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主人公降格!? ~協力者のはずの幼馴染に主役の座を奪われました~  作者: 金谷羽菜
第12章

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第5話 東雲と鵲、再度の覗き見で主の怒りを買う

 大きな体を丸め、しゃがみ込んでいた鵲と東雲は、バラの植込み越しで仁王立ちしている龍生を見上げ、心底恐れおののいた。


 隠し撮りをしていて怒りを買ったのは、つい最近のことだ。

 それなのに、龍生がファーストキス(実際は、ファーストキスではないのだが)をしようとしていたところを、こっそり覗いていたことが、またしてもバレてしまうとは。



 今度こそ、ただでは済まない。

 簡単に見逃してくれるはずがない。



 0コンマ数秒でそれを理解した二人は、植込みの間から龍生の前まで、素早く移動したと同時に土下座した。


「申ーーーっし訳ございません、坊ちゃんっ!!――けど、悪気はなかったんですっ!!」

「お二人があまりに良い雰囲気だったもので、出て行くのがためらわれましてっ! お邪魔してはいけないと思いっ、植込みの陰に控えておりましたぁーーーーーッ!!」


 言い訳しつつ深く頭を下げる二人に、龍生の苛立(いらだ)ちは更に強まる。



 ――この()(およ)んで、まだ『お邪魔してはいけないと~』などと白々(しらじら)しい。


 二人が〝龍生のファーストキス見届ける〟ために隠れていたことは、彼らの会話から丸わかりだ。素直に謝るだけにしておけばいいものを……。

 言い訳を(まじ)えの謝罪とは、まったく、(いさぎよ)くない。



「……気に入らない」


 思わず口にしていた。


「……え?」

「ぼ……坊……?」


 恐る恐る顔を上げると、龍生は仁王立ちで腕を組み、二人を冷たく見下ろしていた。


「おまえ達がしようとしていたことは、全てこちらに筒抜(つつぬ)けだと言うのに、『お邪魔してはいけないと思い』……だと? よくもそんなことが言えたものだな。覗き見する気満々だっただろうが」


「い、いえっ、それは――っ」

「確かに覗いてしまいましたが、最初からそうしようと思っていたわけではなくっ!」


「お二人に気付かれないようにこの場を離れるのは、不可能かと思いましてっ!」

「それで仕方なく、植込みでじっとしていようということになった次第ですっ」


 交互に訴えかけて来る鵲と東雲に、龍生は呆れ返ってため息をついた。

 初めはどうだったにせよ、結果的に〝覗いていた〟という事実は変わらないではないか。


 その点について言及(げんきゅう)しようと、龍生が口を開き掛けた瞬間、


「どういうことだ……?」


 背後から咲耶の声がして、反射的に振り返る。

 彼女は厳しい表情で、鵲と東雲をじっと見つめていた。


 あれだけの大声で話していれば当然だが、やはり聞こえてしまったかと、龍生の気持ちは暗く沈んだ。


 出来ることなら、()()()()()()()()は、ずっと伏せておきたかった。

 しかし、こうなってしまっては、隠し通すことは不可能だろう。龍生は覚悟を決めて咲耶に向き直った。


「すまない。このことを話すと、かえってややこしいことになると思って、言えなかったんだが……。この(おろ)か者どもが、あれだけ大声で話してしまったんだ。隠し立てしても無駄だな。……咲耶、既にわかっているんだろう? あの時の()()()()()()が、この二人だということを?」


「……え?」

「ぼ、坊……?」


 鵲も東雲も、真っ蒼になって龍生を(あお)ぎ見た。


「『誘拐の』……って、坊ちゃん。まさか、あの話を保科様に?」

「ど……どうして……」


 龍生はギロリと二人を睨み付け、


「『どうして』だと? おまえ達、本当に覚えていないのか? 咲耶はあの事件の被害者だ。あの時、俺と間違えて誘拐した子が、ここにいる咲耶なんだ」


「えッ!?」

「あの時の男の子が!?」


「――って、誰が男だぁッ!?」


 すかさず咲耶がツッコむ。



 幼い頃の咲耶の髪は短く、Tシャツにショートパンツが基本スタイルだったのだ。勘違いされても、まあ、無理がないと言えば言えるのだが。



「嘘だろ……。あの時の泣き虫なガキが、保科様だって?」

「女の子だったなんて……。全っ……然、気付かなかった」


 呆然とつぶやく二人を前に、咲耶は悔しげに歯噛みする。

 文句を言ってやりたいが、この二人のことをよく知らないことに、今更ながら思い至ったのだろう。何か言いたげな瞳で龍生を見据える。


「おい秋月ッ! 何なんだこの…っ、失礼な男共はッ!?」


 悔しさのためか、恥ずかしさのためか(たぶん、どちらもだろうが)、咲耶の顔は真っ赤に染まっている。目にはうっすらと涙まで浮かべ……。

 こんな時にもかかわらず、龍生は『可愛い』と心でつぶやき、熱心に見入ってしまった。


「おいっ、聞こえないのか!? 答えろ秋月っ! 何をボーっとしているんだッ!?」


 咲耶に腕を掴まれ、揺さぶられ、龍生はハッと目を見張る。


「あ……ああ、すまない。つい、考え事を……」


 まさか、『あまりに君が可愛くて、見惚れてしまっていた』などとは言えず、龍生は適当なことを言ってごまかした。



 これが普段であれば、ストレートに伝え、照れまくる咲耶の反応を、充分に堪能(たんのう)させてもらっているところなのだが。

 今は鵲と東雲もいる。いくら龍生でも、さすがにそれは出来なかった。



「さっき話しただろう? 主犯に(おど)され、泣く泣く誘拐に手を貸した、高校生二人の話を――。その時の高校生が、鵲と東雲だ」


「違うッ、そーじゃなくてっ! どーしてその二人が、この家に(やと)われてるのかって訊いてるんだッ!! 無理矢理やらされたことなら、罪を見逃すまでは理解出来るが……。誘拐された者の家に、誘拐犯が雇われているだと!? そんな滅茶苦茶な話、今まで聞いたこともないぞッ!?」



 ……またしても、至極もっともなことを言われてしまった。



 誘拐された時の記憶が、完全に残っている状態であったなら、彼女も少しは、理解を示してくれていたかもしれないのだが。

 残念ながら、龍生が怪我をした辺りのことしか、思い出せてはいないのだから……そうするに至った龍之助と龍生の心情、その全てを理解してもらうのは難しいのだろう。



 ……だが、たとえそうであっても。

 咲耶にだけはわかってほしいと、龍生は強く願っていた。


 何故なら、咲耶は龍生と一生を共にする相手――伴侶(はんりょ)になり得る人なのだから。



「わかった。二人のことを知られてしまった以上、君にもわかってもらえるよう、努力しなければな。――事情を全て説明するよ。リビングに戻ろう」


 龍生は咲耶にそう告げた後、鵲と東雲に視線を投げた。


「おまえ達も来い。俺の記憶だけで話そうとすると、曖昧(あいまい)なところが出て来てしまうだろうからな。誤解されることのないよう、話すべきところは、己の口からきちんと話せ」


「はっ、はいッ!!」

「承知しました、坊ちゃん!」


 二人に向かってうなずくと、龍生は咲耶の肩をそっと抱き寄せた。

 驚いて上を向く彼女に、


「さあ、行こう」


 ささやくように告げた後、彼はふわりと微笑んだ。

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