解こうとした、その時だった。


「もぉおおーーーしわけございませぇえええーーーーーんッ!! 結太さんっ、俺のせいでこんなぁああああーーーーーーーッ!!」


 野太い男の声が近付いて来たと思ったら、荒々(あらあら)しくドアが開き、巨大な男が、勢いよく駆け込んで来た。

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