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第5話 結太と桃花、友を待つ間教室で語らう

 結太と桃花は、教室で龍生達を待つことにし、二年三組の教室に向かった。


 教室の戸を開いて中に入ると、既に生徒の姿はなく、室内は静まり返っている。

 結太は自分の席まで歩いて行き、黙って腰を下ろした。

 桃花は、わざわざ離れた場所に座るのもおかしいと思ったのか、結太の隣の席に座った。


 桃花が隣の席にいる状態は、慣れていないのでドキドキした。

 こういう時でもなければ、経験出来なかったことかもしれない。結太はありがたく、今の状況を楽しむことにした。



(けど……二人以外誰もいねー、放課後の教室――か。今が、普段通りの放課後なら、『告白するチャンス!』とかって、気張ってたんだろーな……。イヤ~なこと思い出しちまったせいで、そんな気にゃー、とてもなれねーけど)



 結太の言う『イヤ~なこと』とは、ある意味、全ての始まりとも言える、“龍生相手に告白の練習をしていたら、桃花に目撃されてしまい、同性愛者と勘違いされてしまった”ことだ。


 正直、結太は今の今まで、忘れてしまっていたのだが、



(放課後の……誰もいない、教室?……あれ? このシチュエーション、どっかで……)



 と考え始めたとたん、脳裏にあの時の情景が思い浮かんで来て、ドドドンと、テンションが下がってしまったのだ。



(そーだよな。オレ、まだ誤解されたまんまなんだよな……伊吹さんに)



 チラリと、隣の桃花を窺う。

 桃花は、椅子に座ってうつむき、じっと机の上を見つめていた。

 やはり、咲耶が心配なのだろう。不安そうな顔をしている。



(誤解解くチャンスだけど……こんな雰囲気の中で、いきなり切り出せねーよな。『伊吹さんは、オレが好きなのは龍生だ――って思ってるのかもしんねーけど、違うから! オレの好きな人は、異性だから! めっちゃ可愛い女の子だから!』……なんて。親友が停学になるかもしんねーって、心痛めてる時に、何言ってるんだ?――って、呆れられちまうに決まってる。……そりゃーオレだって、龍生のこと、心配してねーワケじゃねーけど……。進学校とか、歴史ある名門校とか、そんな大層な学校じゃねーんだから、キスで停学とか、あり得ねーと思うんだよな。第一、龍生も保科さんも、成績優秀なんだし。先生達だって、学校の評価上げるためにも、二人には、来年ぜってー、良いとこ受験してもらいてーって、思ってるはずなんだ。……うん。どー考えても、停学なんてあるワケねーよな)



 思わず、うんうんとうなずいてしまっていると、桃花はくるりと横を向き、


「ど、どーしたの楠木くん? うなずいたりして……いったい、何を考えてたの?」


 きょとんとした顔で、可愛らしく小首をかしげる。



 ――余談だが、結太はこの、桃花の“小首をかしげる”仕草が大好きだった。

 何と言うか、リスや小鳥などの、可愛らしい小動物を連想させ、目にしたとたん、ほわ~っとして、(いや)された気分になるのだ。



 今も、ちょうどそんな気分で、ほわ~っと頬を(ゆる)ませそうになってしまったのだが、ハッと我に返り、


「いっ、いやっ? べつに何でもっ?……えー……っと……。ちょっと、考え事してただけ。特に、どーかしたってワケじゃねーから。気にしねー――……いや、気にしないでダイジョーブだよ」


 慌ててそう言うと、取り(つくろ)うようにハハッと笑った。


「そう……? なら、いーんだけど……」


 言いつつも、桃花はまだ、()に落ちない顔をしている。

 マズいと思い、結太は話をそらすため、必死に話題を探し始めた。


「あ~……。えー……っとぉ……。い、伊吹さんって、兄弟いる? オレは、一人っ子なんだけど」

「えっ?……兄弟?」


 唐突に話を振られ、桃花は少し驚いたように目を見張ったが、すぐに表情を和らげ、


「ううん。わたしも兄弟はいないの。楠木くんと同じ、一人っ子」


 ふるると首を振り、ニコッと笑う。

 こういう仕草も、小動物っぽくて可愛いんだよなぁ……と、結太の顔は、自然とほころんでしまった。


「そ、そっか。じゃあやっぱ、兄弟に憧れたりした?」


「うん。すっごく。――咲耶ちゃんはね、年の離れた、双子の弟くんがいるの。その二人が、天使みたいに可愛くてね? しかも、メチャクチャ“お姉ちゃん大好きっ子”達だから、遊びに行ったりすると、『お姉ちゃん』『お姉ちゃん』って言って、側に寄って来てね? わたしにも(なつ)いてくれてて、もーう、ホンっトに可愛いの! ああいうとこ見てると、『兄弟っていいなぁ』って、やっぱり憧れちゃう」


「へー。保科さんの、双子の弟かー。……なんか、イメージからして、すっげー騒がしそうだけど……」


 咲耶の弟と言うのであれば、顔は良いのかもしれないが、性格は、一癖(ひとくせ)も二癖もありそうだなと、結太の口元は、微妙に引きつってしまう。

 桃花は、両拳(りょうこぶし)を胸の前で握り締め、困ったような顔で、それでも必死に反論する。


「えーっ? そんなことないよ? ホントにメチャクチャ可愛いんだよ? お兄さんが(やまと)くんで、弟くんが(たける)くんってゆーんだけどね? 顔はそっくりなのに、性格は正反対なの。倭くんは、ちょっと大人しめで、勉強の出来るタイプなんだけど、建くんは、いつも元気で明るくて、運動の方が得意なタイプ。だからね、お風呂一緒に入ったりすると、倭くんは、頭と体洗ってもらったら、さっさとお風呂から出ちゃうんだけど、建くんはもーう、はしゃいじゃってはしゃいじゃって。いつまで経っても、湯船で、船のおもちゃやアヒルのおもちゃで遊んでたりして、なかなか出ようとしてくれないの。結局、ずーっと付き合ってたら、わたしも咲耶ちゃんものぼせちゃって……。フフッ。あの時は大変だったなぁ~」


 桃花は楽しげに笑っているが、話の途中から、結太は()()()()が気に掛かり、笑って聞いているどころではなくなってしまった。


「伊吹さん、風呂……って? もしかして、遊びに行くたびに……一緒に、入ってんの?」


 懸命に笑おうとするが、どうしても、口の端が引きつってしまう。

 桃花は『え?』とつぶやき、きょとんとした後、


「ええっ?――あっ、ちっ、違うよっ? 一緒にお風呂入ったのは、ホントに、二人がうーんとちっちゃかった頃、二~三回あるだけだよっ? それに、今だって二人、まだ小学一年生だし……。お風呂入ったのは、今よりもっとちっちゃい頃――二人が、三歳だか四歳だか……って、その頃だけだからっ!」


 わたわたしながら、身振り手振りで説明する。

 結太は、『なんだ。三歳か四歳の頃だけか』と、ホッと胸を撫で下ろした。



 いくら咲耶の弟と言えども、桃花とお風呂に入るなど、断じて許さん!――と、内心怒りで震えていたのだが、幼児までなら、まあ、許してやってもいい。



 そんな風に、結太達が他愛ない話で盛り上がっていると、ガラッという音を立てて戸が開き、誰かが教室に入って来た。

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