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主人公降格!? ~協力者のはずの幼馴染に主役の座を奪われました~  作者: 金谷羽菜
第12章

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第10話 龍生の昔語り・4

「はああッ!? なんだそれはっ!? 東雲さんが邪魔だから、誘拐事件起こさせて警察に突き出し、妹さんを脅して、ムリヤリ息子の嫁にするだとぉ!? その親父、正気かっ!? 頭のネジ、三本くらい飛んでるんじゃないのかッ!?」


 鵲と東雲の話を聞いている途中、もう我慢出来ないといった様子で、咲耶がソファから立ち上がった。

 それを聞いた二人は、お互い顔を見合わせてから、深々とため息をつく。


「まあ、ネジが飛んでるっちゃあ、飛んでるんですけどね……」

「バカなんですよ。要するに、開いた口がふさがらなくなるくらいの、バカ親なんです。……息子の仁は、いい奴なんですけどねぇ。俺ぁ、あいつが可哀想で……」


 東雲の言葉に、咲耶は意外そうに目を見張った。


「可哀想?……まあ、そりゃあ……親が勝手にしたことではあるんだろうが……。大事な妹さんを、人質に取られてたんだろう? 東雲さんは、そいつ――仁って人のことは、これっぽっちも恨む気持ちはないのか?」

「ええ、それはもちろん。ある意味、あいつも被害者のようなもんですしね。あんなバカな親持っちまって……」


 しみじみとした口調で、仁に同情を示す東雲に、鵲は笑みを浮かべながら補足する。


「仁って、昔っからトラに(なつ)いてたって言うか、かなり(した)ってたんですよ。トラ、自分に好意を寄せてくれてる人を、無下(むげ)には出来ない性分なんです。兄貴肌(あにきはだ)、とでも言うんですかね」

「兄貴肌……。なるほど。面倒見が良い人なんだな、東雲さんは」


 咲耶は感心してうなずくと、ソファに座り直した。


「いやぁ~。そんなに褒められると、困っちまいますよぉ~。……ヘヘッ」


 東雲は頭を掻きつつ、照れ臭そうに体をくねらせている。



 ……いや。

 そこまで照れるほどには、褒めていないと思うのだが……。



 どうやら、調子に乗るタイプのようだと、咲耶は納得した。

 二人共に〝お人好し〟というのも、だいたい理解出来る。


「だが、今の話からすると、脅されたのは東雲さんだけなんだろう? どうして鵲さんまで、誘拐に手を貸すことになったんだ? いくら親しい幼馴染って言ったって、犯罪に関わるなんて、嫌じゃなかったのか?」


 咲耶に問われた鵲は、一瞬、きょとんとした顔つきになったが、すぐにへらっとだらしなく口元を(ゆる)め、


「はぁ……。それは、まあ……そうなんですが……」


 何故か顔を赤らめたりして、先ほどの東雲と同様に、体をくねらせ始めた。



 ……なんだ? 照れているのか?

 照れるような質問など、した覚えはないのだが……。



 眉間(みけん)にしわを寄せ、(いぶか)るように鵲を見つめている咲耶に気付いた東雲は、慌てて説明を付け加えた。


「あ~……それはですね、保科様。こいつ、ガキの頃から、兎羽(とわ)に惚れてたんですよ。だから、『兎羽ちゃんを人質に取るなんて、絶対許せない!!』ってんで、俺に協力してくれることになったんです」

「ト――っ!……お、おいトラっ。余計なこと言うなよっ」


 声を(ひそ)めて訴える鵲だったが、東雲はケロッとしている。


「いーじゃねーか、べつに。今更隠すことでも、照れることでもねーだろ。とっくに振られてんだから」

「う…っ」


「振られたのか!?」

「振られちゃったんですか!?」


 咲耶と桃花が、同時に訊ねる。

 鵲は真っ赤な顔をして、『はあ、まあ……』などと、モゴモゴとつぶやいている。


「兎羽は結婚しちまったんですよ。こいつが長いこと告白出来ず、モタモタしてる間にね」

「トラ! だから余計なことは――っ!」


「うっせーな、おまえが悪いんだろッ!? いつまでもグジグジグジグジしてっから、いけ好かねえ無表情野郎に、兎羽を横取りされちまったんだろーがッ!!……俺ぁおまえになら、兎羽を任せてもいいって、思ってたのによ……」


 そっぽを向き、しかめっ面で愚痴(ぐち)る東雲は、どこか寂しそうに見えた。

 大切な妹には、鵲のような〝良い人〟と、幸せになってもらいたかったのだろう。


「……だって、仕方ないじゃないか。兎羽ちゃんは、ボディガードしてもらってた時から、ずーっと(つつみ)さんのことが好きだったんだから……」


 すっかりしょげ返ってしまった鵲は、大きな体を(ちぢ)こめ、うつむきながらぼやいている。


「ボディガードしてもらってた時って……妹さんが結婚した人は、ボディガードなのか!?」

「もしかして、お二人の同僚さんですかっ?」


 『ボディガード』という言葉に引っ掛かった咲耶と桃花は、続けざまに質問して来た。

 鵲と東雲は顔を見合わせ、


「同僚……では、ないんですが……」

「……まあ、一応……先輩、ってヤツなんですけど……」


「先輩!?」

「じゃあ、歳の差婚!?」


 咲耶と桃花の瞳が、キラキラと輝いている。

 その顔を見て、桃花ならまだわかるが、咲耶もこういう話(恋愛話)などに興味があるんだなと、龍生は意外に思った。


 つい最近まで、恋愛事には無関心のように見えていたが……。

 これは良い兆候(ちょうこう)かもしれないと、ほくそ笑む。


「はあ、まあ……。確か、九歳か十歳くらいは、離れてたと思いますけど……」

「フン! まさかあんなオッサンに、兎羽を奪われちまうたぁな!」


 素直に質問に答える鵲に、面白くなさそうに声を張る東雲。

 今までの言動から察するに、東雲は、相当妹を大事に思っていて、結婚相手の堤と言う男には、良い印象を抱いていないらしい。


「東雲さんは……もしや、〝シスコン〟とかいうヤツなのか?」


 思ったことをストレートに口にする咲耶に、桃花は焦って注意しようとしたが、それよりも早く、


「ああ、そうだ。東雲は重度のシスコンだ」


 龍生はキッパリと断言した。


「ぼ――っ、ぼぼぼ坊ちゃんッ!!――なっ、ちっ、……違いますって! 俺は――っ」

「うん。かなりのシスコンだよね。兎羽ちゃんの結婚式じゃ、『〝花嫁の父〟か!』ってツッコみたくなるくらいに号泣(ごうきゅう)してたし」

「んな――っ!?……サ、サギてめえ! 裏切りやがったなコラァッ!?」


 東雲は顔を真っ赤にして(すご)んでみせたが、龍生の手前、手を出すわけには行かず、グッと(こぶし)を握ったまま(こら)えている。


「東雲がシスコンだったから、誘拐事件は起こったとも言えるんじゃないか? 俺は兄弟がいないからよくわからないが、いくら妹を人質にされ、脅されたからと言って、素直に誘拐事件を起こすなど、普通の感覚では信じられんからな。せめて、事前に警察に知らせるとかするだろう? 素直に従えば、人質を解放してくれるという保証など、どこにもなかったんだしな。何せ、相手は五十嵐のバカ息子だ。追い詰められたら、何をするかわからん」


「いやっ、でもですよ!? 『警察に知らせたら、妹はどうなるかわからんぞ』って言われたら、坊ちゃんだって従うでしょう!?」

「さあ、それはどうだろうな。知らせても知らせなくても、無事に帰してもらえるかどうかわからんのなら、一か八か、警察に知らせた方が上手く事が運ぶ可能性も――」

「保科様を人質に取られてもですか!? 今みたいに冷静でいられますか、坊ちゃん!?」


 とたん、ピクリと龍生の肩が揺れた。

 しばらくの沈黙の後、顔を上げると、


「……何を言っているんだ、東雲? 咲耶を人質にした相手に、警察など無用の長物。邪魔でしかない。……フ。どんな手を使ってでも咲耶は助け出すさ、決まってるだろう?……その後、犯人には重い懲罰(ちょうばつ)を下すことにしよう。……そうだな。いつか咲耶が言っていたように、無人島のどこか深くに穴を掘り、生きたままそいつを放り込んで、完全にこの世から抹殺(まっさつ)する……というのも悪くないな。……そうだ。そうしよう。……フッ。……フフフフフフフフ……」



 ……完全に目がイッてしまっている。



 いつもと様子の違う龍生を前に、その場の者達の背筋は一気に凍りついた。

 咲耶を溺愛している龍生なら、やりかねない気がしたのだ。



 ……龍生だけは、一生敵に回さないように気を付けなければ。


 龍生以外の者達は、そっと目配(めくば)せし合い、同時に深くうなずいた。

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