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第18話 結太ら一行、ひとまず秋月邸へと向かう

 とにかく、場所を秋月邸に移そうということで話がまとまった。

 その際、安田が運転する車には、龍生、結太、咲耶、桃花の四名が、東雲が運転して来た車には、誘拐犯二名(まだ気絶したままだが)と堤が乗ることにし、兎羽は自分の車で――ということになった。


 堤が運転して来たオートバイと、誘拐犯が使用していたワゴン車は、とりあえず、その場に置いておくことにした。後で誰かが取りに来ればいいと判断したからだ。



 一行が廃墟から表に出ると、山の(きわ)(わず)かに鴇色(ときいろ)を残している程度で、辺りはすっかり夕闇(ゆうやみ)に包まれていた。


「うあー。すっかり暗くなっちまいましたねぇ、坊ちゃん。そろそろ夕飯の()か――……あっ! そー言やぁ、保科様と伊吹様は女の子ですし、あんまり帰りが遅くなっちまうと、家の人達が心配すんじゃねーですかね?」


 大きく伸びをする途中で、東雲が、今思いついたかのように訊ねる。

 龍生は少しも動じることなく、


「ああ。それなら問題ない。ここに来る前、帰りが遅くなるようなら、女性二人の家に連絡を入れておくようにと、鵲に頼んで来た」

「へえっ? そーだったんですか!……いや~、さすが坊ちゃん! 抜け目ねー――(いて)ッ!!……っつぅ~~~……テテテ……」


 突然、東雲が腹を押さえ、背中を丸めて苦しみ出した。

 何事かと、皆が東雲に目を向けると、安田がうっすらと笑みを浮かべながら、(こぶし)を握り締めていた。――どうやらあれで、東雲の腹辺りに一発入れたらしい。


「……『抜け目ない』だと? それを言うのであれば、『きちんとしていらっしゃる』、または、『お心配りが行き届いていらっしゃる』――だろう? それから、『坊ちゃん』ではない。『龍生様』とお呼びしろ。普段からきちんとした言葉遣いを心掛けろと、何度言わせれば気が済むんだ? まったく、おまえという奴は――」


「うああああっ! ごめんなさいすんませんお許しくださいーーーッ!! 気を付けますっ、今度からは、ちゃんとした敬語使いますからっ!! だからもう、腹(なぐ)んのは勘弁してくださいよーーーッ!! 安田さんの一発はキッツイんっすからーーーッ!!」


 腹を両手で抱えたまま、情けない顔で、声で、東雲が泣きを入れる。

 それを横で見ていた龍生は、


「まあ、二人とも落ち着け。――安田。もう勘弁してやってくれないか? 東雲も、伊吹さんが救出されてホッとしていたから、つい、気が緩んでしまっただけだろう。明日からは気を付けるさ」


「ぼ……坊ちゃ――……いえ、龍生様――!」


 安田にギロリと睨まれ、慌てて言い直す東雲。

 軽くため息をつくと、安田はやれやれと言った風に(ひたい)を押さえた。


「……本当に、東雲と鵲にはお優しいのですから、龍生様は」

「……すまん」


 一応、自覚はあるらしい。龍生は素直に謝った。

 それを受け、安田は苦笑して一礼すると、車の後部座席のドアを開けた。


「それでは、参りましょう。皆様、どうぞお乗りください。――龍生様は、助手席にお掛けになりますか? それとも――」

「いや。俺は咲――」


「私がッ!!」


 龍生が『咲耶の隣に』と言おうとしたとたん、咲耶が片手を()げて発言した。

 驚いて振り向くと、彼女は続けて、


「……助手席には、私が座らせてもらってもいいだろうか、安田さん?」


 何故か、不機嫌そうな顔で訊ねる。

 安田は戸惑いつつ、ちらりと龍生の顔色を窺った。

 今の言い方では、まるで、龍生の横に座るのが嫌だ――と主張しているように、聞こえなくもなかったからだ。


「え……ええ。それは、べつに構いませんが……」

「そうか。では、失礼する」


 そう言って、咲耶はさっさと助手席のドアを開け、乗り込もうとした。

 龍生はとっさに彼女の手を掴み、


「咲耶!……どうしたんだ、急に? 何故、そんなに不機嫌なんだ? 何かあったのか?」


 困惑顔で訊ねるが、咲耶は振り返りもせず、『べつに。……わかったら手を離せ』と暗い声で告げると、少し乱暴に、龍生の手を振り払った。


「咲耶!」


 呼び掛けに答えもせず、ドアが閉まる。

 龍生は途方(とほう)()れたような顔つきで、しばしその場にたたずんでいた。



「あー……。やっぱ、おかしなことになっちまってんなぁ……」


 運転席側の、後部座席のドアに手を掛け、桃花に手伝ってもらいながら、乗り込もうとしていた結太は、二人の険悪なムードを()の当たりにし、思わずつぶやく。

 桃花は結太の台詞に首をかしげると。


「え? 今のどういうこと、楠木くん?……咲耶ちゃんと秋月くん、何かあったの?」

「ん?……いや。何かあったって言やー、あったんだろーけど……。う~ん……」


 桃花に、先ほどのことを教えた方がいいのだろうか?

 結太が悩んでいると、彼らのやりとりが耳に入ってしまったのか、咲耶が素早く振り向き、


「楠木ッ!! 桃花に余計なこと言ったら、承知しないからなッ!?」


 鬼のような形相(ぎょうそう)で、釘を刺して来た。

 結太はビクッと肩を揺らし、咲耶の様子を恐々(こわごわ)窺うと、『……はい』と弱々しく返事するのだった。

龍生と咲耶は完全にバカップル、ケンカップルと化しておりますね。

ごめんなさい、作者の趣味です……。


……というわけで、第14章はここまでとなります。

お読みくださり、ありがとうございました!

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