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第17話 東雲、妹の登場に驚く

 いつまでも、こんな廃墟で立ち話をしている訳にも行かない。

 この二人組の悪党を車まで運び、とりあえず、秋月邸へ連れて行こうと、龍生達が話し合っていると。


「あれ? お兄ちゃんじゃない。どーしたの、こんなところに突っ立って?」


 若い女性の声がして、何気なくドアの外へ目を向ける。

 するとそこには、ミディアムショート(推定二十代半ば)の女性が、首をかしげてたたずんでいた。

 咲耶と並び立つのではないかと思われるほど、美しい女性だ。


 女性の視線の先には、いつからそこにいたのか、東雲が腕を組んで立っていたのだが、


兎羽(とわ)っ?……お、おまえ、なんでこんなとこに?」


 その女性を見たとたん、ギョッとしたように、一歩足を引いた。


「私?――私は(れい)さんに呼ばれて来たの。誘拐されて、すっかり(おび)えきってる子がいるんだけど、自分が近付いて行ったら、ますます怖がらせてしまう恐れがあるから、話し相手にでもなって、落ち着かせてやってくれないかって」


「ああ? 堤――……さんに?」


 思い切り眉間にしわを寄せ、不快極(ふかいきわ)まりないという顔つきで、東雲は堤に視線を投げる。

 兎羽と呼ばれた女性は、堤の姿を認めると、嬉しそうに破顔(はがん)して、


「怜さん!」


 と言いながら駆け寄り、ギュウーッと抱きついた。


「会いたかったー、怜さんっ! もうもうっ、数日振りですよーっ?」

「ああ……すまない」

「ううん、謝らないで?……仕事ですもの。仕方ないですよ。仕方ないですけど……でも、やっぱり寂しいっ!」


 そう言って、再びギュッと抱き締める。


 堤はかなりの大男(鵲同様、百九十センチは超えていそうだ)なので、百六十センチ程度はあるのではないかと推測される兎羽でも、遠目からでは、きっと子供に見えるだろう。――桃花などは、完全に小学生だ。


「兎羽ッ!! 人前でそんなくっつくな!!」


 見ていられない、とでも言うように、東雲が兎羽を引きはがしに掛かる。

 兎羽は不満げに東雲を見上げ、


「ちょ…っ! やめてよお兄ちゃん! 夫婦の問題に口出して来ないでッ!!」


 負けじと踏ん張って、更に強く、しつこく、抱き締め続ける。


「おいっ、兎羽ッ!! やめろって言ってるだろう!? お兄ちゃんの言うことが聞けないのかッ!?」


「聞ーけーまーせーんーーーッ!! だってお兄ちゃん、いっつも私と怜さんの邪魔して来るんだもの!! いい加減頭に来てるんだからねっ!? これ以上、二人の仲を引き裂こうとするんなら、お兄ちゃんとは縁切っちゃうんだからッ!! それでもいいのッ!?」


「な――っ!……と、兎羽……。そんな……っ」


 思い切り拒絶され、縁切り発言までされてしまった東雲は、ヨロヨロと数歩後ずさった。


 二人のやりとりからわかるように、この女性は、東雲のたった一人の妹、東雲兎羽だ。――現在は堤の妻で、堤兎羽となっているが。


 結太は、彼らのやりとりをぼんやりと眺めながら、



(ああ……やっぱあの人、兎羽さんの旦那さんだったのか。どっかで見たことあんなー……とは思ってたけど。結婚式に呼ばれた時に、一度見たきりだったからな。すぐには思い出せなかったぜ。……にしても、相変わらずのシスコンっぷりだなぁ……トラさん)



 妹に冷たくあしらわれ、ショックを受けている東雲に、(あわれ)みの視線を送る。

 すると、龍生が前に進み出て来て、


「お久し振りですね、兎羽さん。お元気そうで何よりです」


 そう言って、ニコリと笑い掛けた。



 久々の〝王子様スマイル〟だ。

 東雲の――従者の妹とは言え、女性には礼儀正しく接するのが、一貫した龍生のスタイルだった。



「え?……は――っ、はわぁああっ!? たっ、龍生様っ!?」


 振り返り、龍生の顔を確認したとたん、兎羽はパッと堤から両手を離し、飛び跳ねるように数歩後ずさると、思い切り頭を下げた。


「もっ、申し訳ございませんッ!! 龍生様がいらっしゃったなんて! 全く気付かず、大変失礼いたしましたっ!!……しかも、お恥ずかしいところをお見せしてしまって……。本当に、すみませんでした!!」


「――いや。そんなにかしこまらないでください。僕は気にしていませんから。……それより、通常の仕事以外のことを、堤さんにお願いしてしまって、こちらこそ申し訳ありませんでした。仲睦(なかむつ)まじいご夫婦のお時間を、奪う形になってしまいましたね」


「いっ、いいえええッ!! そんな、もったいないお言葉、恐縮(きょうしゅく)でございますぅっ!! どうか、お気になさらないでくださいませっ!!」


 何故か真っ赤な顔をして、兎羽は、やたらと緊張している様子だった。

 夫の堤の前でも、やや顔は上気させていたが、これほどではなかった気がする。



(あ~……。結婚しても、龍生に対してはあんな感じのままなんだな……兎羽さん)



 兄が(つか)えている人物とは言え、自分よりかなり年下の龍生に対し、ここまで緊張すると言うのは、一見、異様に思えるかもしれない。

 ――が、結太にとっては、相変わらずの見慣れた光景だった。


 何故なら、結太が龍生と知り合った頃には、既にこんな感じだったからだ。

 兎羽は、簡単に言うと――昔から、龍生の大ファンなのだった。



「へえ……。あの人が、東雲さんの妹さんの……兎羽さん、か。……綺麗な人だな」

「ああ。だろー? トラさんもカッコイイから、その妹が美人なのは当然っちゃあ当然なのかもしんねーけど――さ――……って……えっ、保科さんッ!?」


 いつの間にか、咲耶が隣に立っていて、結太はギョッとしてのけぞった。

 その拍子(ひょうし)にバランスを崩し、後ろに倒れそうになる。


「うわ――っ?」

「楠木くんっ!」


 後ろからギュッと抱きつかれたと思ったら、桃花が支えてくれただけだったようだ。

 結太はドキドキしながらも、『ありがとう』と、振り向きざまに礼を言った。

 すると、ちょうど顔を上げていた桃花と目が合い、二人は真っ赤になって、お互いに顔をそらせた。


 そんな初々(ういうい)しい二人の様子も、まるで目に入っていないように、


「……むぅ~~~……。綺麗な人の前だと思って、デレデレしくさって。……やっぱりあいつも、ただの男なんだな」


 咲耶はムッとした顔で、ブツブツとつぶやいている。


 龍生としては、むしろ、一歩引いた態度で接している(王子様スマイルがその証拠だ)つもりなのだが、咲耶の目には、どうやら〝デレデレ〟しているように見えるらしい。



(あれ?……もしかして保科さん……()いてんのか?)



 咲耶のつぶやきを耳にした結太は、珍しく、女心を素早く察知し、幼馴染とその彼女が、後で()めなければいいが……と、一人でヒヤヒヤしていた。

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