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第8話 結太、龍生に告白の場所を相談する

『なあ、龍生っ!! 告白するのに、どっかいー場所知んねーかっ!?』


 スマホを耳に当てたとたん、結太の大声が、右耳から左耳に突き抜ける。

 龍生はとっさに耳元を押さえ、数秒間目をつむって、頭の中の反響音が静まるのを待った。


『なあなあっ!!――おいってば!! 聞ーてんのかよ龍生ッ!?……龍生っ? 龍生ってばっ。おーーーいっ!!』


 そうしている間にも、結太の言葉は、次から次へと繰り出される。

 龍生はハァ、とため息をひとつついてから、再びスマホを耳に当てた。


「うるさい。そんな大声を出さなくても聞こえている。……今日は伊吹さんが見舞いに来てくれたんだろう? そのせいで気持ちが浮き立っているのもわかるが、いい加減落ち着け。もう夕食は済ませたのか? 個室とは言え、そんな大声を出していては、看護師さんに叱られてしまうぞ。少しは考えろ。もう高校生なんだから」


 同い年の幼馴染に、ついつい説教してしまう龍生だったが、結太は、そんなことはまったく気にならない様子で。


『ああ、わかった。落ち着く落ち着く。だからさっさと教えてくれって! 告白するのにうってつけの場所、知んねーかっ?』


「……〝告白するのにうってつけの場所〟?」



 龍生は眉をひそめた。

 いきなり電話して来て、最初に言うことがそれか?



「おまえ、まだ告白していないのか? 今日なんて、絶好のチャンスだっただろうが。……まったく。いつまでも煮え切らない奴だな」


『う…っ。――ち、ちっげーよ! 告白はするよ! 近いうちにするよ! 数日中にはするつもりだよ!……けど、どーせ告白すんなら、もっと雰囲気の良い場所がいいっつーか……。ろ、ロマンチックな場所のほーが盛り上がっかなって、そー思っただけだ!』


「……〝ロマンチックな場所〟、ね……」


 (なか)ば呆れ、龍生は小さくため息をつく。



 告白など、相手に『好き』だという気持ちが伝われば、いいだけのことではないのか?

 場所なんて、どうでもいいように思えるが。



『だからっ、教えてくれよ! おまえ、保科さんにどんな場所で告白したんだ? やっぱ、ムードたっぷりのとこでかっ?』



(……どんな場所で――と言われてもな……)



 龍生からしてみれば、告白は二度、させられたようなものなのだ。

 どちらを正式なものと(とら)えればいいのか、正直わからなかった。



 やはり、最初の告白だろうか?

 ……だが、咲耶が覚えていない(咲耶が後になって思い出したことを、龍生はまだ知らない)のでは、どうしようもない気もする。



 ――とすると、二度目の告白の方か。



「俺は……幼い頃の、二人の思い出の場所で、だったな。……まあ、咲耶はその場所のことを、少しも覚えてはいないようだったが……」



 幼い頃住んでいた家の近くにある、あの丘。

 先にあの場所に案内してくれたのは、咲耶の方だったのに……。



 そう考えると、少し寂しさを感じたが、今が幸せならそれでいいではないかと、龍生は軽く首を振り、深く考えることをやめた。



『へえー。思い出の場所、かぁ……。いーよなー、そーゆーのがあって。オレと伊吹さんには、まだそーゆー場所ってないもんなー……』


「……覚えていてもらえなかったとしても、か?」


『うぅ……。そーか、それはキツイな。……ま、まあ――けど、告白はうまく行ったんだろ? だったらよかったじゃねーか。……うん。大事なのは結果だって! 成功したんならオールオッケー!……ってことで、いんじゃね?』


「……まあな。今は幸せだしな」


『うっわ。今度はノロケかよ……』


 結太はげんなりしたようにつぶやく。

 龍生はフッと笑って、


「ああ、そうだ。今ならいくらでもノロケてやるぞ。……聞きたいか?」


『聞きたいワケねーだろッ!!……あ~、一気にテンション下がったわ。一人っきりの病室で、んなもん聞ーてられっかよ。ますます寂しさが(つの)っちまう』


「へえ。おまえ、寂しいのか。だったら、数日見舞いに行けなくて悪かったな。こちらにも、いろいろやっかいな問題が出て来たものだから、行っている暇がなくてな」


『いっ、いーよべつに! それに今のは、龍生が見舞いに来なくて寂しーって意味じゃねーから!……っと……んん? 『やっかいな問題』って何だ? オレがいない間に、学校で何かあったのか?』



 龍生は、結太にも五十嵐のことを伝えておくべきだろうかと、一瞬迷った。

 しかし、そうすると――誘拐事件のことまでも、話さなければならなくなる。


 話すのが嫌だというわけではない。桃花にも話したのだから、いつかは結太にも伝わるだろう。

 だが、入院中の結太に、余計な心配は掛けたくなかった。


 これが桃花に関わることだったなら、話しておいた方がいいと判断しただろうが、誘拐される心配があるのは、咲耶の方だ。

 咲耶のことは、自分さえ気を付けていれば大丈夫だと、結太には伝えないことに決めた。



「学校で、というワケでもないが……。まあ、いろいろな。……おまえには、直接関係ないことだ。気にする必要はない」


『ふ~ん……。けど、まあ……何かあったら言えよ? オレは今こんなだから、役には立たねーかもしんねーけど……話を聞いてやることくれーは出来っからさ』


「……ああ、わかった。話を整理するには、人に話してみせるのが一番だからな。その時はよろしく頼む」


『おうッ! オレはいつでもオッケーだぜ!』


 笑いながら、グッと拳を握る結太の姿が、ふと脳裏に浮かんだ。

 龍生は微かに笑みを浮かべ、


「じゃあ、もう切るぞ。そろそろ、お福が呼びに来る時間だ」


 部屋の時計へと、素早く視線を走らせる。

 もう、夕方の六時を過ぎていた。


『ああ、そーか。――じゃ、お福さんにもよろしく……っと、そーだ! 肝心なこと言い忘れてた!』


「ん?――なんだ?」


『オレ、明後日には退院出来るってさ。しばらくの間は、学校終わってから、リハビリに通わなきゃいけねーみてーだけど、松葉杖使えば、普通に生活していいって』


「そうか、よかったな。――では、当分うちで送り迎えしてやろう。松葉杖で学校まで歩いて行くのは、大変だろう?」


『う~ん……。まあ、そりゃそーなんだけどさ。そこまでしてもらうのも、(わり)ぃーなって気もするし……』


 遠慮する結太に、『何を今更』と龍生は笑い――……。


 結局、松葉杖が必要なくなるまでは、龍生の家の車で、結太を送迎すると決まった。

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