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主人公降格!? ~協力者のはずの幼馴染に主役の座を奪われました~  作者: 金谷羽菜
第9章

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第1話 咲耶、龍生に屋上へと連れて来られる

 龍生に手を引かれ、咲耶が連れて来られた場所は、校舎の屋上へと続くドアの前だった。


「こんなところに連れて来て、どうするつもりだ? 屋上は、鍵がないと入れないはずだろう?」


 咲耶に問われると、龍生はフッと微笑んで、抱えていた学ランのポケットから、屋上の鍵らしきものを取り出した。


「えっ? それ、もしかしてここの鍵かっ?……だが、普通は職員室で、使用理由を先生に告げてから、借りて来るものじゃ……」

「高校に入学して、少し経った頃だったな。担任に、ちょっとした仕事を頼まれてね。その時ここまで連れられて来られたんだが、しばらく鍵を預かっている間に、これは使えるなと思って……ちょっと、ね」

「『ちょっと』?」


 首をかしげる咲耶に、龍生は、悪戯(いたずら)を思いついた子供のように微笑む。


「入学直後は、周囲が色々とうるさくてね。やれ部活に入れだの、生徒会に入れだの……休み時間ごとに女子が教室まで来て、動物園のパンダよろしく、眺められたりもした。いい加減うんざりして、一人になれる場所はないだろうかと、ずっと探していたんだ。そんな時、ちょうどここの鍵を預かったから、ついでに合鍵を――」

「わざわざ作ったのか!? 合鍵を!?」

「フフッ。……まあ、そういうこと」


 平然と答える龍生に、咲耶は呆れてため息をついた。


「そんな顔しないでくれ。べつに、悪用しようってわけではないんだから。ここの合鍵を持っているのは、俺と結太だけだし、何の問題もないよ」

「えっ? 楠木も持ってるのか?」


「ああ、まあね。結太も入学したての頃は、クラスに馴染(なじ)めず、悩んでいたようだったから。『教室に居辛(いづら)い時は、これを使え』と渡したんだ。結局、俺の方は、この鍵を使う機会はほとんどなかったが、結太はちょくちょく使っているようだ。せっかく作った合鍵だしね。無駄にならなくてよかったよ」

「よ……よかったよ、って……」


 少しも悪びれた様子のない龍生に、咲耶は呆れ果てた。

 龍生はと言うと、そんな咲耶の様子を気にすることなく、合鍵を使って屋上のドアを開けている。

 そして振り返ると、『さあ、行こう』と、咲耶に片手を差し出た。


 この手を(こば)み、教室に戻ったとしても、とっくに授業は始まっている。

 途中から、コソコソ入って行くのも気が引けるので、咲耶は大きなため息をつくと、渋々彼の手を取った。



 屋上に出ると、二人は手すりに近付いて行って、何気なく校庭を見下ろした。

 一時限目から体育の授業があるクラスはないらしい。人影は全くない。


「静かだな。……フフッ。この俺が、授業をサボる日が来るなんて。今日まで思いもしなかったよ」

「それは私だって同じだ! 高校に限らず、授業をサボったことなど今まで一度もなかったのに……。おまえが手を引っ張って、こんなところに連れて来るからだぞ! いったい、どーしてくれるんだ!?」


 怒っているわけではないのだが、ほとんど無理やりサボらせられたようなものだ。

 何か一言くらいは言ってやらなければと、咲耶は龍生を軽く睨んだ。


 龍生は真顔で見返すと、


「サボることになったのは、俺のせいだと言いたいのか?」


 フェンスに背中を寄り掛からせ、小首をかしげる。


「当たり前だ! 本当にそうじゃないか!」


 咲耶は強気で言い返すが、龍生は余裕たっぷりの様子で腕を組み、少し意地悪く微笑んだ。


「ふぅん……。じゃあ咲耶は、あんなことがあった後の教室で、好奇の目に(さら)されたまま、俺に授業を受けろと? 服を脱がそうとしたり、裸の上半身に抱きついて来たりして、俺を注目の(まと)にした張本人が? サボる羽目になったのはおまえのせいだと、俺を責めるのか?」

「う…っ」


 痛いところを突かれ、咲耶は赤面して固まった。

 確かに、朝っぱらから龍生のクラスに乱入し、服を脱がせようとしたり、抱きついたりして、龍生を注目の的にしてしまったのは自分だ。

 むしろ、責められなければいけないのは自分の方だったと、即座に反省する。


「す……すまん。私が悪かった……」


 恥ずかしそうに目をそらし、素直に謝って来る咲耶が、しおらしく可愛らしい。

 瞬間、龍生のS心(エスごころ)にスイッチが入った。


 もっと意地悪なことを言って、咲耶を困らせたい。意外な反応を、違った一面を引き出したい。この前のように、怒りと恥ずかしさで涙目になる咲耶が、もう一度見たい。

 そんな欲望が、彼の心を(またた)く間に満たして行った。


 龍生は少し腰を(かが)め、咲耶の顔を覗き込むようにしながら、


「教室に戻ったら大変だろうな。咲耶の行動を見ていた者達は、クラス内外にたくさんいる。朝、咲耶が俺に何をしたかは、尾ひれを付けて言いふらされ、今日のうちに、学校中に広まるだろう。……フフッ。それこそ、『保科咲耶は痴女(ちじょ)だ』などと、噂されているかもしれないよ? だとしたらどうする?」


 からかうように笑ってみせると、咲耶は更に真っ赤になって、龍生を思い切り睨み付けた。


「な――っ! だ、誰が痴女だッ!! 失礼なことを言うなッ!!」

「フフッ。俺が言ったわけじゃないよ。そう言われていたらどうする?――って話をしているんだ。……あり得ない話でもないだろう? 君が俺の制服のボタンに手を掛け、上から外して行ったのは間違いないんだから」

「ぐ――っ!……う、うぅ……」


 悔しそうに歯噛(はが)みして、咲耶は龍生を睨み続ける。

 もう一押しと()んだ龍生は、更にたたみ掛けた。


「咲耶は、サボる羽目になったのは俺のせいだと責めるけれど、それはお(かど)違いだと思わないか? 俺としては、むしろ感謝してほしいくらいくらいだ。あの時俺が、〝自ら服を脱ぐ〟という選択をしていなければ、咲耶は確実に、痴女扱いされていただろうからね。その可能性を、少々弱める手伝いをしたんだ。感謝されこそすれ、責められなければならない理由など、どこにもないはずだ。……ねえ? そうは思わないか、保科咲耶さん?」


「う……ぐ……。むぅぅ~……!」


 咲耶の目にうっすらと、涙が膜のように覆い始める。

 潤んだ瞳と、ほんのりと薄紅色に染まった目の(ふち)が、ハッとするほど(あで)やかだ。

 からかっている最中だと言うことも一瞬忘れ、龍生は見惚れてしまいそうになった。


「だからッ!! さっき謝ったじゃないかッ!!……なのに、しつこくねちねちと責め立てて来て……。ほんっっ……っとーーーっっに、意地が悪いなッ、おまえとゆー奴はッ!?」


 見上げて来る、綺麗に澄んだ瞳。今にも涙がこぼれ落ちそうだ。

 その勝気な瞳が、悔しげな台詞が、堪らなく可愛らしく、愛しくて……。


 龍生はとうとう、我慢出来なくなった。

 咲耶の片手を取って引き寄せると、


「わっ!?……ちょっ、何をす――」


 最後まで台詞を言わせないまま、彼女の右頬に、そっと唇を押し当てた。

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