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57話 船旅してみた②

「いやぁ……まさか嬢ちゃんが、あの“アクアスの奇跡”を起こした“大天使ローナちゃん”だったとはなぁ」


「だ、大天使ローナちゃん?」


 大海獣シン・サーペントを倒したあと。

 ローナが乗客たちと話していると、なにやら変な言葉が耳に入ってきた。


「ここいらじゃ有名だぞ? いきなりふらっと港町アクアスに現れたかと思えば、レアモンスターの素材を大量納品したり、エリアボスを一撃で倒したり、たった1日で城壁やモンスターの自動討伐装置を作り上げたりして、町を救ったとか」


「ま、まあ、そんなことをやった気もしますが……」


「さすがに、眉唾もんの噂だと思ってたけど、さっきの魔法を見たらなぁ」


 などと話をしている間に、ちょうど昼時になり。

 ローナのお腹から、くきゅるるる……と頼りない音が鳴った。


「あっ、お腹がすいたのかい?」


「え、えっと、はい」


「ビスケットとキャベツの酢漬けぐらいしかないが食うか?」


 孫娘を見るような温かい目で、ローナにお菓子や保存食をわたそうとする乗客たち。

 ローナは少し顔を赤くしながら、手をぱたぱたと振る。


「い、いえ、大丈夫です! お弁当なら持ってきてるので!」


 そう言って、ローナはアイテムボックスに入っていた料理をぽんぽんと取り出してみせた。



「「「…………は?」」」



 その場にいた船乗りや乗客たちが、思わずぽかんとする。


「あ、あれ、今どこから……?」


「いや、それよりも……」


 乗客たちの目が、ローナの前にいきなり現れた料理へと向けられる。

 料理がどこからともなく出てきたのもおかしいが……問題は、出来立てのように料理がほかほかと湯気を立てていることだ。


 船の中では揺れもひどいし燃料も貴重なため、あまり火を使うことができない。そのため、船旅の途中は湿気たビスケットやキャベツの酢漬けぐらいしか基本的に食べるものがなく、温かいスープというのはそれだけで貴重なものであり――。


「ん~♪ おいしい♪」


「「「…………ごく」」」


 ローナは周囲の人々の視線に気づかず、おいしそうに料理を頬張る。

 それも、ちょうどお腹がすき始める時間帯であり……。


「じょ、嬢ちゃん! まだそのスープはあるか?」


「言い値で買うぞ!」


 と、乗客たちがローナのもとへと押し寄せた。

 さらには。


「そのスキルは、どれだけのものを持ち運べるんだ!?」


「君、うちの商会で働かないか!?」


「おい、抜け駆けはずるいぞ!」


「え? え?」


 船に乗っていた商人たちもローナのもとにつめかける。

 この船にいる者の中には商人も多い。そもそも、この定期船そのものが商船でもあるのだ。そのため、ローナのアイテムボックスの有用性に気づかない者は、この場にはほとんどいなかった。

 亜空間への物の収納。それも入れたときの状態で時間を止められるらしいとくれば、もはや輸送の革命だった。やろうと思えば密輸や脱税もやりたい放題だろう。

 さらには、巨大なモンスターを一撃で倒せるほどの戦闘力もあり、商店にいれば看板娘としても人気になりそうな愛嬌があるとくれば……商人たちが目の色を変えるのも無理もないことだったが。


「え? あの……?」


 もともと世間知らずなうえに、常識をインターネットから学んでしまったローナに、あまりその自覚はなく……。


「まーまー。みんな、その辺にしときなよ」


 やがて、行商人風の少女が、仲裁するように間に入ってきた。


「冒険者を無理に勧誘したり、手の内を探ったりするのは、マナー違反でしょ? 冒険者ギルドに睨まれたら商売できなくなるよ」


「う……そうだな。すまん、嬢ちゃん」


 と、ローナにつめ寄っていた商人たちが、たちまち大人しくなる。

 我を忘れていただけで、もともと分別のある商人たちだったのだろう。


「えっと、ありがとうございます? その……」


「あー、あたしは行商人のコノハ。よろしくね、ローナ」


「……コノハ?」


「ん? どうかした?」


「あっ、いえ! よろしくお願いします、コノハちゃん!」


 と、握手をかわす。

 同年代の少女ということもあり、なんだか仲良くできそうな雰囲気があった。

 それはそうと。


「あっ、そうだ。料理ならたくさんありますし、みなさんで食べませんか?」


「「「お、おおっ!?」」」


 ぽぽぽぽんっ! と、ローナが次々に料理を出していく。

 その様子に、商人たちは顔を見合わせ――。


「なにはともあれ……」


「食べるか!」


 こうして、船上はたちまち宴会のような騒ぎとなった。

 乗客たちも自分たちの食べ物を持ち寄り、吟遊詩人が歌い、踊り子が舞う。

 そんな陽気な喧騒の中――。



「…………ご報告を。監視対象と無事に接触できました」



 宴の輪から外れたところで。

 通信水晶にこそこそと話しかけている不穏な人影があった。

 先ほどローナに話しかけた行商人少女コノハだ。

 その視線の先にいるのは、宴の中心にいる監視対象――ローナ・ハーミット。


「……たしかに、凄まじい力ですね。シン・サーペントを一撃で倒せる者がいるなんて、あたしのデータにはありませんでした」


『ああ。やつの力は、我が国にとって危険だ。野放しにしておくわけにはいかん。やつを排除するためにも、徹底的に情報を調べ上げるのだ』


「はい、任せてください。ただ――」


 コノハはにやりと笑う。


「べつに、あたしがあれを倒してしまっても、かまわないんですよね?」


『ふっ、我が国きってのスパイである貴様ならば可能かもしれんな。しかし、忘れるな』


「しくじれば、すぐに自害――ですよね」


『……ああ。結果を残せ。それが貴様ら道具の存在意義だ』


 そんな短いやり取りを済ませると、すぐに通信が切れた。


(さて、と)


 コノハは手袋を外して、中に入っている小さな石板を取り出す。

 スパイ道具のひとつ――小型のステータス鑑定の石板だ。

 先ほど握手をしたときに、手袋に仕込んでおいて、ローナのステータス情報を吸い出したのだ。

 かなり貴重な使い捨てアイテムを消費してしまったが、それに見合った情報は得られただろう。


(……ローナ・ハーミットか。思ってたより隙だらけだね。たしかに、すごい魔法を使うようだけど……あれなら、なんとでもなる)


 そう、この世は、情報(データ)を制した者が勝つのだ。

 相手がどれだけ格上だろうと関係ない。データさえ手に入れば、いくらでも攻略法を組み立てることができる。


(にはははっ! さあ、見せてもらうよ。あなたのデータを――っ!)


 そうして、ローナのステータスを確認し……。



――――――――――――――――――――

■ローナ・ハーミット Lv68

[HP:564/564][MP:98120/432]

[物攻:430][防御:3025][魔攻:3877]

[精神:6041][速度:440][幸運:629]


◆装備

[武器:世界樹杖ワンド・オブ・ワールド(SSS)]

[防具:水鏡の盾アイギス(S)][防具:終末竜衣ラグナローブ(S)]

[防具:原初の水着~クリスタルの夜明け~(SSS)][防具:猪突のブーツ(B)]

[装飾:エルフ女王のお守り(A)][装飾:身代わり人形(F)]


◆スキル

[インターネット(SSS)][星命吸収(テラ・ドレイン)(SSS)][エンチャント・ウィング(S)][猪突猛進(B)][リフレクション(S)][水分身の舞い(SSS)]

[魔法の心得Ⅹ(C)][大物食いⅣ(D)][殺戮の心得Ⅴ(D)][竜殺しⅠ(C)][錬金術の心得Ⅴ(D)][プラントキラーⅠ(F)][スライムキラーⅠ(G)][フィッシュキラーⅢ(E)]


◆称号

[追放されし者][世界樹に選ばれし者][厄災の魔女][ヌシを討滅せし者][終末の覇者][女王薔薇を討滅せし者][雷獅子を討滅せし者][近海の主を討滅せし者][暴虐の破壊者][水曜日の守護者][原初を超えし者][大海獣を討滅せし者]

――――――――――――――――――――



「………………………」


 コノハは無言でフリーズしたのだった。



20時にもう1話更新します。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 女商人で思い出しましたけど、アリエスの町が美少女揃いだったのってやっぱりクトゥルフ神話ネタだったのかな? 何も言及されずにサラッと終わったから気になるw
[良い点] おっしゃる通り、情報は大事だ 勝てない敵に挑まなければ、常勝無敗を維持できるしな
[一言] まさに桁違いw
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