表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
290/297

第11話 結太、咲耶からの呼び出しに嫌々席を立つ

(『話がある』って……。どーせまた、あの話なんだろーな)



 結太はげんなりしながらも、呼び出されたからには、行かねばなるまいと席を立った。

 チラリと桃花の席に目をやると、次の授業の準備を始めていて、結太が咲耶に呼び出されたことには、気付いていないようだった。


 ああよかったと、廊下に出るため歩を進める。

 すると、


「どこに行くの、結太?」


 イーリスが声を掛けて来て、ギョッとした結太は、慌てて『シーッ』と、口元に人差し指を当てた。

 大きな声を出されては、桃花に気付かれてしまう。


「保科さんと話があるんだよ。頼むから、ちょっと静かにしててくれ」


 そう言い置いて、結太は後ろの戸から廊下に出た。



 廊下では、咲耶と龍生が、腕組みして待ち構えていた。

 結太はハァとため息をつき、そちらに歩いて行きながら、


「なんだよ、話って?」


「『なんだよ』はこっちの台詞だ!!――なんなんだ、あの金髪碧眼(きんぱつへきがん)美少女は!? 病院で出会っただと!? そんな話一切聞いてないぞ!! いつの間にかこっちの知らないところで、勝手に知り合いになりおってぇ……! ふざけるなよ!! 計画が狂うだろーがッ!!」


「……はぁ? 計画?……なんだよ計画って?」


 咲耶の迫力に気圧(けお)されつつも、結太は首をかしげて訊ねる。

 龍生は、興奮する咲耶の肩に手を置き、『まあまあ』と言うように、何度かポンポンと叩いた。

 それから結太に向き直り、


「どこで誰と知り合いになっていようが、おまえの勝手だ。だが……せめて、話くらいはしておいてほしかったな。俺は一応、おまえの友人だろう? あれほど目立つ子と知り合いになっておいて、ずっと黙っていただなんて、水臭いじゃないか」


 怒っているというほどではないが、やや厳しい顔つきで告げる。

 結太は『う…っ』と詰まってしまったが、すぐに思い直したように、


「だ――っ、黙ってたとか、そんなつもりねーよ! イーリスと話したのは、たった一回だけだったし……。特別室なんかに入院してる、すっげーお嬢様だってゆーし、オレみてーな庶民と会う機会なんか、もう二度とねーだろーなと思ってたから……。だからっ、特に話す必要もねーと思ったんだよ! わざと黙ってたとか秘密にしてたとか、ホントにそんなんじゃねーんだって!」


 どうにかわかってもらいたいと、必死に説明した。

 二人は顔を見合わせ、同時にため息をつく。


「……まあ、そうだな。たった一度会っただけ――しかも、聖令(せいりょう)女学院に通っていたと言うなら、相当な家柄の御息女(ごそくじょ)だろう。結太が、二度と会うことはないと思ったのも無理はない。……彼女、苗字は何と言うんだ?」


「え?……えぇっと……確か……藤……島? 藤島イーリス――って、言ってた気がするけど」

「藤島?……まさか、あの藤島か?」


 龍生は、『藤島』という名に心当たりがあるのか、片手を口元に当てて考え込んでいる。


 龍生が知っているということは、やはり、かなりのお嬢様なのだろうか?

 ――そんなことを思いつつ、結太は龍生をじっと見つめた。


「――まあ、いい。彼女の家柄がどうだろうと、そんなことは、大した問題ではないしな。問題なのは……彼女がおまえに対して、強い興味を抱いていることだ」


「え? 問題って……何が?」


 きょとんとした顔の結太に、龍生は再びため息をつき、


「何がって……。おまえは、伊吹さんに告白するんだろう? 彼女がおまえに興味があり、その〝興味〟が、恋心から来るものだったりしたら……邪魔に入る可能性があるじゃないか」


「えっ、邪魔? 邪魔って……告白の?」


「そうだ」


 結太は、しばらくポカンとしていたが、いきなりプッと吹き出すと、


「まっさかー! 興味あるっつっても、そこまでじゃねーだろー? あんだけの美少女だぞ? 好きな子がいるって知ったとたん、オレへの興味なんて失せちまうんじゃねーの?」


 そんなことを言い、ケラケラと笑い出した。

 龍生はひょいと肩をすくめ、


「だといいが。さっきだって、伊吹さんが、おまえのことを好きだと思っていた――と言いつつ、諦める素振りなど、少しも見せていなかったじゃないか。むしろ、『あなたのライバルになってしまうかも』などと、伊吹さんに、宣戦布告めいたことをしていた。そんな彼女が、おまえの好きな人を知ったくらいで興味を失うとは、とうてい思えないが」


「う――。……そっ、……そっ……かな?」


 結太は言葉に詰まり、困ったようにうつむいた。



 ……が。

 うつむいた頬が、うっすら赤く染まっているのを、咲耶は見逃さなかった。



「楠木、貴様……『困ったなー』とか思いつつ、喜んでいるだろう!? この……っ、普段、誰からも相手にされてないおまえが、金髪碧眼美少女から、ちょっと気があるような素振りを見せられたからと言って、いい気になるなよ!? 急にモテ男にでもなったつもりか!?……ふざけるなッ!!」


 思いきり睨みつけられ、結太はタジタジとなった。



 いい気にも、モテ男にも、なったつもりは一切ない。

 だが、『普段、誰からも相手にされていない』から、誰かから、強い興味を持ってもらえたことは、素直に、『ちょっと嬉しい』と思ってしまったのは事実だ。



 ……だが、それはそんなにいけないことなのだろうか?

 べつに、イーリスに心変わりしたわけではないのだ。結太は今でも、桃花一筋だ。


 それなのに……。


 ここまで責められなければいけないほど、『興味を持ってもらえて嬉しい』と思うことは、罪なのか?



 咲耶の言葉に、いささか()に落ちないものを感じてしまった結太だったが。


 龍生と咲耶は、『放課後、今度こそ忘れずに桃花に告白しろよ?』と念押しし、それぞれのクラスに戻って行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ