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第13話 龍生、安田から怪しい男の情報を聞く

 駅から歩いて自宅に戻った龍生は、門をくぐる前に安田に呼び止められ、その事実を知らされた。


「何ッ!? 結太を送って行く途中で、五十嵐を見掛けただと!?」


 龍生の問いに、安田は真剣な顔でうなずく。


「はい。脇道を通り過ぎた瞬間、数人の若い男達の中に、五十嵐の顔が見え、慌ててブレーキを踏みました。すると、奴はこちらに気付き、素早くどこかへと逃げて行ってしまい……。追い掛けるかどうか迷ったのですが、結太様がいらっしゃいましたので、断念しました。申し訳ございません。あの時捕らえていれば、何を(たくら)んでいるのか、又はこちらの思い違いなのか、探ることが出来たと思うのですが……」


 悔しそうに唇を結ぶ安田に、龍生はゆるゆると首を振った。


「いや。結太が共にいたのであれば、仕方あるまい。その判断は間違っていない。あいつまで巻き込むわけには行かないからな」

「……はい。しかし――」


「わかっている。五十嵐が学校付近で目撃されたということは、やはり、何か企んでいる可能性が高いということだろう。咲耶の周辺に対する警備も、いよいよ本格的に考えねばなるまい。――安田、引き続き警戒(けいかい)を頼む」

「承知しました。ボディガードをしていた頃の知り合いにも、協力を(あお)ぎましょう」


「そうか。そうしてもらえると助かる」

「はい。お任せください。――それでは、失礼いたします」


 そう言うと、安田は一礼し、何処(いずこ)かへと去った。

 今話していた、『ボディガードをしていた頃の知り合い』に、会いに行ったのかもしれない。


 龍生は家の敷地内に入ると、住んでいる離れではなく、母屋の方へ向かった。

 直接訊ねても、この前のようにはぐらかされるだけだろうが、一応、何か知っていることはないか、龍之助に探りを入れてみようと思ったのだ。



 龍生が母屋の引き戸に手を掛けようとすると、中で人影が動くのが見えた。引き戸は、すりガラス入りの格子戸(こうしど)なので、人が近付けば、だいたい誰が来たかわかる。

 赤城だなと思った瞬間、内側から戸が開いた。


「龍生様。龍之助様からのお呼び出しがない時に、こちらにいらっしゃるのは珍しいですね。何かございましたか?」


 相変わらず、男でもドキッとしてしまうほどの良い声だ。

 龍生は僅かにうなずくと、


「ああ。お祖父様にお聞きしたいことがあってな。――お祖父様はどちらにいらっしゃるんだ?」

「先ほどまで、来客のお相手をしておいででしたので、応接室にいらっしゃると思います」


「来客?――五十嵐……仁か?」


 ピンと来るものがあり、そう訊ねると、赤城は表情を変えぬまま、


「龍生様、それにはお答えいたし兼ねます。龍之助様の許可なく、お話するわけには参りません」


 きっぱりと、答えるのを拒否して来た。


 赤城ならそうするだろうと、最初からわかっていた。

 龍生は特に驚くこともなく、軽くうなずくことで理解を示す。


「では、お祖父様に直接訊ねることにしよう。失礼するぞ」


 靴を脱ぎ、端に寄せてそろえると、龍生は応接室に向かった。



「お祖父様、入りますよ」


 応接室のドアをノックした後、龍生は返事を待たぬまま、部屋に足を踏み入れた。

 行儀が悪いのは承知の上だ。咲耶の身に危険が迫っているかもしれない時に、のんびりしてなどいられない。


「うん?――どうした、龍生? おまえが用もないのにこちらに来るなど、珍しいな」


 ゆったりとソファに座り、湯呑(ゆの)みのお茶をすすっていた龍之助は、ちらりと龍生を見て言った。


「用ならありますよ。――お祖父様、いい加減教えてくださいませんか? 五十嵐が――五十嵐信吾が、またよからぬことをしようと、陰でコソコソ動いているのでしょう? それを息子の仁が知らせに来た。違いますか?」


 単刀直入(たんとうちょくにゅう)に、ずっと思っていたことを伝えると、龍之助は僅かに眉を上げ、


「ほう。――何故そう思う?」


 試すような訊き方をする。

 龍生は、少し前に仁が訪ねて来たこと、その次の日に、いきなり龍之助から、『保科さんから、何か相談されたことはないか?』と訊かれたことを()げ、


「仁が訪ねて来た日から、あまり間も置かずに、咲耶のことを訊ねて来るなど、おかしいと思うに決まっているではないですか。仁はずっと、父親が仕出かしたことで、後ろめたい思いをして来たんですよ? その仁が、あの事件から十年も経って、再びこの家を訪れるなんて、余程のことがなければあり得ないはずです。その上、咲耶から相談されたことは――などと意味深なことを訊かれて、変に思わない方がどうかしています。――お祖父様。何かご存じなら教えてください。五十嵐が――……いや。五十嵐本人が、直接何かしようとしているのであれば、まだマシなのです。それよりも、金で人を(やと)った場合の方が恐ろしい。五十嵐ならば、大したことは出来ないだろうと、高をくくっていられる。そしてあの男ならば、必ず仕出かすことに(あら)があるでしょうから、事件を起こしても、すぐさま解決出来る自信があります。……ですが、金で雇われた人間が仕出かすことは予測出来ません。もし、そのような(やから)が、咲耶に何かしようと考えていたとするならば……。それを考えると、不安で堪らないのです。お願いです、お祖父様。五十嵐のことで知っていることがあるのなら、教えてください!」


 普段は家族にすら、(おのれ)の心情をさらけ出そうとしない龍生が、珍しく本音を語っている。

 そう感じた龍之助は、ひとつ大きなため息をつくと、観念したように龍生を見た。


「わかった。全て話そう。……と言っても、こちらもまだ、大した情報は掴んでいないのだが……。おまえが恋人の身を案じるのは、当然のことだからな。知っている限りのことは教えよう」


 そう言って、空いている席に座るよう、龍生を(うなが)す。

 龍生は言われたとおり、龍之助の前のソファに腰を下ろし、祖父が話し出すのを待った。

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