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世界最強の魔女、始めました 〜私だけ『攻略サイト』を見れる世界で自由に生きます〜(Web版)  作者: 坂木持丸
第10章 呪いの館を手に入れてみた

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95話 想いを伝えてみた


「……………………」


 一方、屋敷の地下――最深部の書庫にて。

 静かな空間に、ぺら……ぺら……とページをめくる音だけが響いていた。


(……やっぱり、“いんたーねっと”なんて言葉、どの本にも書いてない)


 闇の女神ロムルーはふぅっと息を吐き、読んでいた本をぱたんと閉じる。


 ――いんたーねっと。


 それは、ローナの話では『神々の書架』のようなものらしいが。

 世界中にある本を読んできたロムルーですら、聞いたことのない言葉だった。


 さらに、ローナの口から出てくるのは――。



『人間を知りたい? それなら“べいぶれぇど”です!』

『最近、人間を知るために旅をしているエルフが“べいぶれぇど”に出会うという物語が、神々の間で大人気で――』

『“べいぶれぇど”で一番人気なのは、この“ふりすびー”なんですよ!』



 ……どれもこれも、ロムルーの知らない話ばかり。


 いったい、“いんたーねっと”とはなんなのか。

 そして、あの少女はいったい何者なのか……。

 と、ロムルーがちょうどローナのことを考えていたところで。



「――こんにちはーっ!」



『ビクゥッΣ(・ω・ノ)ノ』


 当の本人が、いきなり壁の中から顔を出してきた。


『Q.な なんで いつも壁から?』


「え? ああ、壁抜けすると近道できるので」


『(´・д・)??』


 あいかわらず、意味がわからない少女。

 ロムルーは世界中の書物を読んできたし、知らないことはほとんどないとさえ思っていた。


 それに、ロムルーには人間の思考をも読むことができる“神眼”もある。

 しかし、その神眼をもってしても……この少女のことは、わからない。


 ロムルーの神眼が()る“ローナの頭の中”は、いつも――。



 ――――“宇宙”だった。



 無限に広がる大宇宙だった。

 なにも考えていなかった。考えることをやめていた。


 ……いや、たまにダンスしている猫のこととか考えていた。

 大宇宙をバックに、謎のノリノリの音楽とともに猫がめちゃくちゃダンスしていた。


 …………ありえない。

 普通、女神を前にすれば、もっとこう……なにか考えるはずだ。


 とくに、闇の女神は嫌われている。

 闇の女神は、生きとし生けるものに死を与え、死者の心を読み、死者の罪を裁き――死者を地獄に突き落とす存在。


 いわば、闇の女神とは、生物にとって“死”そのものなのだ。

 ゆえに、ロムルーを前にした生物は、本能的に恐怖し、嫌悪し、憎悪する。


 たとえ態度に出さずとも、ロムルーにはその感情が読めてしまう。

 それなのに、ローナにはそういった感情がいっさいなかった。


 それどころか、神と邂逅することに慣れているとでも言うかのように……ローナの頭の中は、昼下がりのコーヒーブレイクとなんら変わらない平穏さだった。


 ……初めてだった。

 闇の女神を前にしても、ダンスしている猫のことを考えている人間は。


 それが、あまりにも衝撃的で――。

 初めてローナを見たとき、思わず(テーラ)を前にしながら、しばらく硬直してしまったほどだ。


 とはいえ、だからだろう……人間が苦手なロムルーが、ローナというひとりの少女に興味を抱いたのは。



「――さん? ロムルーさん、聞いてますか?」



「……?」


 と、ローナがなにか話していたのか、思考の海に沈んでいたロムルーが現実に引き戻される。


「えっと、今、みんなで“ばーべきゅぅ”をしてるんですが……ロムルーさんもどうかなって思いまして」


『???』


「あっ、“ばーべきゅぅ”というのは、みんなで肉や野菜を焼いて食べる神々のパーティーです。ロムルーさんはやったことありませんか?」



『(´・ω・`) ショボーン』



「じゃあ、せっかくですし、一緒にやりましょう! きっと、たくさん人がいたほうが楽しいので!」


「………………」


 “ばーべきゅぅ”に、興味は――ある。

 もともとロムルーは本好きなだけあり、好奇心はかなり強いほうだ。

 ローナの頭の中にある食べ物も見たことがなくて。おいしそうで。


 それでも……ためらう。

 自分が輪に入ったら、きっと空気が悪くなるのではないかと。

 人の前に出たら、たくさんの恐怖や嫌悪をぶつけられるのではないかと。


 それが怖いからこそ、ロムルーは――闇の女神としての仕事から逃げて、この書庫にずっと閉じこもっていたのだから。


『【悲報】余はいないほうがいい件』


「? なんでですか?」


『A.余は 嫌われてるンゴ

   死をつかさどる ネ申(かみ)だから』


 ……闇の女神は、嫌われ者だ。

 神話をモチーフにした物語などでも、いつも悪者として扱われる神。

 あまりにも信仰されなくて、真っ先に力が弱まった出来損ないの神……。


 そんなのは、この世界で生きているのなら常識的な話なのに。

 しかし、ローナはきょとんとして。


「死の神? うーん、よくわからないですが、大丈夫ですよ。だって――」


 まるで、当たり前のことを言うように、告げるのだった。



「――“死神”は人気の萌え要素だって、インターネットに書いてあったので!」



「………………」


 ちょっと、なにを言っているのかわからなかった。


 ここまで、ロムルーが『わからない』と感じるのは初めてで。

 それなのに、それがまったく不快ではなくて。

 ロムルーは思わず、くすりと笑ってしまう。


 ……やっぱり、変な人間だ。


 こんな人間もいるなんて、今まで知らなかった。

 そんなこと、どの本にも書いていなかったから。


 いや――あるいは。

 今までも、わずかな人間だけを見て、本の中の人間だけを見て。

 人間の全てを理解した気になっていただけなのかもしれない。


 だから……もっと、知りたいと思った。


 本には書かれていない、本当の“人間”のことを――。


「あっ、それにロムルーさんには、ファンもたくさんいますよ!」


『Q.ええー? ほんとにござるかぁ?』


「はい! インターネットには、ロムルーさんの“実装”を待つファンたちのお手紙もあるんですよ! たとえば――」


 そして、ローナは読み始める。

 誰からも愛されていないはずの、ひとりぼっちの少女への言葉を。

 本来ならば、ロムルーに届くはずのなかった数々の“想い”を――。

 



『ロムルー! ロムルー! ロムルー! ロムルぅぅうううわああああああああああああん!!』

『あぁクンカクンカ! スーハースーハー! いい匂いだなぁ……くんくん、んはぁっ!』

『モフモフしたいお! モフモフ! 髪髪モフモフ! きゅんきゅんきゅい!!』

『ロムルーたんかわいいよぅ!! あああ……あっああああ!! ふぁぁあああんんっ!!』

『……え!? 見……てる? 画面の中のロムルーちゃんが僕を見てる? いやっほぉおおおお!!』

『ううっうぅうう!! 俺の想いよロムルーへ届け!! エタリアのロムルーへ届け!』




 やがて、“想い”を伝え終えたローナは、ひとつ息を吸うと。

 ロムルーに向かって、にこりと微笑みかけた。


「――と、このような好意的な声が、まだまだたくさんあるみたいです!」



『((((;゜Д゜))))ガクガク』



 やっぱり、人間って怖いと思ったロムルーであった。




         ◇



『(´Д`)』


「え、えっと、ロムルーさん大丈夫ですか? 日光で溶けそうな顔文字(かお)してますが……」


『A.もうだめぽ』


 結局、ローナの勢いに負けて、ロムルーはひさしぶりに外に出ることになった。

 それも夕方とはいえ、日がまだ出ている時間に外に出たのなんて、数百年ぶりかもしれない。


 そして、外に出てみて、まず驚いたのは――。


『【朗報】屋敷が綺麗すぎる件www』


「え? ああ、今日お掃除したんですよ!」


『?』


 さすがに、たった1日で掃除できる規模ではなかったはずだが……。

 と、ロムルーは周りを見て――気づく。



「じゃふぅ~っ! うまい肉じゃ! いかにも肉って肉じゃ! この“ばーべきゅぅソース”というのは最高じゃの! こっちの“焼肉のタレ”も捨てがたいがの!」


「くくく……“まよねぇず”と……“ばーべきゅぅソース”……」

「……光と闇が両方そなわり……まさに最強……」

「ほぅ、“まよねぇず”のよさがわかるとは。そこだけは認めてやろう」


「……さすが、ローナ。今回のも面白いパーティーの形式ね。このソースは絶対に流行りそうだけど……火の粉や油が跳ねるから貴族向けだと……騎士や冒険者向けなら……」


「――ん? あれ、ローナ? 今までどこ行ってたのさ」

「あっ、ちょっとロムルーさんを呼びに」

「……ロムルー? なんか、闇の女神と同じ名前だけど……うん、あたしはなにも聞いてない」


「げぇっ、ロムルー!? お、おぬしの席ねぇから!」



 ……ここには、たくさんの人がいる。

 おそらく、彼らがローナのために掃除を手伝ったのだろう。


 ひとりの少女のもとに集まった、多種多様な人々。

 本来ならば、交わるはずではなかった運命たち。


 どうやら、ロムルーが書庫にこもっている間に、ひとりの少女を中心にして、神も知らない物語が動きだしていたらしい。


 それが世界にとってよいことなのか、ロムルーにはわからないが……。


「おいしくなーれ、萌え萌えきゅん♪」


『(゜д゜)ウマー』


「えへへ、“メシウマ”ですね!」


 この少女の物語をすぐ側で読んでみるのも、また一興だろう――。



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― 新着の感想 ―
[良い点] ロムルーたんはこってりしたオタクから人気がありそう。 [一言] いにしえのルイズコピペと比較的最近の猫ミームが混ざって最強に見える。
[良い点] ピオハイイゾ
[良い点] ルイズコピペニキェ… 何はともあれロムルーちゃんが幸せになれます様に [一言] ロムルーが起き上がり仲間になりたそうにこちらを見ている。仲間にしますか?  はい →いいえ ロムルーは悲しそ…
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