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主人公降格!? ~協力者のはずの幼馴染に主役の座を奪われました~  作者: 金谷羽菜
第14章

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第2話 龍生、予想外の咲耶の来訪に甘い夢を見る

 ドアを開けると、咲耶が緊張した面持(おもも)ちで立っていた。龍生と目が合うと、顔を赤くしてうつむく。


 まさか、咲耶の方から部屋を訪ねて来るなどとは、思ってもいなかった。龍生は目を見開き、気が付くと訊ねていた。


「咲耶。……どうしたんだ、何か用事か?」


 龍生の言葉に、咲耶の肩がピクリと揺れる。


「……用がなければ、来ちゃいけないのか?」


 心なしか、()ねたような口ぶりだった。

 龍生は慌てて、


「いや。そんなことはないが。……咲耶から来てくれるなんて、考えてもいなかったから……」


 戸惑い気味に否定すると、咲耶は下を向いたまま、らしくない、か細い声で。


「……桃花のところ以外、よその(うち)に泊まるの、初めてで……。なんか、落ち着かないんだ。何していればいいのかもわからんし……。だから、その……しばらく、話し相手にでも……なってくれない、か……?」


 妙にしおらしい咲耶に、龍生の胸は、(いや)(おう)でも高鳴る。



 咲耶のことだから、女が男の部屋を訪ねるということが、どれだけ男の期待感を増幅させるか、まったくわかっていないのだろうが……それでもどうしても、〝もしも〟の時のことを、考えずにはいられなかった。



「話し相手にくらい、いくらでもなるが……。咲耶……本当に、いいのか?」

「『いいのか』?……って、何がだ?」


 咲耶は顔を上げ、きょとんとした顔で首をかしげた。



 ……やはり、わかっていないらしい。

 そうだろうと思ってはいたが、(かす)かな期待を抱いてしまっていた龍生は、軽くため息をついた。



「え?……迷惑……だった、か――?……すまん。迷惑なら、部屋に戻――っ」


 (きびす)を返そうとする咲耶の腕を、素早く掴む。

 驚いて(あお)ぎ見て来る咲耶の顔を見つめ、龍生は柔らかく微笑んだ。


「迷惑なわけないだろう?……いいよ。入って」


 咲耶の顔が、ホッとしたように(やわ)らぐ。


 ここでホッとされるのも、微妙に傷付くのだが……。


 龍生は咲耶を中へと招き入れると、なるべく音を立てないように、そっとドアを閉めた。



「へえ。……これが秋月の部屋か。綺麗に片付いてるんだな。男の部屋って、もっとグチャグチャのゴッチャゴチャなのかと思ってた」


 部屋に入るなり、部屋のあちこちをキョロキョロと眺め、咲耶が笑って言った。何故か、とても楽しそうだ。

 龍生は苦笑し、


「それは偏見だろう。男の部屋が、全てそんな風だと思わないでほしいな。……まあ、掃除はいつも、お福がやってくれているから……汚くなりようがないだけ、と言うべきか」


 そう言っている間にも、咲耶は(しき)りと辺りを見回し、部屋の(はし)から端まで歩き回って……何やら、探しているようにも見える。


「咲耶? あちこち眺めたりするのは、べつに構わないが……机の下を覗くのはまだしも、引き出しは、勝手に開けないでくれるとありがたいんだが……。ええと……ベッドの下など、何もないと思うぞ? いったい、何をしているんだ? 探しものか?」


「ああ! ()()()()()()がないか、探してる!」


「…………は?」



 聞き違いだろうか?

 今、『イヤラシイ本』を探している、という風に聞こえたが……。



 ……いや、まさか。

 そんなものを探すのに、あんなに楽しそうにしているわけがない。

 やはり、聞き間違いだろう。



「男の部屋って、()()()()()()()()()()ものなんだろう? 秋月は、どこに隠してるんだ?」



 ……聞き間違いではなかったらしい。

 咲耶は『イヤラシイ本』を探しているようだ。……何故か、嬉々(きき)として。とても楽しげに。



「それも……偏見、だと思うけどな。男の全てが、そういう(たぐい)の本を持っているとは、限らないんじゃないか?」

「……なんだ。そーなのか?」



 ……そこで、ガッカリしたような顔をするのは、何故なんだ?

 持っていてほしいのか、恋人に?……()()()()()()()



「チェッ。つまらないな。せっかく、見つけてやろうと思っていたのに。……なあ、本当にないのか? 一冊もか?……ホントのホントに?」



 ……だから何故、そこで残念そうな顔をするのだ?



 龍生は軽いめまいがし、片手で額を押さえた。


「……呆れたな。宝探しでもしている気になっていたのか? 仮に、そんなものを見つけられたとして……楽しいか?」

「そりゃあ楽しいだろう! 〝宝探し〟だぞ!?」


「……〝宝〟……なのか? ()()()()()()が……?」

「だって、男にとってはそうなんだろう? 『お宝映像』って、イヤラシイ映像のことを言うんだよな? だったら、〝イヤラシイ本〟だって、〝お宝本〟ってことになるんじゃないのか?」


「……さあ……。俺は、よくわからないが……」



 龍生も男だ。そういうものに、まるっきり興味がないわけではない。

 だが、掃除を宝神に頼んでいる手前、その手のモノは、一切置かないように気を付けている。


 本などなくても、男の欲を掻き立てるモノは、インターネット上にいくらでも転がっている。

 わざわざ人目につくような場所に、己の秘めた性的嗜好(しこう)が窺い知れるようなものを、置いておく必要性は感じない。



「そーか。ないのか。……珍しい奴だな、秋月って」


 つまらなそうに口をとがらせ、咲耶はごく自然に、目の前にあるベッドに腰掛けた。



(……無防備過ぎるだろう)



 ――思わず、心でつぶやく。

 だが、あえてそこには触れず、龍生は咲耶に問い掛けた。


「珍しい?――何が珍しいんだ?」


 座ったままの状態でベッドに両手をつき、足をぶらぶらさせながら、咲耶は、視線だけを龍生に向けて言い放つ。


「だって、年頃の男の部屋には、イヤラシイ本があるのが当然だって、前に何かでやってたぞ。テレビだったかな? むしろ、何もない方が、不自然で不健康――なんだってさ。なのに、おまえの部屋には一冊もないんだろう? 珍しいよな。……もしかして、おまえは〝不健康〟なのか?」



 さすがに、『不健康』という言われようは、少々カチンと来た。

 咲耶に悪気がないのはわかるが、言って良いことと悪いことがあるということを、教えてやらねばなるまい。



 龍生は、無言のまま咲耶の隣に腰を下ろすと、


「不健康って? それはどういう意味だ? どういう状態の男が不健康って言うのか、咲耶は知ってるのか?」

「え?……どういう状態?――って……」


 咲耶はきょとんとしている。

 どうやら、意味もわからず訊ねていたらしい。



 ……まあ、龍生自身も、どういう状態のことを、男にとっての不健康と呼ぶのか、実は、よくわかっていないのだが。

 ただ、なんとなく、『こんな感じの状態のことかな?』という予想のようなものが、頭の中にあるだけだった。



「俺が思うに、好きな人を前にしても、抱き締めたいとも、キスしたいとも思わない。そういう男のことを、不健康と呼ぶのではないかな?――だが、俺はいつも、咲耶に対して、抱き締めたいとも、キスしたいとも思っているから、不健康ではないと思う。咲耶は、そう思わないか?」


「え……えっ!?」


 咲耶の顔が真っ赤に染まる。

 正面切って、『抱き締めたいとも、キスしたいとも思っている』などと言われてしまい、どう返事すればいいのかわからなかった。

 咲耶は視線をあちこちさまよわせ、『そ……そんなこと、言われたって……』などと、モゴモゴとつぶやいている。


「咲耶――」

「……えっ?」


 気付いた時には、咲耶は龍生に両肩を掴まれ、ベッドに仰向(あおむ)けの状態で、押し倒されていた。


「え……えっ?……えっ!?」


 突然の事態に、すぐには状況が把握(はあく)出来ず、咲耶はしきりと、『え?』という疑問符付きのつぶやきを繰り返す。

 龍生は咲耶の顔を挟むようにして両腕をつくと、


「俺が不健康かどうか、確かめてみる気はあるか?」


 咲耶を試すかのように、少し意地悪く笑った。

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