第6話 龍生ら、門前で結太と出くわす
龍生と咲耶、そして桃花が、学校の校門前まで来ると、ちょうど秋月家の車が、門の前で停止するところだった。
運転手側のドアが開き、安田が素早く降車すると、龍生に向かって一礼する。
龍生は軽くうなずき、咲耶と桃花も、慌てて会釈した。
安田は、二人に対しても深々と頭を下げてから、車の後方に回って、トランクから松葉杖を取り出す。
その間に、後部座席のドアを開け、中からひょいっと顔を出した結太は、
「おうっ、龍生。今日も保科さんと仲良く登校か――……って、いっ、伊吹さん!」
龍生を冷やかしてやるつもりだったようだが、咲耶の隣に桃花の姿を発見したとたん、真っ赤になってうろたえた。
「おっ、おおおおはようっ、伊吹さん! きょ、今日もいー天気でよかっ――」
「そうか?……今日は曇天のようだが?」
空を仰ぎながらツッコまれ、結太はギッと龍生を睨む。
「う、うっせーな! ちょっと間違えただけだろッ!? いちいちツッコんでんじゃねーよ!」
二人のやりとりを見ていた桃花は、クスクスと可愛らしい笑い声を上げ、その様子を呆れたように見ていた咲耶は、
「楠木、おまえまだ……桃花の前で緊張しているのか? いい加減慣れろよ、みっともない。クラスメイトになってから、もう二ヶ月近くになるっていうのに、情けない奴だな」
などと吐き捨てるように言い、両手を腰に当てた。
結太は、安田に手を貸してもらいながら車から降り、今度は咲耶を睨み付ける。
……が、桃花の手前、何も言い返せないまま、ギリギリと歯噛みするだけにとどめた。
「おはよう、楠木くん。はい、肩に掴まって?」
当たり前のように、桃花は結太の隣に立ち、そっと背中に手を添える。
結太は真っ赤になりながらも、『あ、ありがとう』と言い、桃花の肩に、恐々手を置いた。
結局、松葉杖で登校するようになってからは、こうして、桃花の手を借りている。
最初は申し訳ないからと断っていたのだが、桃花がどうしても手伝いたいと頑張るので、彼女に恋する身としては、突っぱねるわけにも行かず、厚意に甘えることにしたのだった。
「結太、俺ほど背が高くなくてよかったな。百八十を超える大男が、伊吹さんの肩を借りるとしたら、かなり中腰にならなければいけないからな。かえって腰が辛かったろう」
追い越す際、振り向き様に龍生が声を掛けると、結太は『悪かったな、背が低くて!』と言い返す。
龍生は苦笑し、
「そうやって、何でも悪い方に取るなよ。べつに、おまえの背が低い、と言っているわけではないんだからな。百七十もあれば、低いとは言わないだろう?」
「……けど、高くもねーよ」
ムスッとして言い張る結太に、龍生はひょいと肩をすくめる。
それから、ふと何かを思い出したかのように。
「――そうだ。確か男女の身長差は、十二~十五センチくらいが理想だそうだぞ。……伊吹さん。失礼だが、身長は?」
「えっ?……あ、えと……百五十二……くらい、です」
「……そうか。では、ほんの少し差が大きいか。……結太、残念だったな」
からかうような笑みを浮かべる龍生に、結太は『はあ?』と眉根を寄せる。
「なんだよ? 何が残念だってーんだ? 身長差の理想って、何の理想だよ? 勿体ぶらずに教えろって」
「フフッ。……では、教えてやる。キスをする時の理想の身長差が、十二~十五センチ……だそうだ」
「な――っ、キ…っ?」
「キっ、キスっ?」
結太と桃花は、ほぼ同時に声を上げると、たちまち真っ赤になり、絶句したまま、その場で固まった。
龍生はまた、フッとからかうような笑みを浮かべてから、咲耶の手をさりげなく握り、二人を残して行ってしまった。
それから数分後。
結太と桃花が、ハッと我に返った時には、朝のHRまであと五分――というところまで迫っており、二人は慌てて、校舎目指して歩き出した。




