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第14話 結太と安田、引き続き敵を追跡する

 龍生への報告を済ませた後、安田は前を向いたまま、後部座席の結太へと声を掛けた。


「結太さん。ナビ上では、伊吹様は今、どの辺りにいらっしゃいますか?」


 スマホ画面上の地図を、睨むように見つめている結太は、安田の問いに、顔を上げぬまま答える。


「ええと……どの辺りって言われても、オレはその廃墟やらがどこにあんのか知んねーし……。けど、山ん中の一本道を、ひたすら上に向かって進んでってる、って感じだな。横道とかはなさそーだぜ、ブンさん」


「はい。そのはずです。小さい山へ向かっているのですから、道は幾つもあるわけではございませんし。……まあ、地図には載っていない、獣道(けものみち)ならあるのかもしれませんが」


「ああ。……ん?……あれ? 止まっ……た? 止まった! 止まったよブンさん! 点滅してる光が、動かなくなった!」


 顔を上げ、結太が興奮したように告げる。

 安田はコクリとうなずき、


「やはり、山を下る前に止まりましたか。そうしますと、行先は廃墟で間違いございませんね。……結太さん」


「ん?――何?」


「目的地に着いたとなると、敵もいよいよ、伊吹様を、本格的に監禁しようとして来るでしょう。もう、一刻の猶予(ゆうよ)もございません。これから少々、手荒な運転をさせていただきます。ご了承ください」


「え? 手荒って、どの程度のこ……っ、わぁあッ!?」


 結太の言葉をさえぎるように、安田が思い切りアクセルを踏み込んだ。スピードが一気に加速し、後方へ引っ張られる感覚が結太を襲う。


 その後も、安田が大胆にハンドルを切ったり、アクセルを踏んだりするたびに、結太の体も、前に後ろに、右に左に、グワングワンと揺さぶられた。


 常に安全運転の安田が、ここまで荒っぽく運転する姿を、結太が目にするのは初めてのことだった。

 シートベルトをしていても、あまりにも激しく、大きく、体が揺さぶられるので、乗り物酔いをしたことがない結太でも、気分が悪くなってしまいそうだ。


「ぶ――っ、ブンさ――っ!……あ、危ねーって! こんな運転、し――っ、してたらっ!……じっ、事故っ! 廃墟――っ、にっ! 辿り着くま――っ、前、にっ! 事故っ、ちまうっ、てぇえーーーーーッ!!」


 シートベルトを両手でしっかりと握り締め、まるで、ジェットコースターに乗っているような錯覚(さっかく)にとらわれそうになりながら、結太は必死に(うった)える。

 それでも安田は、結太の声が聞こえていないのか、あえて聞こえないふりをしているのか定かではないが、ひたすら無言で、いつ事故が起こってもおかしくない、荒っぽい運転をし続けた。



 そして数分後。

 車が四~五台ほどは停められそうな空き地に、(すべ)り込ませるようにして停車させると、安田は素早くシートベルトを外し、


「結太さん、スマートフォンを返していただけますか?」

「――えっ?……あ、ああ。はいっ」


 結太から差し出されたスマホを、手を伸ばして受け取った。

 すると安田は、


「それでは、行って参ります。結太さんは、しばしこちらでお待ちください」


 そう言って、一人で廃墟に向かおうとする。

 結太は慌てて、


「ちょ――っ! ちょっと待ってくれよブンさん! オレも行くよ! 決まってんだろ!」


 結太の言葉に振り返った安田は、いつもの柔和(にゅうわ)な顔ではなく、厳しく引き締まった顔――言うなれば、〝戦地に(おもむ)こうとする男の顔〟をしていた。

 その顔を見て、一瞬、結太の心臓はピョコンと跳ね上がったが、ここは引くわけには行かない。キリリと顔を引き締める。

 しかし、安田は冷静に、


「申し訳ございませんが、ここはご遠慮願います。お怪我をなさっている結太さんを、お連れするわけには参りません」


「だっ、ダイジョーブだよ! ホントはもう、ほとんど治ってるんだ。まだ無理しちゃいけねーってんで、松葉杖使うようには言われてっけど、なくても歩けることは歩けんだよ! だから――っ」


「松葉杖を使うように指示されていらっしゃるのであれば、それをお守りください。ご無理をして、また怪我が悪化したとあっては――」


「だからダイジョーブなんだって! ホントに、マジでもうなんともねーんだ!……なあ、頼むよブンさん! オレも行かせてくれ!」


「なりません。結太さんが、いくら大丈夫と申されましても、実際のところ、お医者様にお聞きしなければ、怪我の状態はわからないのですから。もし、治っておいでだとしても、このような緊急事態に、不慣れな者に現場にいられては迷惑なのです。足手まといにしかなりませんので」


「――っ!」


 ハッキリと『迷惑』、『足手まとい』と言われ、結太はギリリと歯噛みした。

 悔しいが、確かにその通りだろう。


 ――しかし――。


「おわかりいただけましたか? それでは、私はこれにて――」

「ゴメン! わかっけどわかんねー!」


「……結太さん」


 〝聞き分けのない子を前に、困り果てた父親のような〟顔つきで、安田は小さくため息をつく。

 結太とて、困らせているのは百も承知だが、どうしても、ここで納得して、引くわけには行かないのだ。


「ブンさんの言ってることわかるよ! 俺が一緒に行ったって、足手まといにしかなんねーって。……その通りだと思う。けど、それでもオレ、ここで、ただ待ってるだけなんて出来ねーよ! 出来ねーんだよッ!!」


 安田はただ黙って、じっと結太を見返している。

 その顔は、『言いたいことがあるなら言ってみろ。聞くだけ聞いてやる』――とでも、言っているようだった。


 結太はゴクリと唾を飲み込むと、先を続けた。


「確かにオレ、足手まといかもしんねーよ。何の役にも立てねーのかもしんねーけど、でも――っ!……好きな子が(さら)われて……今、彼女がどんなに心細い気持ちでいるかもわかんねーのに、オレだけ安全な場所で、ただじっと待ってるだけなんて出来ねー! たとえ迷惑でも、足手まといでも、彼女の――……伊吹さんの側に行きてーんだ!! 行って、この目で無事を確認してーんだよ!!……なあッ、頼むよブンさん! オレも連れてってくれッ!!」


 安田は数秒ほど、結太の顔を無言で見つめていたが、やがて、おもむろに目をつむり、深々とため息をついた。

 そして目を開けると、今度は〝泣き叫びながら『おもちゃを買って』とねだる子に、渋々了解させられる父親〟のような顔をして、


「それでは、廃墟のある場所まで、私に結太さんを背負わせていただけますか? 松葉杖をつきながらついて来られては、それこそ足手まといです。かと言って、松葉杖なしで、足を引きずりながらついて来られましても、物音を立てる不安がつきまとい、これも迷惑です。――よって、結太さんには、廃墟に着くまで、私の背で、大人しくしていていただきましょう。それ以外での同行は、認められません。……構いませんね、結太さん?」


 そう告げる安田に、結太はぱあっと顔を輝かせ、『ああ、構わねー! ありがとう、ブンさん! 恩に着る!』と言って、思い切り頭を下げた。

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