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主人公降格!? ~協力者のはずの幼馴染に主役の座を奪われました~  作者: 金谷羽菜
第10章

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第6話 咲耶、変わらぬ態度の桃花に救われる

 翌日。

 駅のいつもの待ち合わせ場所に、桃花はいた。

 それがわかった瞬間、咲耶は心から安堵し、ようやく緊張から解放された。


 何せ、昨日の今日だ。

 気まずくて、桃花に避けられてしまうのではないかと、駅に着くまで、ずっと不安だったのだ。


 だが、桃花は全てを知って尚、少しも変わることなく、待ち合わせ場所にいてくれた。

 それだけではない。咲耶が着いたと知るや、ふわりと花が咲いたかのような笑みをこぼし、手まで振ってくれたのだ。


 咲耶の心は、一瞬にして晴れ渡った。

 しみじみと喜びを噛み締めながら、手を振り返しつつ、桃花の元まで走る。


「おはよう、咲耶ちゃん」


 いつも通りの桃花だ。


「おはよう、桃花!」


 咲耶は満面の笑みを浮かべ、弾む声で挨拶を返す。


 それだけで元通りだった。

 他に、何の言葉も必要なかった。


 二人は微笑み合った後、いつものように電車に乗り、学校へと向かった。




 学校に着くと、咲耶の姿を認めた生徒達の間に、ざわめきが走った。


 こうなることは、昨日から覚悟していた。

 覚悟はしていたが……やはり、気持ちのいいものではない。咲耶は苦虫を噛み潰したような顔で、軽くため息をついた。


「咲耶ちゃん。あの……大丈夫?」


 心配そうに、桃花が咲耶を仰ぎ見る。

 彼女はニッと笑ってみせると、


「ぜーんぜん平気だ! 周りにどう思われようが、桃花さえわかっていてくれるなら、何の問題もない」

「咲耶ちゃん……」

「だが、私といるせいで、桃花にまで迷惑を掛けてしまったらと思うと……。それだけが心配だな」


 咲耶が顔を曇らせると、桃花は小首をかしげ、にこりと笑う。


「ダイジョーブ、そんな心配しないで? わたしが、咲耶ちゃんと一緒にいたいだけなんだから。それに……咲耶ちゃんには、小さな頃から助けてもらってばかりだったもの。こういう時こそ、力になれたら……って思ってるんだよ? わたしじゃ、何の役にも立てないかもしれないけど……。でもっ、ほんの少しでも、咲耶ちゃんの支えになれるように頑張るから!」


 懸命に、自分の気持ちを伝えてくれる桃花に、咲耶の胸はジンと熱くなった。


 あれだけ目立つ行動を取ってしまったのだ。他の生徒達からは、好奇な目で見られるだろう。陰口なども叩かれてしまうに違いない。


 それでも、桃花が側にいて、笑っていてくれるなら。

 この先何があろうと、きっと耐えられる。心からそう思えた。


「ありがとう、桃花」


 咲耶は感謝の意を込め、親友の両手をギュッと握った。



 昇降口前の階段を上り、二人がそれぞれの教室に向かうため、廊下を左右に分かれようとした時だった。再び周囲にざわめきが走り、二人は足を止めた。


 何事かと思って振り向くと、たった今上って来たばかりの階段を、龍生が上って来るのが目に映った。

 瞬間、咲耶の心臓はドックンと跳ね上がる。



(う――っ!……どっ、どどどどーしようッ!? 昨日のことが、一気に頭に浮かんで来てしまった!)



 脳内で、龍生のクラスでの出来事や、屋上での出来事、病院での出来事、母に言われた言葉などが、ぐるぐると回り出す。

 心拍数も急上昇。体も顔も熱くなって来た。


 龍生は階段を上り切ると、二人に気付いたらしい。足を止め、何やら考え込むように視線を落とし、片手を顎に当てる。


 だが、それもごく僅かな間だった。

 再び歩き始め、二人の前まで来ると、まずは桃花に視線を移し、『おはよう、伊吹さん』と笑い掛ける。

 桃花も『おはようございます』と返し、次は咲耶の番だ。告白後の彼は、どんな風に接するのだろうと、ドキドキしながら見守った。


「おはよう、保科さん」


 挨拶はしたものの、その後の龍生の態度は、驚くほど素っ気ないものだった。咲耶と目も合わせず、返事すら待たずに、足早に二人の前を通り過ぎて行ったのだ。

 甘い展開になることを予想していた桃花は、思わず『えっ?』と目を見開く。


「あ……あのっ――、秋月くん?」


 慌てて龍生の背に呼び掛けるが、彼は振り向くことなく黙々と歩き続け、一番端にある一組の教室に消えた。


 桃花はポカンとし、しばしの間固まっていた。

 それから我に返り、恐る恐る、咲耶の様子を窺うと……。


 やはり、ショックだったのだろう。とっくに龍生の姿などない廊下の先を、瞬きもせず、やや蒼ざめた顔で、じっと見つめている。


「咲耶ちゃん……」


 桃花の声にハッとして振り返ると、咲耶は取り(つくろ)うような笑みを浮かべた。


「あ……。なっ、何なんだろうな、あの態度? 挨拶するのに目も合わせないとは、失礼な奴だ。ホント、バカにしてるよな?」


 ハハハと力なく笑ってみせるが、顔は引きつっていて、声にも覇気がない。動揺しているのは明らかだった。


 咲耶は昨日、喫茶店で、『秋月から、好きだと告白されてしまった』と言っていた。

 ――あれが冗談であるはずがない。咲耶は、その類の話について、軽口を叩くようなタイプではないのだ。


 ならば、先ほどの龍生の素っ気なさは、いったい、どういうことなのだろう?


 ……照れているのか?

 昨日の今日で、恥ずかしくて……つい、素っ気ない態度を取ってしまった?


 ……いや。

 彼は、そういうタイプではないような気がする。


 今まで恋愛事には無縁だった、咲耶の方ならまだわかるが……あの龍生が、告白程度のことでうろたえるとは、どうしても思えなかった。(お試しとは言え、桃花に『付き合ってくれないか』と言って来た時も、照れた様子など、微塵(みじん)も感じられなかったではないか)


 ――だとすると、何故?

 どうして龍生は、告白してすぐの相手に対し、冷たいとも取れるような態度を……?


 龍生の意図がつかめず、桃花はその場で考え込んでしまった。

 だが、咲耶が『もしかして、朝が苦手なのかもな。まだ、頭がボーっとしてたんじゃないか?』などと言って笑うので、桃花も疑問には触れず、曖昧(あいまい)な笑みを浮かべ、『うん。そうかもしれないね』と返すのみに止めた。


 見るからに〝(から)元気〟といった咲耶は、『じゃあ、昼休みにな!』と早口で告げ、バタバタと廊下を駆け出して行く。


 周囲からは、


『ねえ、さっきの見た?』

『秋月くんと保科さん、昨日の朝、教室で抱き合った後、二人でどっかに消えちゃったんでしょ? てっきり、そのまま付き合い出したのかと思ってたのに……』


『うん。その割に、すごくあっさり通り過ぎたよね? ケンカでもしたのかな?』

『ん……。でもさ、もしかして、〝抱き合ってた〟ってのも、何かの間違いだったんじゃない?』


『そーかなぁ?……うん、そーかも! 噂なんて、結構いー加減だもんね!』

『だったらいいのにな~。秋月くんと保科さん……なんて、美男美女過ぎて、嫌味にしか思えないもん』


 ヒソヒソとささやき合う、女生徒達の声が聞こえて来て、桃花の胸はズキリと痛んだ。


 ただでさえ、美人で頭も良くてスポーツ万能という、他人に(ねた)まれやすい条件を兼ね備えている咲耶なのだ。

 その上、学校一のモテ男と言っても過言ではない龍生と、付き合い出したということになれば、彼女への風当たりは、今まで以上に強くなるに違いない。



(だからこそ秋月くんには、いつでも咲耶ちゃんを守ってあげられるように、周囲にしっかり目を配っていて欲しいのに。なのに……自分から告白しておいて、どーしてあんな態度を取るの?)



 何か釈然(しゃくぜん)としないものを感じながら、桃花はトボトボと教室に向かった。

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