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第7話 龍生と咲耶、揃って結太宅を訪れる

 結太がインターホンの受話器を取り、訪問者を確認すると、聞き慣れた声で『俺だ』『私だ!』と返答があった。龍生と咲耶だった。

 結太はげんなりした顔でため息をつき、


「……今の、聞こえた?」


 と言って桃花を振り返り、苦笑いしてみせた。

 桃花も苦笑してうなずき、ゆっくりと立ち上がると、結太の後に続いて玄関へと向かった。



 玄関のドアを開けると、


「ああ、結太。――伊吹さんも。二人きりでお楽しみのところ、申し訳ない」


 開口一番(かいこういちばん)、龍生はそんなことを言い、二人を一気に赤面させた。


「なっ、なんだよ『お楽しみのところ』って!? べつに、楽しんじゃいねーよ!! 伊吹さんは、純粋にオレの見舞いに来てくれただけで、遊びに来たわけじゃねーんだから!! いきなり妙なこと言うなよなッ!?」


 真っ赤な顔で言い返して来る結太を前にしても、龍生は少しも表情を変えない。

 小首をかしげながら、


「なんだ? 俺はそんなに、怒らせるようなことを言ったか? 何も遊びでなくたって、〝楽しむ〟ことは出来るだろう? 二人きりで会話を楽しんでいるところ、申し訳ない――という意味で、言ったつもりだったんだが……何かマズかったか?」


 冷静に切り返され、結太はウッと詰まってしまった。


「……か、会話……。なんだ、会話のことかよ。(まぎ)らわしい言い方すんなよな!……まったく。余計な汗()いちまったじゃねーか」


 結太がブツブツ文句を言うと、


「紛らわしい? 紛らわしいことを言った覚えはないんだが……」


 イマイチ()に落ちないと言うような顔つきで、龍生は首をかしげている。

 ――が、すぐにいつもの調子に戻ると、


「まあいい。そんなどうでもいいことを、おまえと言い合っている暇はないんだ。――伊吹さん」

「ふぇっ!?……あ……はっ、はいっ!」


 急に呼ばれてビックリしたのか、桃花は目をぱちくりさせている。

 龍生は、結太の後ろにいる桃花に向かい、


「急ですまないが、これから共に、俺の家に来てくれないだろうか? お祖父様――うちの祖父が、出来れば君にも同席してほしいと言っているんだ」


「えっ?……同席、って……どういう意味ですか?」


 秋月家当主が、いったい、自分に何の用があるというのだろう?

 桃花も、龍之助のことを怖い人と思っているわけではないのだが、改まって『同席してほしい』などと言われると、妙に緊張してしまう。


 龍生もそれを察したのか、桃花を安心させるように、柔らかく微笑むと。


「大丈夫。君に何かしてほしいとか、そういうことではないんだ。ただ、君にも関係することだから――と言うか、特に、君に関係することだから、共にその場にいて、話を聞いたり、意見を聞かせてほしいだけなんだと思うよ」


「わたしに関係すること……ですか?」


「そう。君に直接関係すること。……実は、君を誘拐させた黒幕である五十嵐信吾を、今日、うちに呼んでいるそうなんだ。本来なら、すぐにでも警察に突き出すべきなんだが……こちらにもいろいろと事情があってね。申し訳ないが、すぐに警察に引き渡すわけには行かないんだ。だから、五十嵐信吾に、どうやって罪を(つぐな)わせるかとか、そういった様々なことを決める場に、被害者である君にも、共にいてほしいんだと思う」


 龍生の言葉に、桃花は少なからずショックを受けたようだった。

 犯人は、とっくに警察に引き渡されているものと、思っていたのだろう。


 それなのに、犯人が警察に捕まっていないばかりか、〝黒幕〟とやらまでがいると言う。

 その上、その〝黒幕〟を家に呼び、桃花にもその場にいてほしい、などとは……。


 言及したいことが多過ぎて、桃花は混乱していた。



「――って、ちょっと待てよ!! 昨日の犯人の他にも、〝黒幕〟がいるって!? どーゆーことなんだよそれっ!? それに、誘拐犯を警察に引き渡してないって……そんなバカな話があるか!? そんな勝手なこと、許されると思ってんのかよ!?」


 横で話を聞いていた結太が、堪らずに割って入る。


「……楠木くん……」


 結太が自分のために怒ってくれている。――そのことが嬉しくて、桃花は思わず、じっと結太を見つめてしまった。

 だが、桃花の視線に気付く余裕もないほどに、結太は腹を立てていた。


 あれだけの事件を起こしておいて、警察に行っていないなど、普通はあり得ない。

 しかも、犯人は昨日の二人の他にもいた――というのは、いったいどういうことなのだ?


 結太は、廃墟での龍生達の話に聞き耳を立てていたので、その内容も、多少は理解していた。



 犯人は、かなり前から、桃花のことを狙っていたらしいこと。

 龍之助や安田が、それを警戒し、桃花に護衛を付けてくれていたこと。

 犯人が、〝五十嵐〟や〝信吾〟という名前らしいということ。

 そしてその犯人は、どうやら、龍生達の知り合いらしいということ。



 犯人が龍生達の知る人物だった――というのは、さすがに驚いたが、龍生達に任せていれば、警察への通報や、その他諸々(もろもろ)、全てやってくれるだろうと、安心していたのに……。



「なんでだよ!? 誘拐って、罪重いんだろ!? なのになんで――っ、どーして警察に引き渡さないんだよ!?……知り合いだからか!? 知ってるヤツだから、(かば)ってるってのか!? 犯罪者を、みすみす見逃すってのかよっ!? だとしたら、どーかしてるぜおまえの家ッ!?」


 一気にまくし立てると、結太は思い切り龍生を睨みつけた。

 いくら幼馴染と言えども、犯罪者を見逃すような真似は、絶対に許せなかったのだ。


 龍生は、結太のまっすぐな視線からも逃げることなく、静かに受け止めていた。


「おまえの怒りはもっともだ。少しも間違ってはいない。だが……わかってくれとは言えないし、言うつもりもないが、犯人達に対する処分については、こちらに任せてくれないか? 決して、奴らをこのまま、野放しにするようなことはしない。きちんと罪は償わせるつもりだ。――警察や司法のやり方とは、違った方法になるとは思うが……」


 フッと意味ありげな笑みを浮かべると、龍生は意味深な言葉を放った。


「そうだな。犯人達はきっと、『これならまだ、警察に捕まっていた方がマシだった』と、後悔することになるんじゃないか?……まあ、犯人達が()い改め、真人間になると心から誓うと言うのであれば、また話は変わって来るだろうが、な――」



 その瞬間、桃花は思い出した。

 龍生の家で、幼い頃の龍生と咲耶が、誘拐されたという話を聞いていた時――咲耶を人質に取られても冷静でいられるかと、東雲に訊ねられた時、龍生は言っていたではないか。



『咲耶を人質にした相手に、警察など無用の長物。邪魔でしかない』


『犯人には重い懲罰(ちょうばつ)を下すことにしよう。……そうだな。いつか咲耶が言っていたように、無人島のどこか深くに穴を掘り、生きたままそいつを放り込んで、完全にこの世から抹殺(まっさつ)する……というのも悪くないな』



 ――と。



(……まさか……。本気でそんなこと、考えてたりしない……よね?)



 桃花は、ゴクリと(つば)を飲み込むと、恐る恐る龍生を窺った。

 彼は穏やかな笑みを浮かべたまま、結太を見返している。

 その静かさが、逆に恐ろしく感じられ……桃花はそっと、両手で自分の体を抱き締めた。

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