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第1話 目覚めたら眼前は……

 青い空。白い雲。

 吹き渡る風は穏やかで、日差しはどこまでも心地良い。


 今日は日曜日。

 デートするには申し分のない天気で、朝から結太の気分は浮き立っていた。



 しかし、今。

 目の前に広がる光景に、ただただ呆然(ぼうぜん)としてしまい、か~るく数分ほどは、思考と体が停止していたように思う。



 眼前に広がるのは、白い砂浜。

 そして、絵に描いたような、エメラルドグリーンの大海原(おおうなばら)だ。


「……ど……どこだここは……?」


 結太は思わずつぶやいた。



 右を見ても砂浜。

 左を見ても砂浜。

 前を見れば海。

 後ろを見れば――……。



「…………龍生」

「――ん? どうかしたか、結太?」


 龍生は顔色ひとつ変えず、腕組みして、結太の後ろに立っていた。


「いや、『どうかしたか』じゃねーだろ。どこだよここ?」

「見てわからないのか? 海だ」


 結太の問いに、何でもないことのように返す。

 その落ち着き払った態度にイラッとしながらも、


「いやっ、そーじゃなくて! どこの海だよ!?――ってか、何で海にいんだよ!?」

「海に来たからに決まっているだろう。……ああ、海と言うより、島か」

「――島ッ!?」


 結太は()頓狂(とんきょう)な声を上げた。



 朝、龍生の家の車が迎えに来て、乗り込んでから、龍生にジュースを(すす)められたことまでは覚えている。

 だが、そのジュースを飲んだ後、しばらくしてから、急激な眠気が襲って来て……。

 目が覚めた時には、ここにいた――というわけなのだが。



「島って、どこの島だよ!? 江の島とかか!?」

「江の島ではないな。秋月家が所有している島だからな」

「しょ――っ!?」


 さらりと〝所有している〟などと言われ、結太は絶句(ぜっく)した。

 昔から金持ちだ金持ちだとは思っていたし、知ってもいたが、まさか島まで持っていたとは。


「……しょ、所有してる、島……って……。ど、どこだ!? どこら辺の島持ってんだよ!? ここ、どこなんだっ!?」

「悪いが、それは教えられない」

「はあぁッ!?」


 勝手に連れて来て、『教えられない』とはどういうことだ?

 結太はいよいよイラッと来て。


「教えられないって、何だよそりゃ!? おまえがここに連れて来たんだろ!? 連れて来といて教えらんねーって、そんな勝手が許されると思ってんのか!?」

「まあ、おまえの言い分はもっともだが、家訓(かくん)だから仕方ない。――としか言いようがないな。俺一人の判断で、どうこう出来るものでもないんだ」

「――う…っ」


 〝家訓〟がどうのとか言われてしまうと、何も言えなくなってしまう。

 結太は『こいつ、相変わらずムチャクチャだな』と内心(あき)れつつ、深々とため息をついた。


「……じゃあ、それはもういーよ。訊かねーでおいてやるよ。でもさ、何で海?――いや、島? 今日はデートなんだろ? それも、初めてのデートだろ? そんで島ってのは、さすがに気張り過ぎなんじゃねーの?……で、デートのはずなのに、肝心(かんじん)の相手の姿が見えねーってのは、どーゆーことなワケ?」


 ――そうなのだ。

 結太が目覚めた時、側には龍生しかいなかった。


 しかも、結太が車に乗ったのは一番最初で、それからすぐに眠り込んでしまったので、桃花と咲耶の姿を、まだ一度も見ていないのだ。


 周囲を見回してみても、海と砂浜が見えるだけ。寄せては返す波の音が、耳に入って来るだけだった。


 デートと聞いて、緊張していたのも確かだが、桃花とプライベートで会えるという嬉しさも、少し(?)は感じていたので、結太は情けない顔つきで、龍生をじとっと見つめた。


「二人は、うちの別荘でまだ眠っている。そろそろ目覚める頃だと思うが……。様子を見に行ってみるか?」

「……へっ? 別荘で寝てる? 二人とも?」

「ああ。車中では、ぐっすり眠っていたからな。ここに着いた時にも、全然起きる気配がなかったから、家の者に部屋まで運ばせたんだ」



(車中でぐっすり眠ってた?……なんだ。じゃあ、俺と一緒じゃねーか――……って、いや。待てよ?)



 結太は車に乗り込んですぐ、急激な睡魔(すいま)に襲われてしまったわけだが、まさか、二人もそうだったと言うのか?


 結太は昨夜、不安と期待とが入り()じった複雑な心境で、なかなか寝付けなかった。

 だから、すぐに眠くなってしまっても、それほど不思議には思わなかったのだが、それが桃花と咲耶もとなると、話が違って来る。


 桃花ならまだわかるが、咲耶などは、デートへの期待と不安で、眠れなくなるようなタイプには、とうてい思えないのだが……。


「……龍生。おまえ、もしかして……二人にもジュース飲ませたのか?」

「――うん? ジュース?」

「オレに飲ませたジュースだよ! あれと同じもの、二人にも飲ませたのかって訊ーてんだッ!!」

「『飲ませた』って言い方はよせよ。無理に飲ませたように聞こえるじゃないか。――ホテルでも、ウェルカムドリンクを出したりするだろう? それと同じことをしただけだ。何がいけないんだ?」


 涼しい顔をしているが、龍生は絶対、何か隠している。

 結太は疑いを強め、更に(きび)しく問い詰めた。


「おまえ、ジュースに何か入れただろ? 睡眠薬か、それに近い効果のある薬。なあ、絶対入れたよな? そんで、オレと伊吹さんと保科さんに飲ませた。だからオレ達は、急激な睡魔に襲われて、そのまま眠っちまったんだ。なあ、そーだろ? そーなんだろ龍生っ!?」


 そうでなければ、三人が三人とも、車中でぐっすり眠ってしまうなんて、あり得ない気がするのだ。

 結太は、ほぼ確信していた。


「バカだな。入れるわけないだろう、睡眠薬なんて。そんなもの飲ませて、何かあったらどうするんだ? 責任取れないだろうが」


 薄笑いを浮かべ、龍生は冷静に切り返す。

 そしてくるりと体の向きを変えると、顔だけ結太の方に向け、


「とにかく、別荘に行くぞ。伊吹さんと保科さんの様子、おまえも気になるだろう?」


 そう言って、サクサクと砂浜を歩き出した。


「あっ!――おいっ、龍生!」


 結太は慌てて呼び掛けたが、龍生は無視して先を行く。

 その行動は、結太の追及をかわそうとしているだけのような気がしてならなかった。

 しかし、始めて来た場所(こんなところ)に、たった一人、置いて行かれても困る。

 結太はひとまず疑問を飲み込み、渋々(しぶしぶ)龍生の後を追った。

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