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第11話 桃花、男二人組によって連れ去られる

 結太と安田が、必死になって、桃花を連れ去ったであろう車の後を追っていた頃。

 桃花は、五十嵐信吾に(やと)われた二人組の若い男達によって、車に押し込められ、連れ去られている最中だった。



 ――どうやって誘拐したのか?

 これが、誘拐犯側の二人からしてみれば、ラッキーとしか言いようのない流れで、起こった(起こした)出来事だったのだ。



 二人組の男は、どちらも二十代。

 健康体であるのに、就職しようとも、短時間のアルバイトすらしようともせず、未だ親の世話になり、街中をふらふらと遊び歩いているような男達だった。


 だからこそ、五十嵐信吾に目を付けられてしまったのだ。

 挙句(あげく)、金を目の前にチラつかされ、誘拐などという、とんでもない話を持ち掛けられたにもかかわらず、軽い気持ちで乗ってしまった。


 今回は、前回の事件の時のように、実行犯が高校生(実行に移した時は、もう卒業していたが、話を持ち掛けられたのは、ギリギリ在学中の時だったので、一応高校生としておく)というわけでも、脅されて無理矢理――というわけでもないので、同情の余地はない。


 だが、やはりもっとも(みにく)いのは、自分は安全な場所にいて、命令や指示だけ出し、金で雇った者達に犯罪を犯させる、五十嵐信吾だと言えるだろう。



 ――しかし、その問題はひとまず置いておくことにして、先を続ける。



 その雇われた男達は、最初に当座の資金と、桃花の写真(無論、隠し撮りだ)を渡され、『この娘を誘拐して、ある場所に監禁しておけ』と命じられた。

 あとは、『誘拐が完了したら、すぐ連絡を入れろ』と言われただけだった。


 相も変わらず、人任せ過ぎて呆れるが、雇われた男達にしてみても、誘拐など、今までしたことがないのだから、どうやって誘拐すればいいのかわからない。頭を抱えてしまった。


 とりあえず、本人を確認しよう。

 そう思った男達は、数日間、高校の周辺をあちこち移動しながら、車の中から、通り過ぎて行く女生徒達と、写真の少女を見比べていた。


 あちこち移動していたのは、一ヶ所にずっと留まっていると、怪しいと思われ、通報されてしまう恐れがあると思ったからだろう。――一応、警戒心は持ち合わせているらしい。


 写真の少女の捜索を開始してから、三日ほど経った頃。

 ようやく発見出来たまではよかったが、行きも帰りも、常に少女の近くには、飛び切りの美男美女カップルがいた。

 そのせいで、誘拐する機会など、まったくなかった。(この〝美男美女カップル〟とは、当然、龍生と咲耶のことだ)


 咲耶が桃花にピッタリくっつくようにして歩き、龍生は、その少し後ろをついて行く――という、横と後ろを守られるような形で歩いていたため、数日の間、桃花は誘拐されずに済んでいたのだ。


 だが、今日はたまたま、桃花は一人で帰っていた。

 龍生と咲耶も、数分後には、桃花を追うように、同じ道を早足で歩いて来ていたのだが、追い付く前に、桃花は(すき)を突かれ、ムリヤリ車に押し込められてしまった。



 たった数分。

 しかし、そのたった数分――いや、たった数十秒、家族が目を離していただけでも、子供が失踪、または誘拐されてしまった事件は、意外とあるものだ。

 たった数分、たった数十秒を、甘く見てはいけない。



 若い男の二人組は、この数日で、登下校中、桃花が必ず通る道を把握(はあく)していた。

 人通りのない裏道には、空き家や、日中は誰もいなくなるような家も多く、その辺りに車を止めておけば、あまり目立たないことも、気にする通行人も滅多にいないことも、既に確認済みだった。


 だから、今日も二人は、その裏道に車を停め、桃花が通り掛かるのを、車に乗ったまま待っていたのだが……。



 やがて、待っていることに()きた二人組の内の一人が、家から持って来たと言うウィスキーの小瓶(こびん)を出し、グビグビと飲み始めた。

 その男は、酒に強い方ではなかったので、すぐに酔っぱらい、仕舞いには、『気持ち悪い』と言い出す始末。

 相棒であるもう一人の男は、仕方なく、酔った男を車外に連れ出し、空き家の横にある竹林で吐かせ、背中をさすっていた。


 胃の中のものを全部吐き出すと、酔った男は、地面に両手と両膝をつき、下を向いてグッタリする。

 その姿が、具合が悪そうに見えたのだろう。その時、ちょうど通り掛かった桃花が、慌てて駆け寄って来て、『大丈夫ですか? 救急車、呼んだ方がいいですか?』と、声を掛けて来たのだった。



 驚いたのは、介抱(かいほう)していたもう一人の男だ。

 誘拐しようとしていた少女が、いきなり目の前に現れ、しかも、いつもピッタリくっついていたはずの、美男美女カップルの姿もないと来ている。


 ここで連れ去っておかなければ、もう二度と、こんな好機は巡って来ない!

 ――そう思ったその男は、桃花の体を後ろから羽交(はが)()めにし、驚いて暴れる桃花を引きずるようにして、車の中に押し込めた。


 それから、大声でもう一人の男を呼び戻し、二人掛かりで、どうにかこうにか、桃花の両手と両足を、粘着(ねんちゃく)テープでぐるぐる巻きにし、口にもテープを貼った。

 だが、その姿のままだと、誰かに車の中を覗かれた時、明らかに怪しいと思われるに決まっている。


 そこで、桃花の口にマスクを付け、後部座席に座らせると、シートベルトを装着させた。

 それから、テープを巻きつけた手足が人目に触れぬよう、何かに使えるだろうと持って来ておいた毛布を、体を(おお)うように掛けておく。


 こうしておけば、たとえ誰かに見られたとしても、『風邪を引いている子を、病院に連れて行く途中だろうか?』とでも、思わせられるはずだ。


 そこまでのことを素早く済ませると、男達は、五十嵐に指示されていた廃墟へと向かうため、車を発進させたのだった。

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