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主人公降格!? ~協力者のはずの幼馴染に主役の座を奪われました~  作者: 金谷羽菜
第10章

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第2話 時子、混乱しつつも質問を開始する

 時子は咲耶のベッドに腰を下ろすと、まだ布団を頭から被っている咲耶に、隣に座るよう促した。

 咲耶はそろそろと布団を元に戻し、時子の隣に移動して、言われるままに腰を下ろす。


 咲耶の顔を見て、泣いた後だと覚った時子は、そこまで真剣だったのかと、顔を曇らせた。

 しかし、すぐに気持ちを切り替え、


「じゃあ、気持ちを整理するために、これから咲耶に、ひとつずつ質問して行くわね? お母さん、全て受け止めるつもりだから、遠慮しないで、正直に答えてね? いい?」


 訊ねると、咲耶はコクリとうなずいた。


「そうね……それじゃあ、まずはこの質問から。――どうして咲耶は、友達としてじゃなく、恋愛対象として、桃花ちゃんのことが好きだと気付いたの?」

「……それは、桃花にも訊かれた」


「あら、そうなの?……それで? 咲耶はなんて答えたの?」

「嫉妬だって。……桃花が他の子と楽しそうに話してたり、他の子と、どこかへ遊びに行ったって聞くと、ムカムカしたり、イライラしたりするから、って……」


「そう。……でもそういうことって、友達同士でもあるわよね? 友達が他の子と仲良くしてたりしたら、モヤモヤしちゃう感じ?」

「……それも、桃花に言われた」


「まあ、そう。……桃花ちゃん、すごく冷静なのね。普通は、友達に告白されたら、かなり動揺しちゃうと思うんだけど……」

「桃花も、最初は固まってた。すごく、ビックリしたみたいだった」


 まあ、それは仕方ないと言うか、当然のことだろう。

 幼い頃から、ずっと仲良くしてきた親友に、ある日突然、愛の告白をされるなど、滅多にあることではない。


「それで? 桃花ちゃんに、友達同士でも、そういうことはあるって言われた時、咲耶はどう感じた?」

「……そう……なのかなって。私の、桃花への想いは……恋、とかじゃなくて、ただの友情……なのか、って……」


「納得出来たの?」

「……わからない。ああ、そうなのかも……って、一瞬思ったのは確かだけど、でも……なんだか、完全に受け入れることも出来なくて……」

「そう……」



(何せ、つい最近まで、冒険だー、探検だー、木登りだー……って、そこら中走り回ってた子だものねぇ。恋だの愛だの、考えたこともなかったんでしょうし……。それにしても、友達間にも存在する〝嫉妬〟を感じたからって、恋だと思い込んでしまうっていうのは、さすがに困りものね。どう説明すれば、納得してくれるかしら……?)



 時子は母親の勘で、咲耶の桃花に対する想いは、恋とは少し違うだろうと、即座に見抜いていた。

 だが、娘が相当に頑固だということも、充分承知している。

 どんなに言葉を尽くして説明しようが、なかなか受け入れてはくれないだろうことも、容易に察せられた。


 どうすれば、娘を納得させられるだろう?

 時子は、頭痛がするほど考え続けた。


 そして、ようやくひとつの説得材料を思いつき、晴れやかな顔で、両手を胸の前で打ち鳴らす。


「そーだわ、キスよ!――ねえ、咲耶。あなた、桃花ちゃんと『キスしたい』って、思ったことある?」

「き――っ、……ききききっ、キスぅううッ!?」


 咲耶は両手をベッドの上につき、飛び退(すさ)るようにして、時子から頭一つ分ほど離れた。


「な……な、ななっ、何を突然っ!?……そそそっ、そ――っ、そんなこと、思うわけないだろうッ!? 急に妙なこと言い出さないでくれっ!!」


 真っ赤になって否定する咲耶に、時子は『あら』と首をかしげる。


「本当? 思ったことないの?……少しも? ただの一度も? ポワ~ンって、想像してみたことすらないの?」

「クドイぞ母様ッ!? ないったら、ないッ!!」

「……あら、そう。……ふぅ~ん……」


 これで時子は確信した。

 やはり、咲耶の桃花への想いは、恋とは違うと。


「そっかー。そーなんだぁ~……。じゃあ、秋月くんとは?」

「――は…っ、はあぁッ!?」


 いきなり龍生の名前を出され、咲耶は更に真っ赤になった。


「秋月くんとのキスは、想像してみたことある? キスしたいなーって、思ったことは?」

「なっ、何――っ、何を……っ!?」


 時子の質問により、咲耶は一気に思い出した。

 想像も何も、(すで)()()()()()()()()ということを。


 しかも、今日。つい、数時間ほど前に。

 それも、自分の方から……。


「きっ、きききキスって――っ!……な、なななな何故っ、私がっ、あっ、秋月とキ――キスっ、など、しなければいけないんだッ!?」


 とっくにしてしまっていることを、思い出しはしたものの――。

 決して覚られてはいけないと、咲耶は内心焦りまくった。

 時子に知られたら最後。ウンザリするほど、からかわれるに決まっているからだ。


「しろって言ってるわけじゃないけど……。あっ! でも、その手もあるわね。咲耶、秋月くんにキスしてみなさいよ」

「はっ――はあああッ!?」


 また突然、何を言い出すのだ、このお気楽な母親は?


 咲耶は半ば呆れ、眉間にしわを寄せつつ、時子を見返した。

 それでも時子は平然として、話を続ける。


「キスってね、女性にとっては、特別なものなのよ。好きって気持ちがないと、なかなか出来ないものなの。……まあ、たまに例外はある――って言うか、いるけどね。〝キス魔〟なんて呼ばれる人達は、酔ったりなんかすると、誰彼構わずキスしまくっちゃうらしいけど。……でもね。そんな人は、一握りもいないんじゃないかしら。だからね? たぶん、秋月くんにキス――……あ、キスって言っても、軽い、頬とか手の甲とかへのキスじゃないわよ? 唇へのキスよ?……まあ、とにかくキスしてみて、嫌な気持ちにならなかったら……それは、好意があるって証拠。少なくとも、恋に近い感情は抱いてる――って可能性が高いわ」


「い……嫌な気持ちにならなかったら……好意が、ある?……恋に近い、感情……」


 自分はあの時、どうだったろうかと考えてみる。

 龍生にキスしたのは、果たして、どんな気持ちからだったろう?



(あの時は、桃花のところに行くんだって、その気持ちだけで……。べつに、秋月のことなんて、考えたりはしていなかったはずだ。……でも、あいつから逃れるために、また噛み付いてしまったから……すまないって思って、それで……)



 ……そうだ。

 申し訳ないと思ったから。傷付けてしまって悪い、すまない――という意味で、自分はあのキスをした。



(そう。お詫びの意味でのキス……だ。べつに、特別な感情があったからじゃ――……)



 ……しかし、『申し訳ない』という気持ちだけで、普通、キスなどするだろうか?

 悪いと思ったなら、謝るだけでいいではないか。何故キスなどする?



(う――。……あーーーッ、わからんっ! どーして私は、あの時キスなどしてしまったんだ!? 秋月のことが好きなわけでもないのにっ!……好きな……わけでも……)



 ……そう言えば、自分はあの時、どうして桃花の元に行かなければと思ったのだったか?


 確か、あの時は……。


 ――そうだ。

 病室で、結太から桃花の名前が出て……。


 結太が龍生に訊ねたのだ。桃花に、『付き合うことになるかも』ということは、もう話したのかと。


 そこで初めて、咲耶は気付いた。

 自分も桃花に、龍生から告白されたことを、一切話していなかったことに。


 それが咲耶には、ものすごくショックだった。

 今までは、何かあれば、必ず桃花に話していたのに。

 どうして今まで、それを忘れてしまっていたのかと。



(私は……ここ数日、秋月のことで、いっぱいいっぱいになっていた。あいつのことばかり考えていて……。だから、桃花に相談することすら、忘れてしまって……いて……)



 何故、龍生のことばかり、考えてしまっていたのだろう?


 ……告白されたからか?

 龍生が、幼い頃共に遊び、自分を庇って怪我をした、〝ユウくん〟だとわかったからか?(まあ、〝ユウくん〟ではないと、本人には否定されてしまったのだが)



(確かに、〝ユウくん〟は好きだ。好きだっ……た、記憶はある。でも、今の秋月を好きかと訊かれたら……)



『いいや、離さない』


『そうだ。君は咲耶。保科咲耶――』

『俺が惹かれてやまない、ただ一人の女性だ』


『バカでもいいよ。俺は本気だ。君が教えてくれないなら、今ここで、君にキスする。……覚悟はいい?』


『……離したくない』


『君が好きだから』

『君が好きだからだよ、保科咲耶さん。……ずっと、ずっと君のことが好きだった。君だけが好きだった。君と同じ高校になる前から、ずっと……ずっと変わらずに、君だけを』



「――っ!」


 今まで龍生に言われて来た告白や、告白らしき台詞が、脳内をぐるぐると回り出した。

 それだけで、咲耶の体は熱くなり、妙な汗が滲んで来る。



(ば――っ、バカッ、落ち着け! あんな台詞が何だって言うんだ!……あれだけの財力と、認めたくないが顔の良さと、頭の良さと、スタイルの良さが揃いまくってる奴なんだぞ? 今まで、付き合った子が一人もいないなんてこと、あるわけがない。きっと、他の子にだって言ったことある台詞なんだ。……そうだ。そうに決まっている!)



 咲耶はふるふると首を振り、頭から龍生の記憶を追い出そうとした。


 だが、忘れようとすればするほど、あの、少し低めの甘い声が。言われた台詞が。優しい眼差しや、切なげな表情が。他の場では見たことがないような、自然で穏やかな笑顔などが、次々に浮かんで来て、咲耶を惑わすのだ。



 時子は、先ほどから何やら考え込み、目の前で百面相を繰り広げている娘の様子を、温かな瞳で見守っていたが――。

 やがて、ゆっくりと立ち上がると、


「まあ、とにかく。今日はそうやって、いろいろ悩んで、自分の気持ちを見つめ直してみなさい。……べつに、急がなくてもいいのよ? そうやって、意識して考えるようにしていたら、いつかきっと、答えが見つかるはずだから。その日を信じて、今はゆっくり考えなさい。……ね、咲耶?」


 そう言い置いて、にこりと微笑み掛けてから、静かに部屋を出て行った。

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