92話 コピペをしてみた
――“こぴぺ”。
それは、神々が筆談のために創造した文字を操る魔法である。
インターネット上では、基本的に筆談することしかできないが……。
やはり筆談のみだと、相手がどういう気持ちかわからなかったり、返事に時間がかかってしまったりと、さまざまな問題が生じてしまう。
そのため、神々は創造したのだ。
顔文字を。絵文字を。ゴッドスラングを。ゴッドミームを。構文を。アスキーアートを……。
「――つまり、“こぴぺ”をすれば、文章を毎回考えなくてもスムーズに“想い”を伝えることができるというわけです!」
『\(^o^)/ヤッター』
そう、筆談しかできないのなら――筆談を快適なものにすればいいのだ。
なんでも、神々は“こぴぺ”だけで会話することも可能だというし。
むしろ、『口で話すより筆談のほうがいい』という神々も多いのだとか。
ちなみに、闇の女神ロムルーもインターネットをご存知でなかったが……。
(昔の神様はインターネットを使えないことも多いんだね。うーん、こんなに便利なのになぁ)
神々にも世代間ギャップがあることを学んだローナであった。
それはともかく、実際の筆談で“こぴぺ”をどう再現するかについてだが。
「あらかじめ“頻繁に使いそうな言葉”を書きためておいて、“想い”を伝えたくなったらそのページを開けばOKです!」
『m9(^Д^)プギャー』
「それ、われに頻繁に使うつもりなの?」
「ちなみに、“w”とつけると、笑っていることを手軽に伝えられるそうです!」
『m9(^Д^)プギャーwww』
「さっそく使いこなすのやめよ?」
「えへへ。これで筆談がスムーズになりましたね!」
「そうじゃな。こんなにスムーズに煽られたのは初めてじゃ」
ちなみに、ロムルー自身も“こぴぺ”を使うのはかなり乗り気のようであり。
『ぬるぽ(挨拶)』
「ガッ」
「……っ!」
あいかわらず表情は乏しいが、心なしか目をキラキラさせて、さまざまな顔文字やゴッドスラングを本に書きためていた。
『φ(・ω・`)カキカキ』
「えっと、どうですか? “こぴぺ”は使えそうですかね?」
『⊂二二二( ^ω^)二⊃ブーン』
「えへへ、そう言ってもらえてよかったです!」
「……よかったのか? 本当にこれでよかったのか? われらはなにか選択を間違ってしまってはおらんか?」
「? でも、神様ってだいたいこんな感じですし」
「そんな世界は嫌じゃ」
なにはともあれ、これでロムルーと意思疎通がしやすくなったのは、たしかだ。
さらには、“こぴぺ”のおかげで一気に親しみやすさも増した。
(うん! これが“こぴぺ”の力なんだね!)
やはり、神々が創造した“こぴぺ”は偉大であった。
まあ、神としての威厳とかは、どこかに吹き飛んだが。
というわけで、筆談の問題も解決したところで――。
『称号:【闇女神の使徒】を獲得しました』
「……ん?」
いきなり、そんなメッセージがローナの視界に表示された。
「あれ、なんだろうこれ……? 称号? 闇女神の使徒?」
そういえば、以前、光の女神ラフィエールと初めて会ったときも似たような称号が手に入ったが。
と、ローナが顔中に『?』を浮かべていると。
『【朗報】その称号、余からの感謝の証だった件www【圧倒的感謝】』
ロムルーがもじもじと顔を本で隠しながら、そう伝えてきた。
「感謝の証?」
「…………(こくこく)」
「ふむ、こやつが使徒を作るなど珍し――」
「えっと、それって……具体的にどういうメリットがあるんですか?」
「……!?」
「お、おぬし、人の心とかないんか……?」
「えっ!? い、いえ、あの、そうじゃなくて。使徒って、なんなのかわからなかったので気になって……あと正直、なんだか面倒くさいことになりそうだなぁ、と」
そう、ローナは結果的に世界を救ったりもしているが……。
あくまで自由に楽しく生きたいだけなのだ。
神の使徒として崇められたいわけでも、世界を救うために生涯を捧げたいわけでもない。
『>>ローナ氏
オウフwww安心するんだおwww
それはwwwただのwww
仲良くなったwww証wwwwww』
「なにわろてんねん」
「あっ、なるほど。“フレンド登録”みたいなものなんですね。それなら私も大歓迎です!」
「……おい、本当にフレンドでよいのか? こやつ、口調がそれなりにうざいぞ?」
『>>ローナ氏
ちなwww余の使徒になるとwww
闇属性の力がwww強化されるンゴwww 』
「属性が、強化……あっ、そういえば! 光の女神ラフィエールさんの使徒になってから、プチヒールをするとビームが出るようになったんですが……もしかして、それも?」
『A.知らん……なにそれ……怖……』
「ひとつの謎が迷宮入りしたのじゃ……」
それはそうと。
“こぴぺ”のやり取りを通して、ロムルーとも仲良くなれたことだし。
「あっ、そうだ、ロムルーさん。私たち、この家に住みたいと思ってまして……」
『詳細キボンヌwww』
というわけで、ローナはここに来た目的などを改めて説明することにした。
ロムルーの登場もあって、だいぶ脱線してしまったが……。
そもそも、ローナたちがここまで来た目的は、『この家に住むため』なのだ。
この家を住めるようにするためにも、この家の怪奇現象やモンスターの発生を止めるためにも、ここにある迷宮核を取っておきたい。
ついでに、テーラもすでに邪神活動はやめて、今はただ地上を観光しているだけであり……。
というようなことを、丁寧にロムルーに話してみると。
『(`・ω・)b』
「わーい」
思ったよりもあっさり、この家に住む許可をもらえた。
どうやら、ローナを完全に信頼してくれたらしい。
あるいは――。
「…………(じー)」
「?」
ローナという珍妙な生き物を観察したい、というような理由かもしれないが。
なにはともあれ、管理神のロムルーのお墨つきが得られたことだし。
これで心置きなく、この家に住むことができるだろう。
「えへへ! ありがとうございます、ロムルーさん!」
「ふんっ。まったく認めるのが遅――」
『※ただしテーラ 貴様はダメだ』
「!?」
そんなこんなで、いろいろと波乱もあったが。
こうして、ローナは無事に我が家を手に入れたのだった――。










