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第6話 東雲と鵲、龍生から説教を受ける

 広いリビングルームに、柱時計のカチコチという音だけが、やけに大きく響いていた。


 ドア付近の絨毯(じゅうたん)の上には、鵲と東雲が正座し、その前では、龍生が腕を組んで仁王立ちしている。


 咲耶はソファに腰掛けているが、ドアがある方とは反対側の、一番隅に移動し、顔を真っ赤にしてうつむいていた。

 鵲と東雲に、どの辺りから覗き見されていたのだろうかと考えると、とてもじゃないが、自分の方から、彼らに近付く気にはなれなかったのだ。



 それはそうと、鵲も東雲も、先ほどから黙り込んだまま、既に五分は経過している。

 いい加減、龍生も待つことに疲れ果て、内心のイライラを必死に抑え込みつつ、彼らに向かって口を開いた。


「おまえ達、いつまでそうしているつもりだ? だんまりを決め込むのも結構だが、早めに白状した方がおまえ達のためだぞ。俺は、それほど気が長くないからな」


 龍生の言葉に、二人の肩がビクッと揺れる。

 鵲と東雲は、そっと顔を見合わせてから、互いにうなずき、意を決したように顔を上げた。


「も、申し訳ございません、坊ちゃん。俺達、もう二度とこんな真似はしないと、心に決めていたんですが……どうしても、断れない事情がありまして……」


「これでも、何度もお断りさせていただいたんです! ですが、どうしても、『二人の様子を、こっそり隠し撮りして来てくれ』と、頼まれてしまいまして……。坊に見つかったら、今度こそお許しいただけないだろうとは、思ったんですが……」


 腕を組んだまま、二人の話を聞いていた龍生は、東雲の『断れない事情』という部分と、鵲の『頼まれてしまいまして』という部分にピクリと反応し、彼らを鋭く睨んだ。


「――ということは、今回は、誰かに頼まれたのか? おまえ達の意思で、隠し撮りしていたわけではないんだな?」


「違いますッ!!」

「俺達、ホントに何度も断ったんです!!」


 龍生は二人の顔をじっと見つめた。


 鵲も東雲も、嘘をつくのは上手ではない。彼らが嘘をついている時は、ソワソワと落ち着かず、視線もあちこちさまよっていたりする。

 だが、今の二人の表情や態度からは、嘘をついている様子は、少しも見て取れなかった。


「わかった。どうやら、嘘は言っていないらしいな」


「坊ちゃん!」

「ありがとうございますっ!」


 龍生に信じてもらえたことで、二人の気持ちは、一気に浮上したらしい。瞳がキラッキラに輝いている。

 龍生は小さくうなずくと、すかさず本題に入った。


「では、改めて訊こう。――おまえ達に、隠し撮りをさせていたのは誰だ?」


「――うっ」

「そ、それは――……」


 キラッキラの瞳が、再び暗い色を帯びる。

 二人は深くうつむいて、


「あの……それが、その……。もしも、坊ちゃんに隠し撮りがバレた場合は……」

「……く、くれぐれも……依頼した者の名は明かすな、と……キツく申し渡されておりまして……」


 言いにくそうに、大きな体をゆらゆら揺らす。


「ほう……? おまえ達、俺に隠し立てするつもりか? そんなことが、可能だと思っているのか?」


 腕組みしたまま、龍生は冷たい目つきで二人を見下ろす。

 龍生の言葉を聞いたとたん、鵲も東雲も、蒼い顔をしたまま固まってしまった。


「言いたくないのなら、それでもいい。どうせ、こんなことをおまえ達に命じる相手――そして、おまえ達が大人しく従う相手など、限られているからな。第一に考えられる相手は、お祖父様だが……」


「いえッ!! 今回の件に、龍之助様は、一切関係していらっしゃいませんッ!!」

「お二人のご様子は、お知りになりたくて、ウズウズしていらっしゃるご様子でしたが……。今日も、こちらにお()でになりたいお気持ちを、グッと我慢していらっしゃるようでしたし……」


「何? お祖父様ではないだと?」


 てっきり、龍之助だと思っていた龍生は、彼ではないと知り、考え込んでしまった。



(お祖父様ではないとすると、他に、いったい誰が――? 鵲も東雲も、絶対の忠誠を誓っているのは、俺以外では、お祖父様くらいしか……)



 そこまで考え、龍生はハッとした。

 二人が忠誠を誓っているのは龍之助だが、忠誠を誓う――というところまでは行かないにしても、()()()()()()()()()相手なら、二人だけいる。


「まさか……。いや、だが……()()()()には、咲耶のことは、一切知らせていないはずだ。それなのに、何故……?」


 龍生の独り言に、素早く二人が反応した。

 名前を出したわけではないのに、急にソワソワし始め、居心地悪そうに、右に左にと、ゆらゆらと体を揺らしている。


 彼らの反応を見て、龍生は確信した。やはり、()()()()なのだと。



 ……しかし、あの二人に、咲耶のことを知られてしまったとすると、これから先、かなり面倒なことになりそうだ。

 まあ、彼らは年に一~三回ほどしか、こちらに戻って来ない。すぐにどうこうなる――というわけではないだろうが。



 龍生はふぅとため息をつき、げんなりした顔つきで二人に訊ねた。


「おまえ達に、隠し撮りを命じたのが誰か、わかったぞ。……父か母か……それとも、両名か。――そうなんだろう、鵲? 東雲?」


 瞬間、二人は大きくビクゥッと肩を揺らし、『父か母か』という言葉を耳した咲耶は、ギョッとして顔を上げた。

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