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主人公降格!? ~協力者のはずの幼馴染に主役の座を奪われました~  作者: 金谷羽菜
第12章

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第11話 龍生の昔語り・5

 咲耶を誘拐された場合の〝犯人への懲罰(ちょうばつ)。又は、報復(ほうふく)方法〟を、龍生があれこれ考え始めてしまったせいで、またもや話が中断してしまった。

 早く先に進めないと、夜になってしまう。


 焦った龍生以外の四名は、それぞれの心の内で、『とにかく、話題を変えなければ』と、ひたすらに考えていた。


「えー……っと……。結局、幼い頃の私と秋月は、東雲さんと鵲さんに、誘拐されてしまったんだよな? いったい、どこに連れて行かれたんだ? 隠れ家みたいなところは、五十嵐が用意してくれてたのか?」


 一刻も早く、誘拐事件の全貌(ぜんぼう)を知りたい。

 そう思って咲耶が訊ねると、東雲は顔を(ゆが)め、


「まっさか! あの五十嵐のバカ息子が、そんな気の利いたことしてくれるワケねーですって。誘拐するために必要な車もアジトも、こっちが必死こいて用意したんですよ。あのバカは何もしねーで、ただ命令して来るだけでした」


「俺達、誘拐事件の時は、まだ高校卒業したばかりだったし……。子供一人を誘拐するってなったら、やっぱり、車くらいは必要になって来るじゃないですか。歩きや自転車じゃ目立つし。でも、トラは一応、夏休みのうちに普通運転免許は取得してたんですけど、貧乏だったから、車までは買えなくて。仕方ないから、友達の父親の車を借りたんですが……」


「警察に捕まっちまったら、ダチに迷惑掛けちまうことになるから、知り合いの車借りるのだけは、避けたかったんですけどね……。レンタカー借りるって手もあったんでしょうけど、何故かその時は、そんな案、これっぽっちも浮かんで来なくて。とにかく誰かから借りなきゃって、頭ん中はそればっかりでしたよ」


「隠れ家は、俺達が小さい頃に遊んでた山の中――って言っても、丘みたいな低い山ですけど。そこの上の方にある、ボロボロの廃墟(はいきょ)にしました。外側はボロかったけど、まだ屋根とか、一部の内装なんかはしっかりしてて、荷物とかも持ち込めましたし。鬱蒼(うっそう)とした木々に囲まれた、ほとんど人の来ないところでしたしね」


「まあ、高校生に用意出来るアジトなんか、そんなもんですよ。俺の家は古いアパートでしたし、サギの家は一戸建てではあったけど、当然、両親がいましたからね。子供を隠しておけるワケがない」


 見事な連携(れんけい)で、交互に当時のことを語る鵲と東雲。

 まるで、以前から練習していたかのようだ。


 この辺りは、さすが幼馴染。

 息ピッタリだなと、咲耶も桃花も、感心しながら聞いていた。


「じゃあ、私と秋月は、その廃墟に連れて行かれたのか。どれくらいそこにいたんだ? 二日か? 三日か? いくら子供二人と言えども、そんなに長く閉じ込めておくのは難しいだろう? 誘拐と言うからには、身代金(みのしろきん)要求とかもしたんだよな? だったら、秋月の家に電話したりしなきゃいけないし、金だって取りに行かなきゃいけない。どうしたって、手薄な時間帯が出て来るだろう? その分、逃げ出される可能性も大きくなるよな? 最初から人質を殺す気がないなら、多少は、食べ物や飲み物なども用意しなければならないし、排泄(はいせつ)の問題もある。子供だから、大泣きすることもあるだろう。そうすると、長期間の監禁(かんきん)では、東雲さん達の方が苦しくなって来るに決まっている。秋月家との交渉(こうしょう)も、短期間で終わらせなければ、どう考えたって二人に負担が掛かっ――」


「さっ、咲耶ちゃんっ。咲耶ちゃんっ」


 腕を組み、考え込みながら己の意見を述べていた咲耶の制服の(そで)を、桃花がツンツンと引っ張った。

 咲耶は『ん?』と言って桃花を見ると、不思議そうに首をかしげた。


「なんだ? どうかしたのか、桃花?」


 桃花はチラッと鵲と東雲の方へ視線を投げ、二人を見るよう(うなが)す。


「へ? 東雲さん達がどうかし――……んんっ!?」


 二人に目をやったとたん、咲耶はギョッとして目を見張った。

 何故か、東雲はうつむいて頭を抱え、鵲は両手で顔を(おお)い、やはりうつむいている。


「えっ? な、なんだっ? どーかしたのか東雲さんっ? 鵲さんもっ」


 慌てて声を掛けても、二人は返事もせずに固まっていた。

 何が何やらわからず、咲耶と桃花は顔を見合わせ、同時に首をかしげたのだが……。



 しばらくの後、東雲が、


「……一日……。一日、も……」


 耳を澄ませなければ聞こえないほどの声でつぶやき、鵲は、


「一、日……どころか……。一……時間……」


 もごもごと、更に小さな声でつぶやいている。


「はあ?……一日やら一時間やら……って、いったい何のことだ?」


 咲耶が怪訝(けげん)顔で首を(ひね)ると、桃花はハッと息を呑み、


「もしかして、秋月くんと咲耶ちゃんを、廃墟ってところで監禁してた時のこと……ですか?」


 恐る恐る訊ねると、二人はビクッと肩を揺らした。


「監禁してた時のこと?……って、ことは……」


 鵲がつぶやいていた、『一日どころか、一時間』と言うのは――……。


「ええええッ!? たったの一時間ッ!? 私達を監禁してた時間が、一時間ってことなのか!?」


 咲耶が驚いて大声を上げると、東雲はテーブルに突っ伏し、ゴンッという音を立てて頭をぶつけ、鵲は耳をふさぎ、聞きたくないとでも言うように『わーーーッ!!』と叫んだ。



 ……この二人の様子では、どうやら図星だったらしい。



 咲耶と桃花は再び顔を見合わせ、咲耶は大きなため息をつき、桃花は微妙な笑みを浮かべた。

 脅されて、仕方なくやらされた〝誘拐〟とは言え、まさか、そこまで短時間で終了してしまっていたとは……。



「……なんだ。それじゃ、身代金を受け取りに行く暇もなく、安田さんに居場所を知られ、捕らえられてしまったのか」


「……えッ!? 保科様、安田さんからお聞きになられたんですか?」

「俺達が安田さん一人に、数分も経たずにやっつけられちまったってこともッ!?」


「……へえ。あなた達のような大男二人が、あの、どちらかと言えば小柄な()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のか」


 咲耶に呆れ顔で見つめられ、東雲は『う…ッ!』と言って顔をこわばらせた。

 東雲も鵲も、みるみるうちに、顔が赤く染まって行く。


「……なるほど。それは、さすがに情けないな。鵲さんは、柔道の実力者だったんだろう? 東雲さんだって、身体能力は高かったんだよな? それほどの人達が、数分もしないうちに……か。……へえぇ~……」


 二人は思いきり(こうべ)()れ、大きな体を、どんどん小さく丸めて行く。

 まさに、『穴があったら入りたい』状態だったに違いない。


「咲耶。そんなにいじめないでやってくれ。安田はああ見えて、数々の武術や護身術、拳銃射撃の腕前も確かな、百戦錬磨(ひゃくせんれんま)の実力者なんだ。体格差があったところで、高校を卒業したばかりの若造なんて、敵にもならなかっただろう」


 龍生が見兼ねて声を掛けると、咲耶は『ええッ!?』と驚いて、しきりに『あんなに人が良さそうで、真面目そうなオジサンなのに、すごいんだな!!』などと感動している。

 鵲と東雲はと言うと、


「坊ちゃん……(ひで)ぇ……」

「若造……若造……若造……」


 龍生の言葉に大打撃を受け、二人揃ってテーブルに突っ伏していた。

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