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主人公降格!? ~協力者のはずの幼馴染に主役の座を奪われました~  作者: 金谷羽菜
第9章

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第10話 龍生、病室に戻って頭を抱える

 病室に戻って来た龍生は、何故かほんのりと頬を染め、結太が見たこともないような、何とも表現しがたい顔つきをしていた。


「龍生? 顔が(あけ)ぇーけど、どーかしたのか?」


 首をかしげて訊ねると、龍生は再び折り畳み式の椅子に腰を下ろし、『いや。べつに、どうもしないが』などと言い、更に顔を赤らめたかと思うと、口元を片手で覆った。


 どう見ても、『どうもしない』顔ではない。

 確実に、咲耶と何かあったんだなと、結太はすぐに察した。


 だが、龍生が素直に口を割るとは思えなかったので、ものすごく気になりはしたが、グッと我慢し、知らんぷりすることにした。



 一方龍生は、未だ混乱の中にいた。



 咲耶のキスは、どういう意味だったのだろう?

 やはり、自分から逃れるための、ただの作戦だったのか?


 しかし、あの咲耶が、ただ逃げるためだけに、キスなどして来るだろうか?

 告白の返事も、まだもらっていないのに、だ。

 自分のことを、本当に好きなのかどうかもわからない状態で、彼女がキスして来るとは思えない。


 それに、咲耶はキスした後、『すまん』と謝っていた。

 あの謝罪は、何に対してなのだろう?


 自分に、断りもなくキスしてしまったことにか?

 それとも、ただ逃げたいがために、心のないキスをしてしまったから……なのか?


 ……わからない。

 あのキスが、いったい、どういう意味を持つものだったのか。


 告白の返事が、あのキスだと言うのなら、こんなに幸せなことはないのだが……。



 龍生は深いため息をつくと、両膝に肘をつき、頭を抱えた。

 そんな龍生を見るのは初めてだったので、結太はギョッとして目を見張る。



(ど、どーしちまったんだ、龍生のヤツ? 人前で頭抱えるとか、ぜってーしねーヤツなのに。……ま、何かあったに決まってっけどな。それはわかってんだけど……訊ーたって、どーせ教えちゃくんねーだろーし……)



 幼い頃からの付き合いと言っても、龍生のことなら何でも知っている――という訳でもない。


 特に龍生は、他人に弱みを見せるのが、大嫌いなタイプだ。

 どんなに深刻な悩みがあったとしても、気軽に相談などはしてくれない。


 それが、時に寂しく感じられることもあったが……。


 どうあがいても、龍生だけでは解決出来そうにない悩みが、もしも、この先出来たとしたら。

 その時こそ、きっと頼って来てくれるはずだと、結太は信じていた。



「なあ、龍生。今日はもう、ここまでにしておかねーか? おまえ、疲れてるみてーだしさ。保科さんに何かあったんなら、そっちに行ってやった方がいーんじゃねー? こっちの話は……えーっと、ほらっ。べつに、いつでも出来るんだしさっ」


 アハハと笑って言ってみたが、龍生は、抱えていた頭をおもむろに上げ、結太をじーっと見つめると。


「……いや。話は聞かせてもらう。そうでなければ、今日、ここに来た意味がないからな」



(え……意味って。〝見舞い〟ってのが、ここに来た意味じゃ……ダメ、なのか?)



 龍生の返答に、少し複雑な気持ちになった。


 それでも、入院した日から、毎日様子を見に来てくれていることに、変わりはないのだ。

 やはり、感謝するべきなのだろう。



「――で? 結局、どうして咲耶は、おまえに〝歯形〟など付けて来たんだ? 咲耶は、『朝起きたら』、おまえの『首が目の前にあって、歯形がクッキリ残ってて』……と言っていた。つまり、就寝中の出来事だったんだろう?」

「えっ?……あ、あぁ、まあ……な。……けど、なーんだ。保科さんから、眠ってる時のことだってのは、聞ーてたのか」

「ああ。それだけはな」

「そっか……」


 ならば、話は早い。

 さっさと、噛み付かれた時のことだけ、話してしまおう。


「え~っと、だからさ。どーしてオレが、保科さんに噛み付かれたかってーと……あれだよ。オレを、〝豚の丸焼き〟だと、思い込んだからだよ」

「…………は?」


 龍生は(いぶか)しげに眉根を寄せた。

 いきなり結論から言っても、通じはしないかと、焦って付け加える。


「あ、いやっ、だから、寝惚(ねぼ)けてたんだよ。保科さん、食いもんの夢を見てたみてーでさ。寝言で『豚の丸焼き~』とか言いながら、ガジガジって、オレの首元に噛み付いて来たんだ」

「……寝言?……豚の……丸焼き……?」


 龍生は口を半開きにして、結太が伝えたことの一部分を繰り返した。

 咲耶の寝言は、正確に言えば『豚肉の丸焼き』だったのだが、まあ、そんな細かいことは、この際どうでもいいだろう。


 結太はうんうんとうなずきながら、


「そーなんだよ! ひっでーだろー? 〝豚の丸焼き〟だぜ? 食いもんだぜ? オレ、食いもんと間違われて、思いっきり噛み付かれたんだよ! 最初の一噛(ひとか)みがすっげー痛くてさぁ!」

「……食いもん……」


「そーだよ食いもんだよ! しかも〝豚の丸焼き〟って! 保科さん、普段から大食いだけど、夢でもどんだけ食ってんだよ?――って話だよなぁ!?」

「……夢でも……大食い……」


 つぶやいたとたん、龍生はプッと吹き出した。

 それを見て、もう大丈夫だと思った結太は、更に続ける。


「そーそー! そんでな? 不気味に笑いながら、ガジガジガジガジ、いつまでも噛み付いてんだよ。首はヨダレまみれになるし、(のど)噛みちぎられそーで怖いしで、生きた心地(ここち)しねーでさぁ……。おまけに、少しずつ離れようとしてたら、『ああっ! 食いもんが逃げる!』とでも思ったのか何なのか知んねーけど、オレの背後から、体にまたがって来るし……。保科さん、体は(ほせ)ぇーけど、結構背ぇ(たけ)ぇーだろ? スリムな見た目の割に、重みはそこそこあってさ。体が重し状態になって、オレ、逃げる間もなく、うつ伏せにされちまったんだよな。んで、保科さんにずーーーっと圧し潰されたまま、朝まで眠る羽目になってさ。起きた時は、体中痛くて痛くて。ほーんと、マジで大変だったんだぜー?」


 全て話し終えてから、龍生に顔を向けると、先ほどまで笑って聞いていたはずの表情が一変していて、結太はギクリとした。


「え……。あれ? 龍生……?」


 龍生の顔を見た瞬間、結太は己の失敗に気付いたが、時すでに遅し、だ。

 能面のような、生気を感じさせない顔で、静かに結太を見返すと、龍生は抑揚(よくよう)のない声で訊ねる。


「朝まで……おまえの体に覆い被さっていたと言うのか?……咲耶が?」

「――う…っ!」



(ヤバい! 調子に乗って、言わなくてもいーことまで言っちまった!)



 結太は即座に後悔した。

 龍生は、体から負のオーラをウネウネと立ち昇らせ(結太にはそう感じられた、というだけだが)ながら、尚も訊ねようと口を開いた。


 その時、ノックもされていないのに戸が開き、


「結太さん、失礼しますっ! うちの坊ちゃん、こちらに――……っと。あー、よかった坊ちゃん! やっぱり、ここにいらしたんですね!」


 などと言いながら、東雲が入って来た。


「捜しましたよ、坊ちゃん! 珍しく、授業サボっちまったそーじゃないですか! 龍之助様に学校から連絡あって、俺が捜しに出されたんですけど……あー、ホントよかったー。ご無事で何よりです!」


 バイクに乗って来たのか、ヘルメットを小脇に抱えた東雲は、ホッとしたような笑顔を見せると、今度は結太に顔を向け、


「あっ、結太さん! ちょーどよかった! 訊きたいことがあったんですよ。実は俺、この前無人島に行って、小屋の様子見て来たんですがね。……何なんです、あれ? 一斗缶に、新聞紙で作ったよーな、服?――みたいのが捨てられてましたけど。もしかして、保科様と二人きりの夜に、あれ着て寝たんですかー?……けど、そーですよね。あの大雨じゃ、洋服ビッチャビチャだったでしょーし、服の代わりに何か着とかなきゃ、体冷えちまいますもんね?……ってことは、当然下着も……。んっふっふ。服っぽいのは二人分ありましたし、保科様も、当然下着脱いで、あれだけ身に付けて寝た……ってことですよね? そんじゃーさぞかし、我慢すんの大変だったんじゃないですかー? 保科様、ナイスバディですもんねぇ。あの体に、新聞紙で作った洋服っぽいの巻き付けただけじゃー、とてもじゃねーけど、体全体は覆い隠せなかったでしょーし……。カーッ! 堪んないっすねぇー! 男だったら、絶対襲い掛かりたくなっちまうシチュエーショ――」


「東雲ッ!!」


 病室内に響き渡るほどの大声で、龍生が東雲を制した。


「ひぃあッ!?――は、はいっ?……どっ、どーかなさいましたか、坊ちゃん?」


 慌てて訊ねる東雲に、龍生は氷の刃のごとき視線で睨み据えると、


「……おまえは黙っていろ」


 これまた、氷のように冷たい声で命じる。

 東雲はたちまち真っ蒼になると、『……はい』と消え入りそうな声でつぶやいた。

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