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第9話 クラス一同、金髪碧眼美少女のキスにどよめく

 イーリスが結太にキスした瞬間、教室内が悲鳴と怒号とで、大きく揺れた。(ちなみにいつもなら、女子の高音の方が強く響くのだが、今回は、男子の声の方が遥かに大きかった)


「い――っ、イーリスっ!? な…っ、ななななななな何すんだよいきなりっ!?」


 頬を両手で押さえ、たちまち真っ赤になって結太が訊ねると、イーリスはフフッと笑って肩をすくめた。


「あら、ダメだった? 久し振りに会えたんだもの。この程度の挨拶は、普通だと思うんだけど」

「どこがだよッ!? 全然フツーじゃねーっつーの!! ここは日本だぞ!? それにイーリスだって、赤ん坊の頃から日本に住んでんだろ!? 帰国子女でもあるめーし、そんな外国での常識、通じるワケねーだろーがッ!?」



 本来なら、イーリスほどの美少女にキスされて(頬ではあるが)、嫌な気がする男など、いるわけがない。

 だがしかし! 結太には、桃花という、心に決めた人がいるのだ。彼女に誤解されるような真似は、許されるはずもなかった。



 桃花の顔が浮かんだとたん、結太はハッとして、彼女の席へ目をやる。

 桃花は驚いたような顔で、こちらをじっと見つめていたが、結太と目が合ったとたん、慌てて視線をそらした。



(ああ…っ! マズい!! 今のぜってー誤解されたっ!!)



 一気に蒼ざめた結太は、イーリスの肩に手を置き、やや強引に体を押しやる。


「と――っ、とにかくっ! 自分の席に着けよっ!――センセーっ、イーリスの席ってどこですかっ!?」


 転校生を紹介していた途中だったのか、はたまた、これから紹介するところだったのかは、結太にはわからない。

 だが、自分が指示を出す前に、転校生に勝手な行動を取られ、担任教師は呆気に取られたまま、しばし立ち尽くしていたようだ。結太の声で我に返り、


「あ……ああ、そうだな。えー……」


 二~三度目を瞬かせた後、後方へ目をやった。そして、


「おまえの隣の席――だな」


 と告げたものだから、結太は『ええッ!?』と声を上げ、そう言われてみれば、今朝から、隣に誰も座っていない席があったなと、今更ながら気が付くのだった。


 イーリスは、素早く隣の席に着席し、


「今日からお隣さんね。改めてよろしく、結太!」


 そう言うと、ニッコリと笑ってみせた。




 昼になり、龍生と咲耶が教室にやって来た。


 イーリスは、以前からそうしていたかのように、ごくごく自然に、結太の隣の席を陣取(じんど)り、弁当を広げ始めた。

 彼女の話を、結太から全く聞いていなかった龍生と、朝より、もっと落ち込んだ顔つきになってしまった桃花に、いち早く気付いた咲耶は、二人揃って結太を睨みつけて来た。


「どういうことだ、結太?」

「転校生だという、この金髪美少女は、おまえの知り合いなのか?」


「病院で知り合った――なんて話、初耳だな。どうして黙っていた?」

「おまえを追って、私立の名門お嬢様学校から、こんな公立の一般高校に、わざわざ転校して来たそうじゃないか。ずいぶんと人気のあることだな? もしかして、モテ期到来――ってヤツか? なあ、そうなのか楠木?」


 交互に訊ねられ、結太はすっかり閉口(へいこう)してしまった。

 ただでさえ、イーリスの〝ほっぺにチュ事件〟で、クラス中の男子生徒を、敵に回してしまったようなものなのだ。唯一の友人と言える龍生や、咲耶にまで見放されることになったら……と考えただけで、胃がキリキリと痛んだ。


「べ……つに、そんな、大袈裟なことじゃねーって。俺を追って転校して来た――なんてバカな話、あるワケねーだろ。そんなの、イーリスのジョークに決まってんじゃねーか。なあ、イーリス?」


 引きつり笑いを浮かべた結太に話を振られ、イーリスは一瞬、きょとんとした顔をしていたが、すぐにニッコリ笑うと、


「そうね。確かに、少し大袈裟だったところもあるわ」


 素直にうなずき、多少話を盛ったことを認めた。

 結太はホッとし、


「だろ!? そーだよな!?――ほらっ、だから言ったろ? 全部イーリスのジョー――」

「でも、アタシが結太に興味があるってゆーのは、間違いない事実よ。病院の屋上で、結太に初めて出会った時……アタシ、運命みたいなものを感じちゃったのよね」


 即座に『全部イーリスのジョークなんだって』と続けるつもりだったのに、〝運命〟などという、更に大袈裟な単語をぶち込まれてしまった。

 驚いてイーリスを見つめると、今度は照れ臭そうに微笑まれてしまい、思わずドキッとする。


「アタシ、目は青いし、地毛は金髪だし、日本にいると、どうしても目立つじゃない? 物珍しがって寄って来る男の人は、今までも結構いたけど……結太は、そんな男の人達とは、どこか違って見えたの。『どこが?』って言われると、説明が難しいんだけど……。まあ、最初は結太も、黒髪に青い目が珍しいって思ったのか、ジロジロ見てはいたけどね。――あ。アタシ、この学校に来るまでは、髪を黒く染めてたの。でも結太が、『青い目には、黒髪より金髪の方がピンと来る』なんて言ってたの思い出して、地毛に戻しちゃった。……どう、結太? 金髪のアタシ、おかしくない?」


 小首をかしげて訊ねるイーリスの髪が、サラリと揺れる。明るいプラチナブロンドは、極上の絹糸のように輝いていて、うっとりするほど美しかった。

 結太はドギマギしながら、『あ、ああ――。おかしくない』と、慌てて答えた。


「ホント?……ウフフっ。よかったぁ~」


 嬉しそうに笑うイーリスの頬が、バラ色に染まる。

 思わず見惚れてしまっていた結太だったが、ふいに、刺さるような視線を感じ、反射的に顔を向けた。


「う――っ!」


 こちらをじっと睨んでいる、咲耶の鋭い眼光。

 結太はゴクリと唾を飲み込み、気まずく視線をそらす。



(ちっ、違うッ! べつに、イーリスが好きだから――ってんで、見惚れてたワケじゃねーんだ! 単純に、金髪がキラキラ輝いて見えて、綺麗だったから……。き、綺麗なもんには、自然と目が行っちまうだろっ? それだけだっ! 特に意味なんかねー!)



 心の内で必死に弁明するが、咲耶には論破(ろんぱ)されてしまう気がして、口に出す勇気は持てなかった。

 しかし、桃花にだけは誤解されたくないと、彼女をチラリと盗み見ると、ずっとうつむいたまま、ひたすら流れ作業のように、おかずやご飯を口に運んでいる。



(……伊吹さん……)



 全然楽しそうに見えない、桃花の食事風景に、結太の胸はズキリと痛んだ。

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