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第14話 桃花と咲耶、デートについて語り合う

「デートぉおっ!?…………だと?」


 思わず大きな声を上げてしまい、ハッとなった咲耶は慌てて周囲を窺い、声のボリュームを(しぼ)った。


 帰りの電車内。

 桃花と咲耶は、ドア付近で手すりに(つか)まり、立ち話をしていた。


 車内は、下校時間帯にしては空いていて、乗客は、十人前後と言ったところだろうか。

 座ろうと思えばいつでも座れるのだが、二人の家は、学校の最寄(もよ)り駅から三駅目という近さなので、滅多(めった)に座ったことはなかった。


 桃花は、冒頭の咲耶の言葉にうなずきで返しながら、


「お昼休みが終わる直前くらいに、メッセが届いてね。『連休中の最終日曜、もしよかったら、デートしませんか?』って……」

「またいきなりな話だな? 男女交際など初めてという桃花に対し、あまりに配慮(はいりょ)に欠けるじゃないか。中高生程度の男女交際など、まずはメッセのやり取り、登下校を共にする、そんなとこから始めるものではないのか?」


 咲耶はたちまち不機嫌になり、独自の意見を述べた。


 ただ、咲耶も今まで付き合った経験など全くないので、いつもよりは、多少自信なげな主張ではあったが。


「うん。わたしも、まさかこんなに早く、デートに誘われるなんて思ってなかったから、ビックリしちゃって……」

「当然だ! 付き合うにしても、順序というものがあるだろう!? 付き合うと決めてから、まだ一日しか経っていないじゃないか。早過ぎる!」


 咲耶は(こぶし)を握り締め、やや興奮気味(こうふんぎみ)に断言すると、桃花の肩に手を置いた。


「桃花、心配するな。ここは私に任せろ! 仮面王子には、私がきっちり話を――」

「わわっ、違うの咲耶ちゃん! 最後まで聞いて?……あのね、秋月くんもそこはちゃんと考えてくれてて、いきなり二人きりでデートっていうのも緊張しちゃうだろうから、お友達――咲耶ちゃんも、是非(ぜひ)一緒にって」

「はあっ!? 私も一緒だと?」

「うん。それでね、秋月くんもお友達……えと、わたしと同じクラスの、楠木くんって人を連れて来るんだって。だから、Wデートってことにしよう、って……」

「だぶるでえとぉおおッ!?……っと、コホン。――何だそれは? 何故私までが、デートとやらをせねばならんのだ?」


 再び大声を上げてしまい、周囲の目を気にしながら小さく咳払(せきばら)いした咲耶は、もっともと思える不満を()らした。

 桃花も周りの目を気にしつつ。


「……うん。咲耶ちゃんには、本当に申し訳ないんだけど……。咲耶ちゃんに一緒に行ってもらえると、すごく心強いから、あの……出来れば、引き受けてもらいたいなぁ……なんて。……えっと、ダメ……かな?」


 桃花に、ちらちらと上目遣(うわめづか)いでお願いされてしまっては、断れるはずもない。

 咲耶の取る道は、ひとつしかなかった。


「ダメなものか!!――無論、付き合うとも。あの得体の知れない仮面王子と桃花を、二人きりになど絶対させん! 安心して任せろ!」

「わあっ、ありがとう咲耶ちゃん! 咲耶ちゃんも一緒なら、きっと楽しいデートになるよ」


 桃花は嬉しそうにニコリと笑う。

 それに釣られ、咲耶も笑い掛けたが、ふと表情を曇らせ、ある疑問を口にした。


「……いや、待てよ? そう言えば、私が相手をせねばならんという、楠木とかいう奴は、いったいどんな男なんだ? 仮面王子の友人なら、やはり、信用出来ん(やから)のような気がするが……?」


 昨日の夕方、ずっと行動を共にしていた咲耶と結太だったが、結太の方は咲耶を知っていても、咲耶は結太を知らなかった。

 その上、二人共に、桃花のことで頭がいっぱいだったので、自己紹介すらし合っていなかったのだ。


 結太のことを知らないらしい咲耶に、桃花は、何故かホッとしていた。

 昨日も、咲耶が結太と一緒に秋月邸に現れた時、一瞬、胸がツキンと痛んだのだが……。

 その胸の痛みの訳を、深く考えようとはしなかった。


 そこから目をそらしたのは、何故だったのか?――彼女は、まだ気付かない。


「そっか。咲耶ちゃん、楠木くんと知り合いってわけじゃなかったんだね。楠木くんって、昨日、咲耶ちゃんと一緒にいた人なんだけど……」


 桃花の言葉に、咲耶はポカンとした。

 それから、ああ、とつぶやいて、


「なるほど。あいつが楠木か。……いや、実は昨日、連れ去られた桃花を追おうとしていた時、自転車に乗ったあいつが通り掛かってな。秋月の知り合いだと言うから、家まで案内してもらったんだ」



 少々、話が咲耶の都合の良い方へと改変されているが、そこはスルーして、話を先に進めよう。



 桃花はフフッと笑って、


「そっか。そういうことだったんだね。昨日、楠木くんが咲耶ちゃんと一緒にいた時は、知り合いだったのかなって、ちょっとびっくりしちゃったんだけど……そっかぁ。案内してもらっただけだったんだ」

「ああ。後を追おうにも、私は電車通学だからな。自転車がない。盗んで走り出すわけにもいかんし、どうすればいいのかと困っていた時だったから、あいつがいてくれて助かったよ。……そうだな。昨日は礼を言い忘れたし、ちょうどよかったのかもしれん」


 咲耶は拳を(あご)に当て、ふむふむと小さくうなずいた。

 桃花も釣られてうなずきそうになったが、昨日、龍生に言われたことを思い出し、


「あっ、あの、それでね? 楠木くんって、わたしもお話したことはないんだけどね? 秋月くんが言うには、生まれつき表情が(けわ)しいせいで、誤解されやすい人なんだって。だから、つまらなそうな顔して見えても、実際はそんなことない場合が多いから、気にしないで大丈夫だよって」


 桃花自身、結太を見かけるたびに『いつもつまらなそうだなぁ』と思っていたので、龍生からその話を聞いた時はホッとした。

 そして、友達が出来にくいのも、誤解されやすい〝つまらなそうな顔〟のせいなのかもしれないと、少し切なくなったのだった。


「へえ、そうなのか。誤解されやすい奴なんだな。……うん。言われてみれば、昨日もほとんど、ムスッとした顔してたな。あれは、そういう訳だったのか」


 納得したようにうなずく咲耶だったが、昨日、ずっと結太が〝ムスッと〟して見えたのは、誤解ではなく、咲耶が原因を作ったからだ。


 結太の自転車の荷台にムリヤリ乗り、()かして叩いて(ののし)って、ボロボロの精神状態に追い込んだまま、車を追わせたことも、体力を奪い尽くした鬼の所業も、咲耶自身は、ケロッと忘れてしまっているのだろうか。


 ――まあ、一応感謝はしているようなので、今回彼女が犯した数々の罪は、不問に(しょ)すことにしよう。(結太がどう思っているかは、また別の話として)


 とにもかくにも。

 以上の理由により、結太、桃花、龍生、咲耶の四人は、連休中の最終日曜日に、デートすることになったのだった。

いきなりWデートすることになった、結太ら4名。

はてさて、どうなることやら――。


……というわけで、第2章はここまでとなります。

お読みくださり、ありがとうございました!

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