第18話 結太、悲鳴を上げたイーリスに押し倒される
「えっ?――ぅわッ!?」
イーリスに抱きつかれそうになり、とっさに後方へ体を引いた結太は、逆にバランスを崩し、仰向けにひっくり返ってしまった。
すかさずその上に、イーリスが覆い被さるように抱きついて来て、
「イヤーーーッ!! イヤイヤイヤァッ!! 誰か…っ、誰か助けてぇええええーーーーーッ!!」
結太の体を下敷きにし、首を左右に振りながら、ひたすら叫び続けている。
「お――っ、おい、イーリスっ?……どーしたんだよっ? 何が『助けて』なんだ?」
上に乗られて、身動き出来ないまま訊ねるが、イーリスは『イヤ』『怖い』『助けて』などを繰り返すばかりで、ちっとも要領を得ない。
どうやら、まともに返事をする余裕もないほど、パニックに陥っているらしい。
(いったい、どうなってんだ? 何をそんなに怖がってんだよ、イーリスのヤツ?)
何を怖がっているのかも、その理由も不明だったが、このまま、床に倒れているわけにも行かない。
結太は、まずはイーリスの腰を持ち、自分の体から離そうとした。
しかし、女とは思えないほどの強い力で、必死にしがみついて来ていて、なかなか離れてくれない。
(おいおい、勘弁してくれよ。伊吹さん一筋のオレだって、こんなに長いことしがみつかれてたら、いろいろとマズいことに……。とっ、とにかく、イーリスにどいてもらわねーと……って、クソっ! なんで、こんな良い匂いがすんだよ。クラクラして来ちまうだろーがッ!! おまけに、なんでこんなに柔らけーんだよ、女の体ってヤツはッ!!……イーリスなんて、胸以外はみんな華奢で、腕も脚も棒みてーに細ぇーから、触っても、骨ばっかりの感触しかしねーんだろーなって、思ってたのに……)
予想に反して、イーリスの体は、ギョッとするほど柔らかく(腰を持ってみての感想だが)、髪の……シャンプーの匂いなのだろうか。ほのかに甘くて、瑞々しい……爽やかな花のような匂いがした。
(あー……っ、このままじゃマズい! かなりマズいッ!!――いや、これはもはや、ピンチと言ってもいいッ!! どーにかしてどかさなけりゃ、こっちがおかしくなっちまうッ!!)
結太は焦り、歯を食いしばって、イーリスの腰を思い切り押しやる。(ちなみに、好きで腰を持っているわけではない。肩辺りを持ちたかったのだが、イーリスが首にギュッとしがみついているため、肩に、どうにか手は置けるものの、体勢的に、力が籠められそうになかったのだ)
それでも彼女の体は、結太の体から離れてくれない。
結太は、すっかり力尽きてしまった。
これはもう、イーリスが落ち着きを取り戻し、自分から離れてくれるまで、待つしかないのか――と思い始めた、その時。
パッと結太の頭に、名案(……と言えるほどのことでもないのだが)が浮かんだ。
今は、自分の体が下になっているから、イーリスの体が重しのようになって、なかなかどかせないのではないか?
どかすことが出来ないのなら、柔道の寝技を外す時のように、体勢をひっくり返し、自分が上になることが出来れば、逃げられるのでは……?
(そーだ! 柔道の寝技を掛けられてると思えばいーんだ!……とすると、足をこうして、こう……で、こう――っ!)
――やった! 一か八かで試してみたが、うまいこと上になれたぞ!
結太はホッと息をつき、両腕を床について、自分の体を浮かせようとした。
すると、ホッとした一瞬の隙を突かれ、イーリスの両腕が結太の首に、イーリスの両脚が結太の腰辺りに回され、ガッチリとホールドされてしまった。
(え…っ、えぇえええーーーッ!? まっ、まさかのカニばさみぃいいいーーーーーッ!?)
驚きのあまり、心で絶叫する結太だったが。
ドサッ。
何かが床に落ちたような音がし、ハッとして、音のした方へ顔を向けると……。
「ヒ――ッ!?」
思わず、短い悲鳴を上げてしまった。
何故なら、結太の視線の先には、床に鞄を落とし、真っ蒼な顔で玄関口に立っている桃花と、やはり、蒼い顔で目を見張っている咲耶。その後方には、呆れ顔でこちらを見つめている、龍生の姿があったからだ。
彼らを目にしたとたん、結太は思い出した。
そう言えば、『これでいーでしょ?』と言って、イーリスが、ドアを全開にしていたことを。
……とすると、先ほどまでのイーリスの悲鳴も、当然、外に丸聞こえだったわけか……。
それに加え、イーリスが下に、結太が上になって倒れている、今のこの状態は、〝結太がイーリスに襲い掛かっている〟ように、見えなくもないのでは……?
そして更にマズいことに、彼らがいる玄関からは、もしかして、結太とイーリスの頭しか……見えない、のではないか?
それらの考えが、一瞬にして頭を駆け巡った後、
「違…っ!――ちっ、違うんだこれはっ! これはイーリスが――っ」
慌てて状況を説明しようと口を開くと、桃花がくるっと踵を返し、何処かへと駆け出して行ってしまった。
「桃花ッ!! 桃花待ってくれ――っ!!」
それを追うように、咲耶も後に続く。
龍生は一人、その場に残り、変わらぬ呆れ顔で両腕を組み、
「……何か、言いたいことは?」
およそ、感情のない声で問い掛ける。
結太には、龍生の台詞が、〝死刑直前の死刑囚に最期の一言を訊ねる看守、もしくは、神父や僧侶の台詞〟のように思えた。
結太は、イーリスにしがみつかれたままの体勢で、涙声で訴える。
「ごかっ、誤解――っ! 誤解ですっ、誤解なんです伊吹さぁあああ~~~~~~~んッ!!」
部屋中に響き渡ったその叫びは――。
悲しいかな、桃花の耳には一切届いていなかった。
……はい。
なんだか、中途半端なところで終わっていてごめんなさい。
ですが、これはわざとなのです。あえて、なのです!
キリの良い(?)ところで終わりにして、改めて〝今度こそ、『結太が主人公!』と胸を張って言える作品〟の連載を開始するのです! あえての終わりなのです!(早い話が、仕切り直しということですね)
……とは言え、私が最初に〝主人公設定〟を間違えなければ、もっとスッキリした終わり方が出来ていたと思うんですよ。
ですから、まあ……結局は、作者の至らなさ、未熟さ、計画性の無さが、こういう結果を招いてしまった、と……。
そこは、大いに反省しなければいけない点です。はい。猛省しております。
本当に申し訳ございませんでした!
これも全て、このお話を、ろくにプロットも考えないうちに、見切り発車的に書き始めてしまったのが、いけなかったんですよね……。
もともと、すごく大雑把なプロットしか考えないタイプなんです、私。
ただでさえそうですのに、今回のこのお話は、今まで書いて来たものの中でも一番、先のことを考えずに書き始めてしまった作品でした。
何せ、元ネタが〝四コマ漫画〟ですからね。
数年前に思いつき、四コマ数点分のネームを切ったまま放置していたものを、ライトノベルに生まれ変わらせたものが、この作品だったりするもので……。
四コマネタも、最初の方しか考えていなかったので、この作品のほとんどが、〝行き当たりばったり〟と申しますか……書きながら続きを考え、また書いては続きを考え……って感じで、毎日うんうん唸りながら、書いていたものなのです。(……ええ、はい、無謀ですね。わかっております。わかっているのですが……)
……こんな感じで、よく最後まで書き続けられたな……と、自分でも感心し(呆れ?)てしまいます。(これを教訓として、『次回作からは絶対に、大雑把でもいいから、きちんとプロット作ってから書き始めよう』と心に誓いました)
四コマ漫画の時点では、確実に、結太が主人公だったのですよ。
でも、この作品を書き始めてから、改めて、龍生の周辺の人々の設定を考えていたら、なんだかすっごく、楽しくなって来ちゃいまして。
ハッと気付くと、結太と、結太の周囲の人々の設定より、龍生と、龍生の周囲の人々の設定の方が、かなり詳しくなってしまっていて……。
(……アカン。このままじゃ、結太の出番がどんどんなくなって……ってか、もうとっくになくなってる!?)
……ということに、数話書いた時点で、気付いてはいたのですが。
作品紹介の部分に、結太が主人公って書いてしまったこともあり、強引に、彼を主人公に据え置いたまま、ここまで書き続けて来てしまったというわけでございます。
ごめんね、結太。
そして、桃花もごめんね? 正ヒロインのはずなのに、あまり出番作ってあげられなくて……。
でも、次こそは! 次回作こそは、あなた達がメインですから!
今度こそ本当に、結太と桃花とイーリスを絡め、三角関係風(あくまで〝風〟ですが)の作品になる予定ですから!
……あ。
ちなみにこの作品、二〇二二年六月まで、KDP(Kindle ダイレクト・パブリッシング――個人出版サービス)で販売させていただいておりました。
今は取り下げており、こちらとアルファポリスでのみの公開としております。(二〇二三年以降は、こちらでのみの公開です)
この先また、そちら(KDP)で販売させていただく予定はございません。(無名の作家の作品など、どんなに頑張って宣伝したところで〝ほとんど売れない。無料キャンペーン実施した時にだけ、ちらほら読んでいただけるだけ〟ということを、嫌と言うほど思い知りましたので……)
それでは。
この作品をお読みくださった皆様、評価やご感想をお寄せくださった皆様、本当にありがとうございました! 心から御礼申し上げます。
拙い作品ではございますが、ほんの少しでも、皆様に楽しんでいただくことが出来たのでしたら、大変幸福に思います。
ご縁がございましたら、また次回作でお会いいたしましょう。(この作品の続編も公開中です。一日一話更新です)
二〇二三年追記:続編は現在休載中ですが、近いうちに連載再開予定です。