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主人公降格!? ~協力者のはずの幼馴染に主役の座を奪われました~  作者: 金谷羽菜
第8章

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第4話 結太、桃花の面会に胸をときめかす

 龍生が帰って行ってしまうと、桃花は恐る恐る、病室へと足を踏み入れた。


 ベッドの上の結太は、顔色もよく、かなり元気そうに見える。

 怪我の痛みは(やわ)らいだのだろうかと、桃花はひとまず、ホッと胸を撫で下ろした。


「い、伊吹さんっ。……あ……えっと、その……。きっ、来てくれてありがとうっ!」


 顔を赤らめ、結太はかなり緊張した様子だった。

 そんな彼を目にしたからだろうか。桃花の緊張は、逆に、少しずつ(ほぐ)れて来た。


「ううん。昨日は、来られなくてごめんなさい。ちょっと、他に用事があって……」


 そう言いながら、桃花はベッドに近付いて行く。

 結太は慌てて頭を振ると、


「あ、いやっ。用事があったなら仕方ねー――いやっ、仕方ないしっ。怪我も大したことなかったんだから、全然っ、気にしなくてダイジョーブだよっ!」


 などと言い、掛け布団を両手でギュッと握った。

 桃花はベッド脇まで来ると、ケーキの箱を示すように、結太の目の前に差し出す。


「あのっ、これっ。……えっと、一応ケーキ……なんだけど、手作りだから、日持ちしなくて……。ご、ごめんなさいっ。お見舞いに、日持ちしないもの持って来るなんて……。気が利かなくて、ホントに、わたし……」

「えっ! 手作りっ!?」


 クッキーに続き、今度はケーキとは!

 自分のために、そんな手間暇掛けた物をと、感激のあまり、結太は涙が出そうになった。


「だだっ、だっ、だっ、だいじょーぶっ! ぜぜっ、ぜんっ、全然っ、問題ねー……ないよッ!! この病室、ちゃんと冷蔵庫あるしっ! それにオレっ、腹ジョーブだからっ! 日持ちしねーもんだろーがカビ生えたもんだろーが――あっ! (くさ)ったもんだってヨユーで食えるしっ!!」


 勢いに乗って余計なことまで口走ってしまい、結太はハッと我に返った。

 見る間に赤面してうつむくと、桃花はクスッと笑って。


「さすがに、カビ生えたり腐ったりする前には、食べてほしい、かな……。お口に合わなかったら、仕方ないと思うけど……」


 予想外の笑顔に(はげ)まされ、結太は再び口を開いた。


「そんなっ、合わねーワケねーよっ! もし合わなくても、ぜってー合わせてみせるしっ!!――って、あ……」


 また余計なことを言ったと、結太は更に真っ赤になる。

 桃花はきょとんとしていたが、すぐに、クスクスと楽しそうに笑い出した。


「ふふっ。あ、合わなくても合わせてみせる、なんて……。ふふふっ。楠木くんて、そんな面白いことも言うんだね」

「……え。……『面白い』……?」


 面白いことを言ったつもりはないのだが、桃花が笑ってくれたので、これはこれで良しとしよう。結太は釣られて、へららっと笑った。

 桃花のためなら、ピエロにだって、猿回しの猿にだって、なれる自信はあるのだ。


「――あ。ええっと。よかったら、そこの椅子使って? さっきまで、龍生が座ってたんだけ……ど……って、あっ! 窓辺にソファがあるから、あっちのがいーかなっ?」


 受け取ったケーキの箱をサイドテーブルに置くと、結太はソファを指差した。

 桃花はふるふると首を振り、折り畳み式の椅子を手に取る。


「ソファじゃ遠いから、これ、使わせてもらうね?……でも、この病室……冷蔵庫も、大きめのテレビも……あっ。あれって、ノートパソコン? ちゃんと立派な机と椅子もあるし、応接テーブルとソファまであって……。改めて見るとすごいね。立派なホテルの一室みたい」


 キョロキョロと病室内を見回してから、ちょこんと椅子に腰掛けると、桃花は感心したようにため息をついた。

 結太もうん、と大きくうなずく。


「そーなんだよ! あっちには、ウォシュレット便座付きのトイレも、風呂もあって、横の洗面台にはシャワーも付いてるから、風呂入れなくても、そこで頭洗えるんだ。病院の個室なんて、オレみてーな庶民にゃ、なかなか利用する機会なんてねーからさ。ビックリしたよ。オレ、中三の時に、やっぱ脚怪我して入院したことあんだけど、そん時は四人部屋だったから、ますますその差に驚かされちまうっつーか……。龍生みてーな金持ちが幼馴染だったから、こんな経験させてもらえてんだよな。この怪我だって、龍生のせーでも何でもねーんだけど、妙に責任感じてくれちゃってて……。入院費用とかイロイロ、払ってくれてんだって」


「そーなんだ」


「でさ、この病室でも充分すげーなって思えんのに、これより上に、まだ〝特別室〟ってのがあんだって。そこは、ホテルのスイートルームか!――ってツッコミてーくれーに、豪華だって話でさ。きっとそーゆー部屋は、VIP(ブイアイピー)とかってゆー金持ち連中――あと、政治家やら芸能人やらが、利用する部屋なんだろーな。……ホント、世の中って、貧富(ひんぷ)の差がすさまじーよ。金のあるなしで、同じ病院利用すんのでも、そこまで差が出ちまうんだからさ」


「……う、うん……」


 しみじみとした様子で、格差社会を(なげ)く結太に、桃花はどう返していいのかわからず、小さくうなずくのみだった。

 結太はハッとしたように桃花に視線を戻すと、慌てて謝った。


「あっ、悪ぃ――じゃなくてっ、ごめん! 妙な話しちまって!……いや、ここは快適なんだけどさ。ただ寝てるだけの生活が続くと、普段考えねーよーなことまで、あれこれ頭に浮かんで来ちまって。ホント、楽しくもねー話聞かせちまって……ごめん」


 しゅんと肩を落とす結太に、桃花は首を振る。


 桃花は普通のサラリーマン家庭で育ったが、特にお金に不自由した経験などはない。

 結太の家は、母子家庭だと聞いているし、すぐ側に、あれだけ(けた)違いのお金持ちである龍生がいるのだ。普段から、その差について、いろいろと考えてしまうところがあるのかもしれない。


「――あ。え、えっとさ。このケーキ、見てもいーかな? ホントはすぐにでも食いてーんだけど、皿とかフォークとか、あるのかわかんねーし、この脚じゃ探せねーし……。でも、どんなケーキなのか見てみてーんだ。あの、だから……いーかな?」


 話題を変えようと思ったのか、結太はケーキの箱を指差す。

 気恥ずかしかったものの、興味を持ってくれているのは素直に嬉しかったので、桃花は即座にうなずいた。

 結太はパァッと顔をほころばせると、ケーキの箱に手を伸ばす。


 ――その時。


「結くーーーんっ! どーーおーーっ? お母様がいない間も、元気にしてましたかーーーっ!?」


 などと声を張り上げながら、菫が病室に入って来た。

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