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第7話 咲耶、龍生とのことを桃花に告げるか苦悩する

 翌週の月曜日。

 咲耶は駅に向かって歩きながら、龍生とのことを桃花伝えるか、伝えるとすれば、どう伝えればいいのかと頭を悩ませていた。


 桃花が好きだのなんだのと、散々大騒ぎしたのは、つい先週のことだ。

 それなのに、もう『秋月と付き合うことになった』などと伝えたら、思いきり呆れられてしまうのではないか。


 恋ではなかったにせよ、桃花が大好きだということに、何ら変わりはないのだ。

 大切な幼馴染に、呆れられてしまうのは嫌だった。


 その上、龍生とのことを()()()()()()()()、という問題もある。


 二人は幼い頃に出会っていて、共に誘拐に遭い、その時、龍生が咲耶を庇って大怪我をして……ということまで、はたして伝えるべきだろうか?



 桃花に隠し事はしたくない。

 ――とすると、やはり全部を伝えた方が……?



 今日は朝起きた時から、ひたすらそんなことを考えていた。

 学校へ向かう道すがらも、ずっと悩んでいたのだが。


 ふと気づくと、駅まであと数十メートルほどのところまで来ていて、咲耶は思わず足を止めた。



(うぅむ……。どうしよう? 伝えるにしても、全部となると、かなり時間が掛かりそうだし……。仕方ない。とりあえず、『秋月と付き合うことになった』ことだけ伝えて、残りは追い追いということにするか)



 咲耶は決意したようにうなずくと、桃花との待ち合わせ場所へ急いだ。




 駅前の待ち合わせ場所には、既に桃花がいて、咲耶を見つけると、『おはよう』と笑って手を振った。


 いつもと何ら変わらない、朝の風景。

 ただひとつ違うのは、咲耶が〝龍生の彼女〟になったということだけ――。



(かっ……〝彼女〟……)



 改めて考えてみたら、照れ臭くなって来てしまった。

 桃花に『おはよう』と返す前に、咲耶の体は一瞬にして熱くなり、妙な汗が滲み出て来た。


「はわ…っ? ど、どーしたの咲耶ちゃん、顔が真っ赤だよ? 熱でもあるの?」


 会った早々、桃花に心配されてしまい、咲耶は慌てて頭を振った。


「ちっ、違うんだ桃花! これはその――っ、ね、熱とかではなくっ……だな。……ええと~……」


 そう言っている間にも、全身はじわじわと熱を帯びて来る。

 咲耶は桃花の視線から逃れるように、両手で鞄を持ち、顔の前にかざした。


「咲耶……ちゃん?」


 いきなり顔を隠され、桃花は戸惑い、首をかしげた。


 だが、ここで問い質している暇などない。そろそろ電車が来てしまう時刻だ。

 とにかく、ホームに移動しなくては。


 桃花は慌てて咲耶の手を取ると、『乗り遅れたら大変だよ? 行こう!』と告げ、駅の階段を駆け上った。




「ええっ!? 咲耶ちゃん、秋月くんと付き合うことになったの!?」


 満員電車の中、桃花の声が響き渡る。

 咲耶は慌てて『桃花、声っ』と小声で制し、友の口を片手でふさいだ。

 桃花はハッと目を見張ってから、視線を周囲に走らせ、気まずそうにうつむく。そして咲耶がそっと手をどけると、蚊の鳴くような声で謝った。


 同じ車両には、サラリーマンやOL風の人達が目立つ。

 それでもちらほらとは、高校の制服を着た生徒達も見受けられた。


 龍生も咲耶も、高校では有名人なのだ。付き合い出したことが、たった一人にでも知られようものなら、瞬く間に学校中に広まってしまうだろう。

 己の軽率さを反省しつつ、


「でも、秘密のお付き合いってわけではないんでしょう? 二人は目立つから、秘密にしてもすぐバレちゃうだろうし……。だから、小声で話す必要はないんじゃないかなぁ?」


 桃花がヒソヒソ声で意見を述べると、咲耶はポッと顔を赤らめた。


「そ、それは……そうなんだが……。私はまだ、付き合うということが、よくわかっていないし……。考えただけで、すごく恥ずかしくなって来てしまうから、その……出来れば、〝付き合う〟ということに慣れるまでは、あまり人には知られたくない……と言うか……」


 モゴモゴとしおらしいことを口にする咲耶は、とても珍しく、桃花の顔は自然とほころぶ。

 やはり恋をすると、凛々しい咲耶でも、こんなに可愛らしくなってしまうのだなと、嬉しいような、くすぐったいような気持ちになった。


「よかったね、咲耶ちゃん。秋月くん、咲耶ちゃんのこと、ずっとずっと好きだったみたいだし……。きっと、すごく大切にしてくれるよ」


 桃花の心からの祝福に、咲耶の胸はジンと熱くなった。


 先週、好きだのなんだのと大騒ぎして、桃花を困惑させてしまったというのに。

 こんなにも温かい笑顔で、言葉で、恋の成就(じょうじゅ)を喜んでくれるとは。


「ありがとう、桃花!……秋月は、よくわからないところがあったりする奴だが……。桃花が言ってくれたように、私のことを、ずっと好きでいてくれた。少なくともそれだけは、信じられると思うんだ。だから、あの……私も、秋月の彼女として、周りに認めてもらえるようになりたい。……今は、そう思っている」


 鞄を両腕で抱き締め、うつむきがちになりながら、真っ赤になって告げる咲耶が、いじらしくも愛らしい。


「うん! 頑張ってね、咲耶ちゃん。わたし、二人のこと応援する!……あと、何か手伝えるようなことがあったら、いつでも遠慮なく言ってね? わたしに出来ることなんて、ほとんどないのかもしれないけど……。咲耶ちゃんの為なら、わたし、どんなことでも頑張るから!」


 桃花はニッコリと笑い掛け、まっすぐな想いを伝えた後、鞄を抱き締めている咲耶の手に、そっと自分の両手を重ねた。

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